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-------------●ここは鋼の錬金術師「ロイ×エドSSリレー企画」の二次創作サイトです♪●-------------※全ての画像・テキストの無断掲載持ち帰りはしないでください・初めての方は「about」をお読みください※since07/10/25
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コールドレイン第11話
 
 
「さしずめ、囚われのお姫様を救いにきた王子様ってところかしら?」
 
窓から外を伺っていたフィオレッナが、ゆっくりとエドワードに振り返る。その笑みを浮かべた赤いルージュが、エドワードには酷く恐ろしいものに感じて。
 
可憐な深窓のお嬢様という仮面の下は、まるで贄を狙う魔物のようだ。
 
 
「あんた、……ロイに何をさせようっていうんだ」
 
ロイと共闘してコルネオ家を乗っ取るつもりなのか?
それとも、自分の手は汚さず父親であるファルザーノをロイに殺させるつもりなのか……?
それとも。
ただ単にロイだけが狙いなのか?
 
ロイを、俺を……どうするつもりなんだ…っ!
 
 
強い光を宿して金色の瞳がフィオレッナを睨む。
だが、そんな眼差しさえも彼女を喜ばすことにしかならない。
 
まあ、なんてきれいなのかしら…。
 
「ふふ…意志の強い子は好きよ。でもね、間違えないで。あなたは、私のお人形さんだということを」
 
フィオレッナの指がエドワードの顎に触れる。
瞬間、振り払おうとするが。
 
え?! な、何……?
 
振り払えない。いや、顔を動かすことができないのだ。しかも、気が付けば顔だけじゃない。
体が、指すら動かない。
 
「ふふ、効いてきたわね」
―――効いてきた?
「あなたが食べていたケーキにね、ちょっとコルネオ家秘伝のお薬を入れさせてもらったの」
―――薬?
「すっかり油断していたでしょ? ダメよ、そんなに簡単に人を信用してはね」
―――信用、していた訳じゃない。でも……。
「ほんの僅かな隙が命取りになるって事を、よく覚えておくことね」
 
フィオレッナの声ははっきりと聞こえるのに、エドワードの視界は霞がかかったように揺らいでいく。
 
そうだった。こいつは敵なんだ…ロイを陥れようとするファルザーノとどこが違うんだ。
ロイに危害を加えないなんて保障はどこにもないんだ!
 
不安と恐れが一気に押し寄せて、けれど最早エドワードにはどうにもできない。
 
「ああ、大丈夫よ。聴覚だけは無事だから、とってもよく聞こえてよ」
 
ゆったりと笑みを零すフィオレッナは壮絶なまでに、美しい。
戦神アテナが地上に降臨しているのかと錯覚を起こすほどに、彼女は美しいのだ。
 
「肝心なところで、あなたに邪魔をされるのは困るの」
―――俺が邪魔? あんたロイに何をする気なんだっ
 
そして、戦う女神の瞳が細められて厳しい光が宿る。
 
だって、あなたはロイ・マスタングの危機を黙って見ているなんてできないでしょ? 肝心なところで邪魔は困るの。
でもね、あなたは私の大切な切り札。
 
「可愛いお人形なのだから、充分に役にたってもらわないと…うふふ」
 
 
視界が、一切の光が消えて。
聞こえてくるのは、フィオレッナの笑い声だけ。
 
聴覚以外の四感が完全に、エドワードから失われた。
 
 
 
