-------------●ここは鋼の錬金術師「ロイ×エドSSリレー企画」の二次創作サイトです♪●-------------※全ての画像・テキストの無断掲載持ち帰りはしないでください・初めての方は「about」をお読みください※since07/10/25

◆ about (1) ◆ 拍手について(1) ◆ お題(長編)・その①「カワウソロイの恩返し」完結(17) ◆ お題その②「コールドレイン」完結(29) ◆ 鉛筆ロイと消しゴムエド(完結)(3) ◆ 黒ねこロイと金の子猫(12) ◆ 叔父(教師)ロイと甥っ子受験生エド(非公開)(0) ◆ 短編・シリアス(1) ◆ 短編・パラレル(1) ◆ gallery(9) ◆ 拍手お返事部屋(21) ◆ カステラ通信(40) ◆ 雑記(6)
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「わあ、見てみて!」
「きゃーっ、かわいいvv」
「いや~ん、おなか真っ白でふかふか~♪」
ちょっと陽射しが痛いというか、きつくなってきたある初夏の午後。
女子高校生らしき女の子達3人の声が、道端にきゃんきゃんとこだましていた。
初夏の子猫たち―その①―
~黒猫ロイと金の子猫より~
彼女達の視線の先は、垣根の向こうにあるとある一軒家の庭先、つまり縁側で。
そこには燦燦と日光が注がれていて、真っ白なふかふか毛並みのお腹が、気持ち良さそうに太陽へと向いていた。
そう、金色の子猫・エドワードはただ今お昼寝真っ最中。
紫外線が最も多いこの時期、女性達には天敵な太陽も、猫には天からの恵みというか、温かで気持ちの良い贈り物なのだ。
だから、エドワードは伸び伸びと気持ちよくお昼寝をしている。
そして、時々ころん、くりん、と寝返りを打つから大変だ。
だって。
「きゃーっ!」
「見た!ねえっ今の見た!?」
「可愛すぎるわーっ!!」
もう歓喜の声を通り越して、絶叫がご近所に響き渡るのだから。そこへ、散歩帰りのロイが通りかかった。
「おやおや、エドワードはまたお腹を出して寝ているのだな」
やはり大人の余裕なのだろうか。嫉妬するのではなく、ロイは女の子達の狂喜乱舞ぶりを冷静に分析する。
「ま、私のエドワードは世界一の愛らしさだからな、お嬢さん方の反応も当然といえばとうぜんか」
そして家に入ろうと、女子高校生の前を横切ると。
「きゃvv何この黒猫!素敵―っ!」
一人が叫びながらロイを抱き上げる。
「やーんvv本当!成猫の魅力!?ってやつね!」
もう一人は、両手を合わせながら頬を染めていて。
「私が猫だったら結婚したいーっ!」
3人目のお嬢さんはブンブンと腕と腰を左右に振って叫んでいた。
『ふっ、これもまた、当然といえば当然のことだが…』
人間なら、間違いなくロイは前髪を掬い上げ、「やあ、お嬢さん方…」と微笑んだに違いない。
ロイは見事な艶と滑らかな毛並みの黒猫で、ご近所のメス猫は全て彼の虜といっても過言ではなく。
そして、そのオスとしての魅力は、実は人間にも有効だったりする。
散歩中に出会う女の子やご婦人方は、「まあ、素敵な黒猫!」と皆一様にロイを褒め称え、時にはうっとりと歩く姿を見つめていたりするのだ。
猫でありながら、ロイはご町内のプリンス的存在だった。
だから、若くて異様にノリの良いこの女子高生3人組が、ロイに絶叫激しく抱きしめるのは無理もない事で。
しかも、一度抱きしめると、なかなか離してくれない。
大好きな愛おしい存在があるとはいえ、ロイとて立派な成猫のオス、男には違いない。この状況は満更でもなく、なかなかにご満喫。
でも、せっかくのご機嫌も一気に下降した。何故なら―――。
「きゃー見てみてvvもう一匹子猫ちゃんがでてきたわよvv」
「いやん本当に可愛いーvv」
「しかも金色の子猫にくっ付いてるわよvv」
『なっ、何だと!』
女子高校生に合わせていた視線を、びゅんっ!という勢いでエドワードへと戻す。戻した視線の先、黒曜石の瞳に映ったのは可愛い可愛いエドワードと、もう一匹……。
あ、あれは真っ黒くろすけのアルフォンスではないか!
