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コールドレイン 第8話
 
 
 
雨は上がっていた。
だが、夜空は見えない。雲に覆われ煌く星も暗闇を照らす月明かりもなく、コルネオ家の屋敷から漏れる光だけが、唯一の明かりだった。
 
その灯りから、誰かが出てくる。
漆黒の髪と瞳の持ち主は、まるで周りの闇と同化して見失いかねない。けれど、発している殺気がその存在を知らしめていた。
 
「ようロイ、パーティーの主役の一人だというのに随分お早い帰宅だな」
 
来客用に置かれた車の陰からヒューズが出てきてロイに問う。その声色は珍しくどこか怒気を含んでいて。
薄明かりの元でもはっきりと見える。あの人懐こい笑顔はどこにもなく、鋭い視線がロイを睨んでいることを。
そして、ロイは―――。何故ヒューズがここにいるのか、そのことを次の言葉で理解した。
 
その言葉はロイを攻めるように、やはり怒気を含んでいてヒューズらしくないものの言い様だった。
 
「何だ、お前さん一人だけなのか」
 
――何故、お前一人だけでコルネオ家から出てくるんだ――
 
「お前は…っ、お前があの子をけしかけたのかっ!」
「だったらどうなんだ?」
「ヒューズッ!!」
 
堪らず親友の胸倉を掴む。そのままヒューズを殴りかかりそうな勢いに、傍に控えていたアルフォンスが慌てて止めに入った。
 
「大佐っ、やめてください!」
 
だが止めに入ったアルフォンスの姿を見るなり、ロイの怒りは更に上昇してしまう。
 
「アルフォンス、君も承知のことなのかっ」
 
二人して、よりによって自分の親友とエドワードの弟が二人してあの子を潜入させたというのか!?
 
怒りと困惑で思考がまともに動かないロイに、ヒューズは更に言葉を募る。それは挑発とも取れる言葉でロイを攻め立てていた。
 
「エドがじっとしていると思うか?それ以前に、あんな別れ方で納得するはずがないだろ。情報を掴んで遅かれ早かれコルネオ家に乗り込むに違いない。それも不確かな情報に躍らされてオレに何の相談もなしに単身でだ」
 
そんな事になれば、最悪以外なにもない状況に陥ることは必須だ。なら、それなら最初から適切かつ正確な情報を元に作戦を実行する方が、エドワードにとって何倍も安全で確実なのだ。
たとえそれが、潜入捜査や囮捜査になろうとも、だ。
 
「だからといって、あんな格好までさせて!ファルザーノの性癖はお前も知っているだろっ!」
「ああ知っている!知っているがあれ以外ないだろがっ!そのまま素で送込めば良かったのか!?軍の上層部がわんさかいるこのパーティーに!」
「ま、待ってください!まさか兄さんに何かあったんですか!?」
 
怒鳴りあう中に不似合いな子供独特の高い声が響いた。その泣きそうな切羽詰った声にロイとヒューズは押し黙る。
 
「大佐っ、兄さんはどこなんですか!ファルザーノさんと接触があったんですか!?」
 
あったも何も、そのファルザーノにエドワードが何をされたのか、されそうになったのか、考えただけでもロイは吐き気がする。
何をどこまでなのか等、確かな事は分からない。ただ間一髪のところでファルザーノの手から逃げおおせてくれていたらと、そう願わずにはいられないというのがロイの本心だ。
 
「まさかな、幾らなんでもお前さんが何もしないで、エドを置いてくるとは思ってもいなかったな」
「それは…っ」
 
あの雨の日、何も知らせないで無言の別れを告げた。それはロイの身をも切り刻むほどに辛いものではあった。
だが、エドワードを切り捨ててしまった事には違いない。
そして、この夜。
むざむざエドワードを敵の手に落として引き上げるしかなかった。
 
何もしないで置いてきた―――そう非難されても仕方がない。何もかも、最初からボタンを掛け間違えたのだと、お前が悪いと、そうヒューズに攻め立てられても何も、ロイには何の弁明もできない。
 
「ヒューズ…」
「なんだ」
「ファルザーノは確かに敵だ。あの子に何かしようとしたのは間違いないのだからな、絶対に許しやしない。だがその上がまだいる。この足元にひれ伏せさせなければならない相手がな」
 