そして、そこに在るのは―――大きな人形が一体。
 
 
フィオレッナが扉の向こうを見据える。ゆっくりと、赤いルージュが弧を描く。
 
 
「さあ、宴を始めましょう」
 




すっ、すすすすみませんっ!
どうしても一服盛りたくて(爆
あとは頼んだぞ、友よ!(←このフルすぎる台詞にピンと来た人は同世代・笑)
まいこ
 
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見上げる空の鈍色は未だ陽光の兆しすら見えないほどの重たさで。けぶるように降り続ける細かい雨も街を灰に染めるだけ。
ロイはそんな街の風景をただじっと見つめていた。車窓のガラスにぶつかった雨のしずくが長く筋を引いて後方へと流れていく。一筋、また一筋と流れる雨の跡をロイは睨むような視線で見続ける。
――あの日も、こんな雨だった。
雨に打たれ続けていたエドワード。
あの時はそれが正しいと思っていた。見合いも結婚も未来を掴むための一つの手段。その道を進むことを決意するのなら、手を離して自由にしてやることこそ彼のためだと、こうすることがお互いのためなのだと心のどこかで言い訳をして。けれど、その結果は……。
ロイは車の後部座席でいつものように腕を組み、そうして今度は目を閉じる。浮かぶのは生気のない顔で人形のように座らされていたエドワードのその顔だ。ロイが想いに沈みそうになった時に控えめな声がロイに掛けられた。
「大佐、間もなくコルネオ家に着きますが……」
車のハンドルを握っているのはロイの部下の一人であるハボックだった。
「ああ、了解している。……すまんな」
思わず零したわびの言葉に、その部下は苦笑した。
「任務のうち……と言いたいところですけどね。俺の私情も入ってますから謝罪なんかは不要です。それより、ちゃんと大将奪い返してきてくださいよ」
お願いしますと告げてきた口元には火の付いていない煙草が銜えられていた。
ロイは「貴様に言われるまでもない」と返事はしたものの、漆黒の瞳に浮かぶのは口調とは正反対の穏やかな色だった。そうだ、後悔などは後でいい、今はただ、目的を果たすのみ。彼をこの手に取り戻す。全てはそれから。どんな結論をエドワードが選んだとしても、このままコルネオ家のおもちゃなどにはさせやしない。ロイはもう一度決意を固めなおす。
「俺は手筈通りに待機してますが……。あの家に乗り込めるのは大佐おひとりですから。くれぐれも気をつけてください」
コルネオの屋敷が視界に入り、ハボックは車の速度を減速させた。屋敷の入り口では出迎えであろう黒服の男が直立不動の姿勢をとっている。その姿を視界に止めて、ハボックはアクセルペダルから足を離しブレーキペダルを踏みこんだ。ゆっくりと停止をすれば黒服の男は傘を広げてロイを出迎える。
「ようこそ。お待ちしておりましたマスタング様」
慇懃に告げられたその言葉にロイは「ああ、ごくろう」と一言だけ告げた。
「お嬢様がお待ちです。どうぞこちらへ……」
ロイは一瞬だけハボックへと目線を向ける。ハボックは「ういっす」と短く返事をすると再び車を発進させた。
ロイは、足を止めて屋敷を見上げる。すると、窓辺に佇んでいた女性がいるのに気がついた。雨によってその女性が誰かなのまでは目視ができなかった。が、その視線の鋭さに、ロイはふっと笑みを浮かべる。
……二度目はない。決して次はあのような無様な真似はしやしない。
戦って、そして勝つためにロイは再びこの屋敷にやってきたのだ。


一方、窓辺からロイの姿を見降ろしていたフィオレッナも。ロイ同様に口元に笑みを浮かべていた。
「ようこそ、ロイ・マスタング。私も私の人形も貴方が来るのを心待ちにしておりましてよ。……さあ、宴を始めましょう」
うふふという笑い声も、宣言のように告げた言葉も。ロイの耳には届かなかったけれど。
それは「来るべき日」の開幕の合図。
雨が上がるのを待つのではなく。自らの手で陽光を掴み取るための。



ロイは一歩一歩踏みしめるように歩を重ね、そうしてコルネオの屋敷へと入って行った。






お話は進んでいませんが、なんか久しぶりだったので、対決へ向けての前ふりみたいなものを……と。リレーなのに9話、10話と連続で書いてごめんなさいーーーーー許してねと言いつつ脱兎で逃げるノリヲです。
コールドレイン本編1~9話までの筋に添った(つもり)お遊びな番外編です。
掲示板に遊びでUPしていたのですが、こちらにUPしても良いよ~というメンバーの優しいお言葉に甘えて、一本にまとめてUPしちゃいました♪
本編のイメージと程遠いですので、とりあえず折りたたんでの掲載です。
笑って読み流してくださいませ(汗