てけてけと、縁側にやってきたのはエドワードの弟アルフォンス。金色の毛並みとハニーゴールドの瞳のエドワードとは少し違い、亜麻色の毛並みと栗色の瞳だ。
ロイにとって真っ黒くろすけでも、一般的にその愛らしさはエドワード同様群を抜いている。
その可愛らしい子猫が二匹、縁側で日向ぼっこ。
しかもだ。
ロイの目の前でアルフォンスは、寝ているエドワードにペロペロとグルーミングしだしたのだ。
その姿は、はっきりいって、もの凄く可愛い。
舐める子猫も舐められる子猫も幸せ一杯な光景は、抱きしめたいぐらいキュートでらぶりーだ。
そんなKOノックアウトな光景を目の当たりにしたら、もう女子高校生達は堪らない。
でも、きゃーきゃー叫びながらもロイを手放さないのは、流石と言うしかない。だって、ロイはカッコイイから離したくないのだ。
そして、ロイはロイで真性のフェミニストを今ほど後悔したことはない。
『何をしているっ! 私のエドワードにグルーミングだとは良い度胸ではないかっ、離れたまえアルフォンス!』
すぐさま飛び出してエドワードから剥がしたい。
だが、今自分はしっかり女子高校生にホールドされていて。ここから無理にでも飛び出すには爪をたてるしかない。
でもそんなことをすれば、女の子に傷をつけることになってしまう。
そ、そんな事などできん……っ
エドワードの元に飛んでいきたいのに行くことができない。激しいジレンマに眩暈を起こしそうだ。
一方アルフォンスは、ロイのそういった性癖はもちろん承知の上での行動なのだ。
『ふふん、そうやってあなたは眺めていれば良いんですよ、ロイさん』
ちろちろエドワードを舐めながら、横目でちらりとロイを見る。このアルフォンスも、もし人間だったのなら間違いなく口端が上がっているに違いない。
面白くないのはロイだ。
絶対に自分をバカにしている!そう確信を持てる。しかも、挑発までしているのだ。子猫の分際で生意気な。
どんなに怒り心頭でも女子高校生に抱っこされ、というか抱きしめられ身動きがとれず、尻尾だけがぶぁさっ!と膨らんでいる。
何だか情けない。
これでも男かと、ロイは自分でも思う。
そんなロイの葛藤など女子高校生が知るはずもなく、彼女らは変わらずきゃーきゃーと騒がしい。
アルフォンスは勝利に気分良く、更にエドワードにくっついてグルーミング。
騒がしさとしつこいぐらいのグルーミングに、流石のお寝坊なエドワードも目を開けた。
寝ぼけ眼な金色の子猫は、ぼーーっと縁側にお座りをする。
ぼーっとした視界に、一番に入ってきたのは黒。
その②へつづく
お題連載中に何やってんの!?って感じですね(汗
いえ、ご近所の猫があまりに幸せそうにお昼寝していたので、ついつい。
しかも、この時期を逃したら後がない!と思い立ったので…ご了承を(汗
このシリーズは、ノリヲさんへの捧げ物です♪
まいこ 08/05/26
「きゃーっ、かわいいvv」
「いや~ん、おなか真っ白でふかふか~♪」
ちょっと陽射しが痛いというか、きつくなってきたある初夏の午後。
女子高校生らしき女の子達3人の声が、道端にきゃんきゃんとこだましていた。
初夏の子猫たち―その①―
~黒猫ロイと金の子猫より~
彼女達の視線の先は、垣根の向こうにあるとある一軒家の庭先、つまり縁側で。
そこには燦燦と日光が注がれていて、真っ白なふかふか毛並みのお腹が、気持ち良さそうに太陽へと向いていた。
そう、金色の子猫・エドワードはただ今お昼寝真っ最中。
紫外線が最も多いこの時期、女性達には天敵な太陽も、猫には天からの恵みというか、温かで気持ちの良い贈り物なのだ。
だから、エドワードは伸び伸びと気持ちよくお昼寝をしている。
そして、時々ころん、くりん、と寝返りを打つから大変だ。
だって。
「きゃーっ!」
「見た!ねえっ今の見た!?」
「可愛すぎるわーっ!!」
もう歓喜の声を通り越して、絶叫がご近所に響き渡るのだから。そこへ、散歩帰りのロイが通りかかった。
「おやおや、エドワードはまたお腹を出して寝ているのだな」
やはり大人の余裕なのだろうか。嫉妬するのではなく、ロイは女の子達の狂喜乱舞ぶりを冷静に分析する。
「ま、私のエドワードは世界一の愛らしさだからな、お嬢さん方の反応も当然といえばとうぜんか」
そして家に入ろうと、女子高校生の前を横切ると。
「きゃvv何この黒猫!素敵―っ!」
一人が叫びながらロイを抱き上げる。
「やーんvv本当!成猫の魅力!?ってやつね!」
もう一人は、両手を合わせながら頬を染めていて。
「私が猫だったら結婚したいーっ!」
3人目のお嬢さんはブンブンと腕と腰を左右に振って叫んでいた。
『ふっ、これもまた、当然といえば当然のことだが…』
人間なら、間違いなくロイは前髪を掬い上げ、「やあ、お嬢さん方…」と微笑んだに違いない。
ロイは見事な艶と滑らかな毛並みの黒猫で、ご近所のメス猫は全て彼の虜といっても過言ではなく。
そして、そのオスとしての魅力は、実は人間にも有効だったりする。
散歩中に出会う女の子やご婦人方は、「まあ、素敵な黒猫!」と皆一様にロイを褒め称え、時にはうっとりと歩く姿を見つめていたりするのだ。
猫でありながら、ロイはご町内のプリンス的存在だった。
だから、若くて異様にノリの良いこの女子高生3人組が、ロイに絶叫激しく抱きしめるのは無理もない事で。
しかも、一度抱きしめると、なかなか離してくれない。
大好きな愛おしい存在があるとはいえ、ロイとて立派な成猫のオス、男には違いない。この状況は満更でもなく、なかなかにご満喫。
でも、せっかくのご機嫌も一気に下降した。何故なら―――。
「きゃー見てみてvvもう一匹子猫ちゃんがでてきたわよvv」
「いやん本当に可愛いーvv」
「しかも金色の子猫にくっ付いてるわよvv」
『なっ、何だと!』
女子高校生に合わせていた視線を、びゅんっ!という勢いでエドワードへと戻す。戻した視線の先、黒曜石の瞳に映ったのは可愛い可愛いエドワードと、もう一匹……。
あ、あれは真っ黒くろすけのアルフォンスではないか!