初めて敗北を味わったと、噛み締める唇がそう言っていて。こんなロイをヒューズが見るのは初めてだ。
この強かな親友を、ロイ・マスタングに敗北感を味わせた相手がいる。
 
「あのファルザーノ以外に、あの男より上の奴がいるっていうのか」
「ああ、フィオレッナだ」
「噂の腹黒娘か?そんなに手ごわいのか」
「鋼のは、その女の手の中にある」
「おいおい、まじかよ…」
 
ファルザーノの一人娘、フィオレッナが一番厄介で危ない存在。ロイですらエドワードを盾にとられ手も足も出なかった。
 
「頼む。お前の協力が必要だ、力を貸してくれ。アルフォンスもすまない」
 
二人に頭を下げる。
驚いたのは、頭を下げられた二人だ。だが、今のこの状況が酷く困難で緊迫しているのを肌で感じ、これ以上ロイを攻め立てても何もならないのを知っていた。
そして何よりも、ロイと共同して一刻も早く対策を立て直さなければいけない事も。
 
 
 
 
薄暗い路を、一台の車が去っていくのを、フィオレッナは自室の窓から見ていた。
 
「男の長話は嫌われてよ、マスタング大佐」
 
上品な口元が、くすりと笑みを浮かべたのだった。



短いです。そして話は進んでいません。
ご、ごめんなさーっ!
まいこ
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おおおおおおっ。
ヒューズとの口論が素敵☆
普段では絶対に見れないだろうこういうシーンって、とても新鮮ですよね~。
二人の会話の中にお互いの心情が物凄くよく出ていて、言葉のやり取りにとてもハラハラさせられました☆
でも最後にエドワードの為ならいさぎよく頭を下げるロイが男らしいですね。
そ し て
フィオレッナ!
最後のワンシーンが目に浮かぶほど強烈でした。なんだかもうオリキャラには思えませんね。
つぐみ 2008/05/07(Wed)00:03:50 編集
は、はや!
もうアップされてるー!早いっ!早いですよ!まいこさま!!
そしてやはりこのシーンは必要ですよね。うむうむ。ロイさんに味方つけてあげないと、ま、負けそうですよ……。

でもロイさんよりも特筆すべきはフィオ嬢ですよ。最後の3行で全てもっていったわ…。ロイさんにはまだまだまだまだまだまだ頑張ってもらわないと勝ちは難しいですよー。あ、でもまだ中尉が出てきてない。最強の味方がいたわvさあ、どんな反撃が開始されるのでしょうか?それとも囚われのエドワードが動くのか?続きが楽しみだーv




ノリヲです 2008/05/07(Wed)09:50:40 編集
照れます///
つぐみ様v>素敵でしたか!?新鮮でしたか!?ハラハラなんですか!?ロイ、男らしかったでうすか!?……嬉しいですーっvv
ヒューズさんとの口論なんてどうなんだろうか?と正直不安でしたので、ホッとしました(^^)
最後の場面も「目に浮かぶほど強烈」と言ってもらえて嬉しいですvv

ノリヲ様v>必要なシーンといってもらえて「書いて良かったよ~」とこれまたホッとしましたv
そして、最後の3行!
うふふ…ノリヲさんにも気に入ってもらえて嬉しいですvv
そうですねーロイにはどんどん頑張ってもらわないと!ここが踏ん張り時ですね!
そして中尉!でもまずは「こんな事態を招くなんて」と10発ぐらい撃たれそうですねぇ~(苦笑
まいこ 2008/05/09(Fri)19:45:05 編集
立候補だけ・・・
しておいていいですか?

ちょおおおおっと今、自分のサイトのほうの次回連載準備中で、アップできるの来週になっちゃうかもしれないんですけど―。

第九話、立候補しておいていいですかー?
どなたか書かれる方いらっしゃいますかー?
ノリヲです 2008/05/16(Fri)10:16:05 編集
はい、是非っ☆
おおおっ、ノリヲさん、次回挙手ですか!?
それはとても楽しみです♪

それはまた素敵な展開になりそうな予感ですね。
つぐみ 2008/05/17(Sat)23:43:29 編集
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