まいこ
ロイの焦りは日に日に増していく。もはや焦燥と言っても過言ではないほどに。報告されたコルネオ家の資料。それはファルザーノに関してのみの報告であり、その娘に関してなどさほど重要視されてはいないものだけれども。けれど、ロイは自身の敗北という形でフィオレッナを知った。何度も読み直す。報告書類を。些細なことで構わない。彼女からエドワードを取り戻す、そのきっかけでも何でもいい。探してみせる。付け入る隙を。半ば捨て身で切り込んでいったというのに。ファルザーノという父親の駒でしかないと侮っていたフィオレッナにしてやられた。負けは負けだ、それは認めよう、だが、試合が終わったわけではない。このままでは終われないのだ。少なくともエドワードをフィオレッナの人形のままにしてはおくことなどできはしない。コルネオ家の手中から取り戻さなければ。コルネオ家に対するけん制などその後でいい。自らの判断ミスから招いたような事態なのだ。エドワードを取り戻すのは最優先事項でしなければならないこと、だ。
「エド…ワード……っ」
冷たい雨の中、それでも自分を待っていてくれた彼を想う。そして、美しいドレスを着せられて人形のように眠らされていた彼も。
これは、己の心の弱さが招いたこの結果なのだ。
離れたほうがいいと思った。共に歩めば彼を苦しめるだけなのだと、そう判断した。 けれど……。
――そうやっていつまでも逃げているがいいわ、ロイ・マスタング。情けない男ね。この子を心の底から捨てることもできず、ただ、相手の幸せのために身を引いたなんて似非ロマンチシズムに浸るのがお似合いよ。『別れても愛しているのは君だけだ』なんて自分に酔ったセリフでも言うつもりだったんでしょ?笑わせないで。そんなのは捨てる方の勝手な言い分だわ。身勝手な理屈であなたの都合に振り廻されたほうがどれほど傷つくと思うの?それを受け止めることもできやしないクセに。
突きつけられた容赦のない言葉。
それに胸はえぐられる。が……。

何故手放せば幸せになると思い込んでいたのか。
どうしてこのような結果を招いたのか。
彼のため、などというのはフィオレッナの言う通りに勝手な言い分で……逃げていただけではないのか。

共に、手に入れることを考えるべきだったのに。
こんなふうに奪われてから、そのことにようやく気がつくとは……。
「こんな情けない男は……君の方から見捨てられても仕方がないな……」