てけてけと、縁側にやってきたのはエドワードの弟アルフォンス。金色の毛並みとハニーゴールドの瞳のエドワードとは少し違い、亜麻色の毛並みと栗色の瞳だ。
ロイにとって真っ黒くろすけでも、一般的にその愛らしさはエドワード同様群を抜いている。
その可愛らしい子猫が二匹、縁側で日向ぼっこ。
しかもだ。
ロイの目の前でアルフォンスは、寝ているエドワードにペロペロとグルーミングしだしたのだ。
その姿は、はっきりいって、もの凄く可愛い。
舐める子猫も舐められる子猫も幸せ一杯な光景は、抱きしめたいぐらいキュートでらぶりーだ。
そんなKOノックアウトな光景を目の当たりにしたら、もう女子高校生達は堪らない。
でも、きゃーきゃー叫びながらもロイを手放さないのは、流石と言うしかない。だって、ロイはカッコイイから離したくないのだ。
そして、ロイはロイで真性のフェミニストを今ほど後悔したことはない。
『何をしているっ! 私のエドワードにグルーミングだとは良い度胸ではないかっ、離れたまえアルフォンス!』
すぐさま飛び出してエドワードから剥がしたい。
だが、今自分はしっかり女子高校生にホールドされていて。ここから無理にでも飛び出すには爪をたてるしかない。
でもそんなことをすれば、女の子に傷をつけることになってしまう。
そ、そんな事などできん……っ
エドワードの元に飛んでいきたいのに行くことができない。激しいジレンマに眩暈を起こしそうだ。
一方アルフォンスは、ロイのそういった性癖はもちろん承知の上での行動なのだ。
『ふふん、そうやってあなたは眺めていれば良いんですよ、ロイさん』
ちろちろエドワードを舐めながら、横目でちらりとロイを見る。このアルフォンスも、もし人間だったのなら間違いなく口端が上がっているに違いない。
面白くないのはロイだ。
絶対に自分をバカにしている!そう確信を持てる。しかも、挑発までしているのだ。子猫の分際で生意気な。
どんなに怒り心頭でも女子高校生に抱っこされ、というか抱きしめられ身動きがとれず、尻尾だけがぶぁさっ!と膨らんでいる。
何だか情けない。
これでも男かと、ロイは自分でも思う。
そんなロイの葛藤など女子高校生が知るはずもなく、彼女らは変わらずきゃーきゃーと騒がしい。
アルフォンスは勝利に気分良く、更にエドワードにくっついてグルーミング。
騒がしさとしつこいぐらいのグルーミングに、流石のお寝坊なエドワードも目を開けた。
寝ぼけ眼な金色の子猫は、ぼーーっと縁側にお座りをする。
ぼーっとした視界に、一番に入ってきたのは黒。
その②へつづく
お題連載中に何やってんの!?って感じですね(汗
いえ、ご近所の猫があまりに幸せそうにお昼寝していたので、ついつい。
しかも、この時期を逃したら後がない!と思い立ったので…ご了承を(汗
このシリーズは、ノリヲさんへの捧げ物です♪
まいこ 08/05/26
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Poohさまv>パパファ(笑)須田も懲りないパパファにエールを送ってしまいそうですYO!いえ、須田もファエドにはなりませんけど(笑
ロイの焦りは日に日に増していく。もはや焦燥と言っても過言ではないほどに。報告されたコルネオ家の資料。それはファルザーノに関してのみの報告であり、その娘に関してなどさほど重要視されてはいないものだけれども。けれど、ロイは自身の敗北という形でフィオレッナを知った。何度も読み直す。報告書類を。些細なことで構わない。彼女からエドワードを取り戻す、そのきっかけでも何でもいい。探してみせる。付け入る隙を。半ば捨て身で切り込んでいったというのに。ファルザーノという父親の駒でしかないと侮っていたフィオレッナにしてやられた。負けは負けだ、それは認めよう、だが、試合が終わったわけではない。このままでは終われないのだ。少なくともエドワードをフィオレッナの人形のままにしてはおくことなどできはしない。コルネオ家の手中から取り戻さなければ。コルネオ家に対するけん制などその後でいい。自らの判断ミスから招いたような事態なのだ。エドワードを取り戻すのは最優先事項でしなければならないこと、だ。
「エド…ワード……っ」
冷たい雨の中、それでも自分を待っていてくれた彼を想う。そして、美しいドレスを着せられて人形のように眠らされていた彼も。
これは、己の心の弱さが招いたこの結果なのだ。
離れたほうがいいと思った。共に歩めば彼を苦しめるだけなのだと、そう判断した。 けれど……。
――そうやっていつまでも逃げているがいいわ、ロイ・マスタング。情けない男ね。この子を心の底から捨てることもできず、ただ、相手の幸せのために身を引いたなんて似非ロマンチシズムに浸るのがお似合いよ。『別れても愛しているのは君だけだ』なんて自分に酔ったセリフでも言うつもりだったんでしょ?笑わせないで。そんなのは捨てる方の勝手な言い分だわ。身勝手な理屈であなたの都合に振り廻されたほうがどれほど傷つくと思うの?それを受け止めることもできやしないクセに。
突きつけられた容赦のない言葉。
それに胸はえぐられる。が……。
何故手放せば幸せになると思い込んでいたのか。
どうしてこのような結果を招いたのか。
彼のため、などというのはフィオレッナの言う通りに勝手な言い分で……逃げていただけではないのか。
共に、手に入れることを考えるべきだったのに。
こんなふうに奪われてから、そのことにようやく気がつくとは……。
「こんな情けない男は……君の方から見捨てられても仕方がないな……」
別れを、言葉にして告げたわけではないけれど。あの雨の中、来ない私をただ、待っていただけのエドワードには、きっと私の思いなどとっくに知られてしまっているのだろう。
けれど。
嘆くのは後でいい。
悔やむのも今ではない。
エドワードをフィオレッナの手の内から取り戻して、そして……たとえそこでエドワードから見限られたとしても。
このまま、尻尾を丸めて退場するわけにはいかないのだ。
エドワードを取り戻す。どんな手段を用いようとも。大切なものを二度と失わないために。
「……なあ、もう、食えねーんだけど……」
テーブルの上に並べられているのは、山のような美食の数々だ。オードブルに始まってメインディッッシュ、デザートに至るまで繊細な盛り付けは「聖餐」と言ってもいいほどだ。前菜からデザートまで隙など全くないのである。が…。
グリーンピースのクリームスープのカプチーノ仕立てなどは味のみなら喉越しまで滑らかで。パンチェッタで巻いた黒豚フィレ肉のポワレの新ジャガイモのブレゼ添えはフルーツチャツネソースかけてお召し上がりください、などと給仕の者から言われ仕方なしにその通りに口に含んだ瞬間に、豚なんかより牛のステーキの方がいいのにな~などという発言は速攻撤回した。シャンピニヨンと赤ピーマンのペルシヤード、卵のポッシェとラヴィオリだとか的鯛とバジルノクレピネット、南瓜のカネロニだとか牛肉とポテトのマラガ風だとか、料理の名前なんぞは一々覚えていられなくてもその腰が抜けるような美味さだけは身体の隅々にまで行きわたってしまう。
が、もういい。もう飽きた。
フォアグラポワレ、アンディーヴのコンフィとパンデピスなどという舌をかみそうな名前の料理も、まあ、舌をかむのではなく舌は蕩けたのだけれども。でももういい。もう食えない。昨日も今日も一昨日も……このフィオレッナに提供される食事は全て、一流どころのシェフが素材から吟味した渾身の一撃!というくらいのすんばらしい食事だということはわかる。が……。
「なあ……。もー、こんな生活、オレ飽きた……」
にこやかにほほ笑みながら銀のカラトリーを流れるような手つきで操っていたフィオレッナに、 行儀悪くフォークを加えたまま、エドワードは咎めるような視線を向けた。
「あらあ?食事は一流、貴方のだーい好きな錬金術の希少本も、私の家の情報も読み切れないほどに用意してあげているっていうのに、なあに?その、態度」
確かにそうなのだ。今まで読みたくて読みたくてそれでも見つけることさえ出来なかった錬金術書の数々はあっさりとフィオレッナの寝室へと運ばれた。しかもこのエドワードをして未だに読み切れていないほどの大量に。与えられる食事、書物。この二つさえあればエドワードには文句はない、はずだったのだが……。
……一応、オレ、潜入捜査って名目でここに留まっているんだけどな……。
それに関しても実は全く問題はなかったのだ。フィオレッナの部屋から出て、ファルザーノに見つかりふたたび寝室のベッドの上に押し倒されそうになるだとか、コルネオ家中を探りまくって有能な部下の方々の銃器にハチの巣にされる危険どをわざわざ冒してこの家中を探らなくても……何のことはない、フィオレッナの言葉の通りに彼女は全て包み隠さず教えてくれていたりするのだ。言葉だけでは信用ならないでしょうから、と錬金術書とともにポンと手渡された書類などは、これを持って中央司令部にでも駆け込めばさすがのコルネオ家とも云えども没落に追い込まれそうなほどの、物的証拠。ファルザーノがどのように裏の社会とつながりを持ち、資金を運用し……更には過去に起こしてきた政府高官の暗殺やら軍部内の汚職やら、まあその手の様々にかかわってきたことに対する全ての報告だの。今回のロイ・マスタング大佐暗殺計画にかかわっている人物・組織の相関図だの。探ろうとしなくてもフィオレッナは全てエドワードに示してきた。
よって、この部屋に捕らわれてからエドワードのしたことと言えば。
食事やらおやつやらをフィオレッナとともに頂く。
錬金術書を熟読する。
フィオレッナの持ってくる書類に目を通しながら、不明点は全て質問して聞いてしまう。
以上三点、それ以外にすることはないのである。
つまり、あれから。フィオレッナの部屋から一歩も出てはいないのだ。
あんまり身体を動かさないと鈍りそうと思ってはみても、部屋でストレッチでもトレーニングでも好きにできるでしょ?と窘められる。確かに広い、のだ。フィオレッナの寝室、ではあるのだけれどももう何十人でも暮らせるだろうという程度には面積に余裕がある。さすがに一緒のベッドで同衾することは避けたが、この部屋のソファで寝たところで下手なベッドなんかよりはよっぽど寝心地が良かったりもする。環境的にも何にも問題はない。いや、着るものがフィオレッナのドレスということについては声を大にして文句も言いたいところではあるのだが。
が、……。
環境的要因よりも何よりも、エドワードの心情的に問題だらけなのである。
……まったくこの人はどーゆーつもりでオレをここに置いてんだろ…。
餌ばかりをちらつかされていてははっきり言って居心地が悪い。何故、このような待遇に置かれているのか。フィオレッナの目的は見えない。いや、大局的な目的はフィオレッナがこのコルネオ家を手中にすることだろう。そのために父親すら廃することを厭わずに、見合い相手として呼ばれたロイすらも手駒にしようする。それはわかっている。だか、こう何日も何日も呑気に食って飲んで休んでを繰り返していれば何かそれだけではない裏がありそうで。もしかしたら時期を待っているだけなのかもしれない。彼女が不敵にもロイに、告げた言葉は「返事は次に会った時で構わない」だったのだから。次とはいつなのだろうか?そのためにフィオレッナは何かの布石を打っているのだろうか。あの時のロイを思い出せば、ロイが……ロイの動向が気になってしまう。本当にロイがファルザーノを暗殺することになるのだろうかと。いや、それは誤魔化しなのかもしれない。せめてヒューズさんとかアルにでも、一言でも報告くらいできるといいんだけどな、きっと、アルフォンスは自分の身を心配しているに違いないのだからと、そう思い悩むのはエドワードの本心で、でも心のその底で今一番に想っていることではない。