別れを、言葉にして告げたわけではないけれど。あの雨の中、来ない私をただ、待っていただけのエドワードには、きっと私の思いなどとっくに知られてしまっているのだろう。

けれど。
嘆くのは後でいい。
悔やむのも今ではない。

エドワードをフィオレッナの手の内から取り戻して、そして……たとえそこでエドワードから見限られたとしても。

このまま、尻尾を丸めて退場するわけにはいかないのだ。

エドワードを取り戻す。どんな手段を用いようとも。大切なものを二度と失わないために。



「……なあ、もう、食えねーんだけど……」
テーブルの上に並べられているのは、山のような美食の数々だ。オードブルに始まってメインディッッシュ、デザートに至るまで繊細な盛り付けは「聖餐」と言ってもいいほどだ。前菜からデザートまで隙など全くないのである。が…。
グリーンピースのクリームスープのカプチーノ仕立てなどは味のみなら喉越しまで滑らかで。パンチェッタで巻いた黒豚フィレ肉のポワレの新ジャガイモのブレゼ添えはフルーツチャツネソースかけてお召し上がりください、などと給仕の者から言われ仕方なしにその通りに口に含んだ瞬間に、豚なんかより牛のステーキの方がいいのにな~などという発言は速攻撤回した。シャンピニヨンと赤ピーマンのペルシヤード、卵のポッシェとラヴィオリだとか的鯛とバジルノクレピネット、南瓜のカネロニだとか牛肉とポテトのマラガ風だとか、料理の名前なんぞは一々覚えていられなくてもその腰が抜けるような美味さだけは身体の隅々にまで行きわたってしまう。
が、もういい。もう飽きた。
フォアグラポワレ、アンディーヴのコンフィとパンデピスなどという舌をかみそうな名前の料理も、まあ、舌をかむのではなく舌は蕩けたのだけれども。でももういい。もう食えない。昨日も今日も一昨日も……このフィオレッナに提供される食事は全て、一流どころのシェフが素材から吟味した渾身の一撃!というくらいのすんばらしい食事だということはわかる。が……。
「なあ……。もー、こんな生活、オレ飽きた……」
にこやかにほほ笑みながら銀のカラトリーを流れるような手つきで操っていたフィオレッナに、 行儀悪くフォークを加えたまま、エドワードは咎めるような視線を向けた。
「あらあ?食事は一流、貴方のだーい好きな錬金術の希少本も、私の家の情報も読み切れないほどに用意してあげているっていうのに、なあに?その、態度」
確かにそうなのだ。今まで読みたくて読みたくてそれでも見つけることさえ出来なかった錬金術書の数々はあっさりとフィオレッナの寝室へと運ばれた。しかもこのエドワードをして未だに読み切れていないほどの大量に。与えられる食事、書物。この二つさえあればエドワードには文句はない、はずだったのだが……。
……一応、オレ、潜入捜査って名目でここに留まっているんだけどな……。
それに関しても実は全く問題はなかったのだ。フィオレッナの部屋から出て、ファルザーノに見つかりふたたび寝室のベッドの上に押し倒されそうになるだとか、コルネオ家中を探りまくって有能な部下の方々の銃器にハチの巣にされる危険どをわざわざ冒してこの家中を探らなくても……何のことはない、フィオレッナの言葉の通りに彼女は全て包み隠さず教えてくれていたりするのだ。言葉だけでは信用ならないでしょうから、と錬金術書とともにポンと手渡された書類などは、これを持って中央司令部にでも駆け込めばさすがのコルネオ家とも云えども没落に追い込まれそうなほどの、物的証拠。ファルザーノがどのように裏の社会とつながりを持ち、資金を運用し……更には過去に起こしてきた政府高官の暗殺やら軍部内の汚職やら、まあその手の様々にかかわってきたことに対する全ての報告だの。今回のロイ・マスタング大佐暗殺計画にかかわっている人物・組織の相関図だの。探ろうとしなくてもフィオレッナは全てエドワードに示してきた。
よって、この部屋に捕らわれてからエドワードのしたことと言えば。
食事やらおやつやらをフィオレッナとともに頂く。
錬金術書を熟読する。
フィオレッナの持ってくる書類に目を通しながら、不明点は全て質問して聞いてしまう。
以上三点、それ以外にすることはないのである。
つまり、あれから。フィオレッナの部屋から一歩も出てはいないのだ。
あんまり身体を動かさないと鈍りそうと思ってはみても、部屋でストレッチでもトレーニングでも好きにできるでしょ?と窘められる。確かに広い、のだ。フィオレッナの寝室、ではあるのだけれどももう何十人でも暮らせるだろうという程度には面積に余裕がある。さすがに一緒のベッドで同衾することは避けたが、この部屋のソファで寝たところで下手なベッドなんかよりはよっぽど寝心地が良かったりもする。環境的にも何にも問題はない。いや、着るものがフィオレッナのドレスということについては声を大にして文句も言いたいところではあるのだが。
が、……。
環境的要因よりも何よりも、エドワードの心情的に問題だらけなのである。
……まったくこの人はどーゆーつもりでオレをここに置いてんだろ…。
餌ばかりをちらつかされていてははっきり言って居心地が悪い。何故、このような待遇に置かれているのか。フィオレッナの目的は見えない。いや、大局的な目的はフィオレッナがこのコルネオ家を手中にすることだろう。そのために父親すら廃することを厭わずに、見合い相手として呼ばれたロイすらも手駒にしようする。それはわかっている。だか、こう何日も何日も呑気に食って飲んで休んでを繰り返していれば何かそれだけではない裏がありそうで。もしかしたら時期を待っているだけなのかもしれない。彼女が不敵にもロイに、告げた言葉は「返事は次に会った時で構わない」だったのだから。次とはいつなのだろうか?そのためにフィオレッナは何かの布石を打っているのだろうか。あの時のロイを思い出せば、ロイが……ロイの動向が気になってしまう。本当にロイがファルザーノを暗殺することになるのだろうかと。いや、それは誤魔化しなのかもしれない。せめてヒューズさんとかアルにでも、一言でも報告くらいできるといいんだけどな、きっと、アルフォンスは自分の身を心配しているに違いないのだからと、そう思い悩むのはエドワードの本心で、でも心のその底で今一番に想っていることではない。
一言くらい声が聞きたい。声を聞かせたい。
アルフォンスに無事だよと、言いたいのはあくまで心の表層で。その奥底には本音が潜む。……ロイの声が聞きたい。話を聞きたいのだと。
今、大佐は何を想ってる?オレとホントに別れちまいたいかな……。
想いに沈みそうになったエドワードを、はっと現実に戻したのはフィオレッナの壮絶な笑顔だった。常のふわふわとした表情ではない。背筋をまっすぐにのばし、貫くようにエドワードを見据えていた。