一言くらい声が聞きたい。声を聞かせたい。
アルフォンスに無事だよと、言いたいのはあくまで心の表層で。その奥底には本音が潜む。……ロイの声が聞きたい。話を聞きたいのだと。
今、大佐は何を想ってる?オレとホントに別れちまいたいかな……。
想いに沈みそうになったエドワードを、はっと現実に戻したのはフィオレッナの壮絶な笑顔だった。常のふわふわとした表情ではない。背筋をまっすぐにのばし、貫くようにエドワードを見据えていた。
「ねえ、ちゃんと現状くらい把握しておいてちょうだいね。貴方は私の大事な人形なのだから。……来るべき日には、存分に働いてもらうわ錬金術師さん。……等価交換って言葉、もちろんよくご存じよね?」
来るべき日。それが何なのか。エドワードは見えぬ未来にほんの少しの戦慄を覚えた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
話を進めないと、と思いつつワンクッション持ってくる私……。
さてこの先の展開はどーなることやら…。
第九話担当、ノリヲでした……。
「エド…ワード……っ」
冷たい雨の中、それでも自分を待っていてくれた彼を想う。そして、美しいドレスを着せられて人形のように眠らされていた彼も。
これは、己の心の弱さが招いたこの結果なのだ。
離れたほうがいいと思った。共に歩めば彼を苦しめるだけなのだと、そう判断した。 けれど……。
――そうやっていつまでも逃げているがいいわ、ロイ・マスタング。情けない男ね。この子を心の底から捨てることもできず、ただ、相手の幸せのために身を引いたなんて似非ロマンチシズムに浸るのがお似合いよ。『別れても愛しているのは君だけだ』なんて自分に酔ったセリフでも言うつもりだったんでしょ?笑わせないで。そんなのは捨てる方の勝手な言い分だわ。身勝手な理屈であなたの都合に振り廻されたほうがどれほど傷つくと思うの?それを受け止めることもできやしないクセに。
突きつけられた容赦のない言葉。
それに胸はえぐられる。が……。
何故手放せば幸せになると思い込んでいたのか。
どうしてこのような結果を招いたのか。
彼のため、などというのはフィオレッナの言う通りに勝手な言い分で……逃げていただけではないのか。
共に、手に入れることを考えるべきだったのに。
こんなふうに奪われてから、そのことにようやく気がつくとは……。
「こんな情けない男は……君の方から見捨てられても仕方がないな……」
別れを、言葉にして告げたわけではないけれど。あの雨の中、来ない私をただ、待っていただけのエドワードには、きっと私の思いなどとっくに知られてしまっているのだろう。
けれど。
嘆くのは後でいい。
悔やむのも今ではない。
エドワードをフィオレッナの手の内から取り戻して、そして……たとえそこでエドワードから見限られたとしても。
このまま、尻尾を丸めて退場するわけにはいかないのだ。
エドワードを取り戻す。どんな手段を用いようとも。大切なものを二度と失わないために。
「……なあ、もう、食えねーんだけど……」
テーブルの上に並べられているのは、山のような美食の数々だ。オードブルに始まってメインディッッシュ、デザートに至るまで繊細な盛り付けは「聖餐」と言ってもいいほどだ。前菜からデザートまで隙など全くないのである。が…。
グリーンピースのクリームスープのカプチーノ仕立てなどは味のみなら喉越しまで滑らかで。パンチェッタで巻いた黒豚フィレ肉のポワレの新ジャガイモのブレゼ添えはフルーツチャツネソースかけてお召し上がりください、などと給仕の者から言われ仕方なしにその通りに口に含んだ瞬間に、豚なんかより牛のステーキの方がいいのにな~などという発言は速攻撤回した。シャンピニヨンと赤ピーマンのペルシヤード、卵のポッシェとラヴィオリだとか的鯛とバジルノクレピネット、南瓜のカネロニだとか牛肉とポテトのマラガ風だとか、料理の名前なんぞは一々覚えていられなくてもその腰が抜けるような美味さだけは身体の隅々にまで行きわたってしまう。
が、もういい。もう飽きた。
フォアグラポワレ、アンディーヴのコンフィとパンデピスなどという舌をかみそうな名前の料理も、まあ、舌をかむのではなく舌は蕩けたのだけれども。でももういい。もう食えない。昨日も今日も一昨日も……このフィオレッナに提供される食事は全て、一流どころのシェフが素材から吟味した渾身の一撃!というくらいのすんばらしい食事だということはわかる。が……。
「なあ……。もー、こんな生活、オレ飽きた……」
にこやかにほほ笑みながら銀のカラトリーを流れるような手つきで操っていたフィオレッナに、 行儀悪くフォークを加えたまま、エドワードは咎めるような視線を向けた。
「あらあ?食事は一流、貴方のだーい好きな錬金術の希少本も、私の家の情報も読み切れないほどに用意してあげているっていうのに、なあに?その、態度」
確かにそうなのだ。今まで読みたくて読みたくてそれでも見つけることさえ出来なかった錬金術書の数々はあっさりとフィオレッナの寝室へと運ばれた。しかもこのエドワードをして未だに読み切れていないほどの大量に。与えられる食事、書物。この二つさえあればエドワードには文句はない、はずだったのだが……。
……一応、オレ、潜入捜査って名目でここに留まっているんだけどな……。