「ねえ、ちゃんと現状くらい把握しておいてちょうだいね。貴方は私の大事な人形なのだから。……来るべき日には、存分に働いてもらうわ錬金術師さん。……等価交換って言葉、もちろんよくご存じよね?」

来るべき日。それが何なのか。エドワードは見えぬ未来にほんの少しの戦慄を覚えた。



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話を進めないと、と思いつつワンクッション持ってくる私……。
さてこの先の展開はどーなることやら…。
第九話担当、ノリヲでした……。
コールドレイン 第8話
 
 
 
雨は上がっていた。
だが、夜空は見えない。雲に覆われ煌く星も暗闇を照らす月明かりもなく、コルネオ家の屋敷から漏れる光だけが、唯一の明かりだった。
 
その灯りから、誰かが出てくる。
漆黒の髪と瞳の持ち主は、まるで周りの闇と同化して見失いかねない。けれど、発している殺気がその存在を知らしめていた。
 
「ようロイ、パーティーの主役の一人だというのに随分お早い帰宅だな」
 
来客用に置かれた車の陰からヒューズが出てきてロイに問う。その声色は珍しくどこか怒気を含んでいて。
薄明かりの元でもはっきりと見える。あの人懐こい笑顔はどこにもなく、鋭い視線がロイを睨んでいることを。
そして、ロイは―――。何故ヒューズがここにいるのか、そのことを次の言葉で理解した。
 
その言葉はロイを攻めるように、やはり怒気を含んでいてヒューズらしくないものの言い様だった。
 
「何だ、お前さん一人だけなのか」
 
――何故、お前一人だけでコルネオ家から出てくるんだ――
 
「お前は…っ、お前があの子をけしかけたのかっ!」
「だったらどうなんだ?」
「ヒューズッ!!」
 
堪らず親友の胸倉を掴む。そのままヒューズを殴りかかりそうな勢いに、傍に控えていたアルフォンスが慌てて止めに入った。
 
「大佐っ、やめてください!」
 
だが止めに入ったアルフォンスの姿を見るなり、ロイの怒りは更に上昇してしまう。
 
「アルフォンス、君も承知のことなのかっ」
 
二人して、よりによって自分の親友とエドワードの弟が二人してあの子を潜入させたというのか!?
 