それに関しても実は全く問題はなかったのだ。フィオレッナの部屋から出て、ファルザーノに見つかりふたたび寝室のベッドの上に押し倒されそうになるだとか、コルネオ家中を探りまくって有能な部下の方々の銃器にハチの巣にされる危険どをわざわざ冒してこの家中を探らなくても……何のことはない、フィオレッナの言葉の通りに彼女は全て包み隠さず教えてくれていたりするのだ。言葉だけでは信用ならないでしょうから、と錬金術書とともにポンと手渡された書類などは、これを持って中央司令部にでも駆け込めばさすがのコルネオ家とも云えども没落に追い込まれそうなほどの、物的証拠。ファルザーノがどのように裏の社会とつながりを持ち、資金を運用し……更には過去に起こしてきた政府高官の暗殺やら軍部内の汚職やら、まあその手の様々にかかわってきたことに対する全ての報告だの。今回のロイ・マスタング大佐暗殺計画にかかわっている人物・組織の相関図だの。探ろうとしなくてもフィオレッナは全てエドワードに示してきた。
よって、この部屋に捕らわれてからエドワードのしたことと言えば。
食事やらおやつやらをフィオレッナとともに頂く。
錬金術書を熟読する。
フィオレッナの持ってくる書類に目を通しながら、不明点は全て質問して聞いてしまう。
以上三点、それ以外にすることはないのである。
つまり、あれから。フィオレッナの部屋から一歩も出てはいないのだ。
あんまり身体を動かさないと鈍りそうと思ってはみても、部屋でストレッチでもトレーニングでも好きにできるでしょ?と窘められる。確かに広い、のだ。フィオレッナの寝室、ではあるのだけれどももう何十人でも暮らせるだろうという程度には面積に余裕がある。さすがに一緒のベッドで同衾することは避けたが、この部屋のソファで寝たところで下手なベッドなんかよりはよっぽど寝心地が良かったりもする。環境的にも何にも問題はない。いや、着るものがフィオレッナのドレスということについては声を大にして文句も言いたいところではあるのだが。
が、……。
環境的要因よりも何よりも、エドワードの心情的に問題だらけなのである。
……まったくこの人はどーゆーつもりでオレをここに置いてんだろ…。
餌ばかりをちらつかされていてははっきり言って居心地が悪い。何故、このような待遇に置かれているのか。フィオレッナの目的は見えない。いや、大局的な目的はフィオレッナがこのコルネオ家を手中にすることだろう。そのために父親すら廃することを厭わずに、見合い相手として呼ばれたロイすらも手駒にしようする。それはわかっている。だか、こう何日も何日も呑気に食って飲んで休んでを繰り返していれば何かそれだけではない裏がありそうで。もしかしたら時期を待っているだけなのかもしれない。彼女が不敵にもロイに、告げた言葉は「返事は次に会った時で構わない」だったのだから。次とはいつなのだろうか?そのためにフィオレッナは何かの布石を打っているのだろうか。あの時のロイを思い出せば、ロイが……ロイの動向が気になってしまう。本当にロイがファルザーノを暗殺することになるのだろうかと。いや、それは誤魔化しなのかもしれない。せめてヒューズさんとかアルにでも、一言でも報告くらいできるといいんだけどな、きっと、アルフォンスは自分の身を心配しているに違いないのだからと、そう思い悩むのはエドワードの本心で、でも心のその底で今一番に想っていることではない。
一言くらい声が聞きたい。声を聞かせたい。
アルフォンスに無事だよと、言いたいのはあくまで心の表層で。その奥底には本音が潜む。……ロイの声が聞きたい。話を聞きたいのだと。
今、大佐は何を想ってる?オレとホントに別れちまいたいかな……。
想いに沈みそうになったエドワードを、はっと現実に戻したのはフィオレッナの壮絶な笑顔だった。常のふわふわとした表情ではない。背筋をまっすぐにのばし、貫くようにエドワードを見据えていた。
「ねえ、ちゃんと現状くらい把握しておいてちょうだいね。貴方は私の大事な人形なのだから。……来るべき日には、存分に働いてもらうわ錬金術師さん。……等価交換って言葉、もちろんよくご存じよね?」
来るべき日。それが何なのか。エドワードは見えぬ未来にほんの少しの戦慄を覚えた。
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話を進めないと、と思いつつワンクッション持ってくる私……。
さてこの先の展開はどーなることやら…。
第九話担当、ノリヲでした……。
コールドレイン 第8話
雨は上がっていた。
だが、夜空は見えない。雲に覆われ煌く星も暗闇を照らす月明かりもなく、コルネオ家の屋敷から漏れる光だけが、唯一の明かりだった。
その灯りから、誰かが出てくる。
漆黒の髪と瞳の持ち主は、まるで周りの闇と同化して見失いかねない。けれど、発している殺気がその存在を知らしめていた。
「ようロイ、パーティーの主役の一人だというのに随分お早い帰宅だな」
来客用に置かれた車の陰からヒューズが出てきてロイに問う。その声色は珍しくどこか怒気を含んでいて。
薄明かりの元でもはっきりと見える。あの人懐こい笑顔はどこにもなく、鋭い視線がロイを睨んでいることを。
そして、ロイは―――。何故ヒューズがここにいるのか、そのことを次の言葉で理解した。
その言葉はロイを攻めるように、やはり怒気を含んでいてヒューズらしくないものの言い様だった。
「何だ、お前さん一人だけなのか」
――何故、お前一人だけでコルネオ家から出てくるんだ――
「お前は…っ、お前があの子をけしかけたのかっ!」
「だったらどうなんだ?」
「ヒューズッ!!」
堪らず親友の胸倉を掴む。そのままヒューズを殴りかかりそうな勢いに、傍に控えていたアルフォンスが慌てて止めに入った。
「大佐っ、やめてください!」
だが止めに入ったアルフォンスの姿を見るなり、ロイの怒りは更に上昇してしまう。
「アルフォンス、君も承知のことなのかっ」
二人して、よりによって自分の親友とエドワードの弟が二人してあの子を潜入させたというのか!?
怒りと困惑で思考がまともに動かないロイに、ヒューズは更に言葉を募る。それは挑発とも取れる言葉でロイを攻め立てていた。
「エドがじっとしていると思うか?それ以前に、あんな別れ方で納得するはずがないだろ。情報を掴んで遅かれ早かれコルネオ家に乗り込むに違いない。それも不確かな情報に躍らされてオレに何の相談もなしに単身でだ」
そんな事になれば、最悪以外なにもない状況に陥ることは必須だ。なら、それなら最初から適切かつ正確な情報を元に作戦を実行する方が、エドワードにとって何倍も安全で確実なのだ。
たとえそれが、潜入捜査や囮捜査になろうとも、だ。
「だからといって、あんな格好までさせて!ファルザーノの性癖はお前も知っているだろっ!」
「ああ知っている!知っているがあれ以外ないだろがっ!そのまま素で送込めば良かったのか!?軍の上層部がわんさかいるこのパーティーに!」
「ま、待ってください!まさか兄さんに何かあったんですか!?」
怒鳴りあう中に不似合いな子供独特の高い声が響いた。その泣きそうな切羽詰った声にロイとヒューズは押し黙る。
「大佐っ、兄さんはどこなんですか!ファルザーノさんと接触があったんですか!?」
あったも何も、そのファルザーノにエドワードが何をされたのか、されそうになったのか、考えただけでもロイは吐き気がする。
何をどこまでなのか等、確かな事は分からない。ただ間一髪のところでファルザーノの手から逃げおおせてくれていたらと、そう願わずにはいられないというのがロイの本心だ。
「まさかな、幾らなんでもお前さんが何もしないで、エドを置いてくるとは思ってもいなかったな」
「それは…っ」
あの雨の日、何も知らせないで無言の別れを告げた。それはロイの身をも切り刻むほどに辛いものではあった。
だが、エドワードを切り捨ててしまった事には違いない。
そして、この夜。
むざむざエドワードを敵の手に落として引き上げるしかなかった。
何もしないで置いてきた―――そう非難されても仕方がない。何もかも、最初からボタンを掛け間違えたのだと、お前が悪いと、そうヒューズに攻め立てられても何も、ロイには何の弁明もできない。
「ヒューズ…」
「なんだ」
「ファルザーノは確かに敵だ。あの子に何かしようとしたのは間違いないのだからな、絶対に許しやしない。だがその上がまだいる。この足元にひれ伏せさせなければならない相手がな」
初めて敗北を味わったと、噛み締める唇がそう言っていて。こんなロイをヒューズが見るのは初めてだ。
この強かな親友を、ロイ・マスタングに敗北感を味わせた相手がいる。
「あのファルザーノ以外に、あの男より上の奴がいるっていうのか」
「ああ、フィオレッナだ」
「噂の腹黒娘か?そんなに手ごわいのか」
「鋼のは、その女の手の中にある」
「おいおい、まじかよ…」
ファルザーノの一人娘、フィオレッナが一番厄介で危ない存在。ロイですらエドワードを盾にとられ手も足も出なかった。
「頼む。お前の協力が必要だ、力を貸してくれ。アルフォンスもすまない」
二人に頭を下げる。
驚いたのは、頭を下げられた二人だ。だが、今のこの状況が酷く困難で緊迫しているのを肌で感じ、これ以上ロイを攻め立てても何もならないのを知っていた。
そして何よりも、ロイと共同して一刻も早く対策を立て直さなければいけない事も。
薄暗い路を、一台の車が去っていくのを、フィオレッナは自室の窓から見ていた。
「男の長話は嫌われてよ、マスタング大佐」
上品な口元が、くすりと笑みを浮かべたのだった。
短いです。そして話は進んでいません。
ご、ごめんなさーっ!
まいこ
短いです。そして話は進んでいません。
ご、ごめんなさーっ!
まいこ
「一番大事なものを手放そうとするから隙ができるのよ?そこに付け入られるのも貴方の手落ちね」
悪魔のような笑み。けれど発している口調はおかしいくらいに静かなのだ。慈愛に満ちているとさえ受け取れるほどに。
「雨の中、ずっと待たせて。貴方は雨に濡れているこの子を見続けていた……。ねえ、何を告げるつもりだったの?」
告げる、つもりだった。
あの冷たい雨の中。悲しみに濡れるエドワード。
あの場所でずっと、雨に濡れることも構わず私を待っていてくれた彼に。
さよなら、と。
来てくれて、そして私を待ち続けていてくれた。それだけで十分だった…・・・はずなのに。
目的へと走る自分についてきて欲しいなどと言えるはずもなく。
エドワードもエドワードで。叶えなければならない望みがあるのだから。
この別れは必然なのだと、これがお互いのためなのだと。
別れたとしても、この気持ちは変わらないと。そう、そのはずだったというのに。
……これは、なんだ。この女は……。手放そうとするから隙ができる、だと?
「何が言いたい、貴様……」
笑顔の下で何を考えているのかわからない。今ロイにはっきりとわかっているのはフィオレッナの恐ろしいほどの情報の正確さ、のみだ。感情に引きずられそうになる心を、ロイは何とか理性で止めようとていた。
「この子のことを貴方はもう手放すのでしょう?なら私が好きにしてもいいということよ」
「……何をする、つもりだ」
尖った氷に切りつけられたように寒気が走る。ふるえそうな指先をとどめているのはロイの矜持でしかない。冷静に対処せねば思わぬ落とし穴に落とされる。それがわかっているというのに反撃の糸口がつかめないどころか焦りだけが増していく。フィオレッナのペースに乗せられたまま、どんどんと退路を狭められていくような感じさえしてしまう。
「無関係なモノ、でしょう?壊そうと汚そうと貴方に口を出す権利はないわ。貴方が捨てたものを私が拾った。ただそれだけよ?ああ、そう…ね。少しだけ教えてあげようかしら?……パパはこの人形で遊ぼうとしたわ。乱暴で好き勝手する困ったパパでごめんなさいね?でも私は綺麗に着飾ってここに大事に座らせてあげているの。……いつか飽きるまで、ね 」
ころころと声を立てて笑うフィオレッナに対する怒りが抑えられそうもない。冷静に、と理性は告げてくるのだが感情は叫ぶのだ。そんなことのために私は彼を手放そうとしたのではない、と。
「……鋼のに何かしてみろ。その時は私が貴様を地獄に送ってやる」