怒りと困惑で思考がまともに動かないロイに、ヒューズは更に言葉を募る。それは挑発とも取れる言葉でロイを攻め立てていた。
 
「エドがじっとしていると思うか?それ以前に、あんな別れ方で納得するはずがないだろ。情報を掴んで遅かれ早かれコルネオ家に乗り込むに違いない。それも不確かな情報に躍らされてオレに何の相談もなしに単身でだ」
 
そんな事になれば、最悪以外なにもない状況に陥ることは必須だ。なら、それなら最初から適切かつ正確な情報を元に作戦を実行する方が、エドワードにとって何倍も安全で確実なのだ。
たとえそれが、潜入捜査や囮捜査になろうとも、だ。
 
「だからといって、あんな格好までさせて!ファルザーノの性癖はお前も知っているだろっ!」
「ああ知っている!知っているがあれ以外ないだろがっ!そのまま素で送込めば良かったのか!?軍の上層部がわんさかいるこのパーティーに!」
「ま、待ってください!まさか兄さんに何かあったんですか!?」
 
怒鳴りあう中に不似合いな子供独特の高い声が響いた。その泣きそうな切羽詰った声にロイとヒューズは押し黙る。
 
「大佐っ、兄さんはどこなんですか!ファルザーノさんと接触があったんですか!?」
 
あったも何も、そのファルザーノにエドワードが何をされたのか、されそうになったのか、考えただけでもロイは吐き気がする。
何をどこまでなのか等、確かな事は分からない。ただ間一髪のところでファルザーノの手から逃げおおせてくれていたらと、そう願わずにはいられないというのがロイの本心だ。
 
「まさかな、幾らなんでもお前さんが何もしないで、エドを置いてくるとは思ってもいなかったな」
「それは…っ」
 
あの雨の日、何も知らせないで無言の別れを告げた。それはロイの身をも切り刻むほどに辛いものではあった。
だが、エドワードを切り捨ててしまった事には違いない。
そして、この夜。
むざむざエドワードを敵の手に落として引き上げるしかなかった。
 
何もしないで置いてきた―――そう非難されても仕方がない。何もかも、最初からボタンを掛け間違えたのだと、お前が悪いと、そうヒューズに攻め立てられても何も、ロイには何の弁明もできない。
 
「ヒューズ…」
「なんだ」
「ファルザーノは確かに敵だ。あの子に何かしようとしたのは間違いないのだからな、絶対に許しやしない。だがその上がまだいる。この足元にひれ伏せさせなければならない相手がな」
 
初めて敗北を味わったと、噛み締める唇がそう言っていて。こんなロイをヒューズが見るのは初めてだ。
この強かな親友を、ロイ・マスタングに敗北感を味わせた相手がいる。
 
「あのファルザーノ以外に、あの男より上の奴がいるっていうのか」
「ああ、フィオレッナだ」
「噂の腹黒娘か?そんなに手ごわいのか」
「鋼のは、その女の手の中にある」
「おいおい、まじかよ…」
 
ファルザーノの一人娘、フィオレッナが一番厄介で危ない存在。ロイですらエドワードを盾にとられ手も足も出なかった。
 
「頼む。お前の協力が必要だ、力を貸してくれ。アルフォンスもすまない」
 
二人に頭を下げる。
驚いたのは、頭を下げられた二人だ。だが、今のこの状況が酷く困難で緊迫しているのを肌で感じ、これ以上ロイを攻め立てても何もならないのを知っていた。
そして何よりも、ロイと共同して一刻も早く対策を立て直さなければいけない事も。
 
 
 
 
薄暗い路を、一台の車が去っていくのを、フィオレッナは自室の窓から見ていた。
 
「男の長話は嫌われてよ、マスタング大佐」
 
上品な口元が、くすりと笑みを浮かべたのだった。



短いです。そして話は進んでいません。
ご、ごめんなさーっ!
まいこ
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ILLUSTRATION BY nyao