低く抑えたかすれた声。そこにはフィオレッナに対する怒りとも殺意ともとれるほどの強い衝動が込められていた。けれどこの言葉を聞いた瞬間、フィオレッナは「あははははははは」と高笑いをしたのだ。
「そうやっていつまでも逃げているがいいわ、ロイ・マスタング。情けない男ね。この子を心の底から捨てることもできず、ただ、相手の幸せのために身を引いたなんて似非ロマンチシズムに浸るのがお似合いよ。『別れても愛しているのは君だけだ』なんて自分に酔ったセリフでも言うつもりだったんでしょ?笑わせないで。そんなのは捨てる方の勝手な言い分だわ。身勝手な理屈であなたの都合に振り廻されたほうがどれほど傷つくと思うの?それを受け止めることもできやしないクセに」
ぐ、っと。詰まった。感情は激昂するが、フィオレッナの言うことはある意味正論で。だがここで引き下がるわけにはいかない。ロイは口を開きかけたが、フィオレッナに機先を制された。
「……まあいいでしょう。いきなり要求を突きつけて即答しなさいなんて不作法ですもの。お返事は次に会った時で構いませんわよ?」
たおやかな笑顔でフィオレッナは会話を終了させた。そして、いつの間にか開けられていたのか扉の向こうには銃器を構えたフィオレッナの部下たちがずらりと勢揃いしていて。
「お客様はお帰りよ。丁重にお見送りを」
部下に告げた言葉は簡潔だ。ロイはやはりフィオレッナを睨みつけることしかできなかった。
「ごきげんよう、ロイ・マスタング大佐。次に会う時を楽しみにしておりますわ」
フィオレッナの声はバタンと閉められた扉に遮られたのか、それともロイへと届いたのか。どちらにしろそれにはフィオレッナはすでに無関心だった。手にしていたライフルはポイっと投げ捨てて、スカートをひるがえすようにくるりとエドワードの方を向いた。
「もういいわよぉ、起きているんでしょ?」
ゆっくりと見開かれた金色の瞳。それはフィオレッナを睨みつけていた。
「あのな、アンタ、大佐のことイジメすぎ。……あれじゃ、今頃……」
「話したことはすべて私の本心よ。どの道を選んでもらっても私は構わないの。私の目的はこの家を手にすること。そのためにはパパがどうなろうとロイ・マスタングがどうなろうと知ったことではないわ。ついでに言うとあなたも今のところ私の大事なカードの一枚にすぎないわよ?」
首をかしげるその様子は愛らしい。だがその口調や雰囲気にうっかりだまされてはいけないのだ。確かにフィオレッナは本心しか話さないのだろう。それが彼女に捕まってからの短い時間の中でもエドワードには感じられた。かといって油断は禁物なのだ。ロイすらやりこめてしまうほどの手腕の持ち主、父親の駒になどなる女性ではないのだろう。抜きかけた気を引き締めなければと、エドワードは未だうまく動かない手足の代わりに思考のみを巡らし始めた。
「一応しばらくは大人しくしてやってもいい。だけどオレはカードなんかじゃねえ。……オレはオレのルールで動く。ロ…、大佐を、アンタの駒なんかにはさせねえ……」
潜入捜査の目的は半分は果たしたようなものだ。ファルザーノが何を考えどう動くつもりなのか。それはわかった。けれどそれがわかったところでエドワードは今この段階でこの家から離れるわけにはいかなかった。ファルザーノよりもこのフィオレッナがどう動くか、それが全くと言っていいほど読めないのだ。本気で、ロイに自身の父親を殺させようとしているのか、それともそれを布石に何か事を起こそうとしているのか。それすらわからねばこの状況を好転させられる勝機も掴むことはできない。多少の身の危険は感じなくもないが、ここはしばらくフィオレッナの動向を探るしかない。エドワードは決意をこめて睨みつける。が、フィオレッナはくすりと微笑むのみだった。
「貴方ねえ、あんな身勝手な男、甘やかすことないでしょお。自分を大事にしてくれない男と付き合っていてもメリットはないわよ?雨の中、何時間も貴方を待たせて。それを影から見ているだけで何にも言わないで次の日には私とお見合いよ?ついでに言うと私とあの人、結婚まで一直線かもしれなくてよ?あなたそれでいいわけ?」
「いいわけねえだろ……」
「わかっているのならなんとかなさい…・・・って、ああそうね。そのためにこの家まで乗り込んできたんですものね。私、そういうのは好きよ」
それもあるが、ロイを暗殺させるわけにいかないからコルネオ家の尻尾くらいつかむつもりの潜入捜査だとはさすがに言うことのできないエドワードではある。
「……なあ、本気でアンタのあのクソ親父。大佐に…殺させるつもりなのか?」
話題を切り替えるためエドワードは単刀直入に切り出した。
が、しかし。フィオレッナはええと?と首をかしげるのみだ。
「どの道を取ってもらってもいいわよぉ?……あのね、私のパパはロイ・マスタングを暗殺してもいいし、私と結婚させて上手い具合に東方を牛耳ってもいいしでどう転んでも自分の利益に結びつくような方法をとるの。私もそうよ。本当に殺してもらってもいいし、パパをこの家の当主から引きずり落とすだけでもいいの。……コルネオの家の者はメリット追求主義なの」
あまりにあまりの言葉にエドワードはあんぐりと口を開けた。
「ねえ、それよりお茶にしない?しゃべりすぎて疲れちゃったのよ」
ふうと吐き出されたため息に、エドワードはこっちの方がため息をつきたいと思った。本当に何を考えているのか少しも読むことができない。言っていることに嘘は感じられないけれど、状況が変われば取る立場もコロコロと変わるのだろう。いっそこの人にコルネオ家を支配させたほうがいいのかもしれない。現状の政権を裏の経済から支えさせるのではなく彼女の人脈だの家の力だのをすべてロイを上に押し上げるために使うことができるのなら。これほど強力なバックもないのかもしれないのだが。
「なあにがお茶だよ。アンタに嗅がされた薬、まだ利いてるんだぜ?……しゃべるくらいは出来っけど、手も足もまだちょっと痺れてるんだけどよ?」
ふと浮かんだ考えだったそれは妙案であるような気もして、軽口をたたきながらもエドワードは錬金術師の論理的な思考で現状を分析してみようと試みた。
力は力だ。それをどう使うかは使うもの次第である。今ここにあるコルネオ家の力。メリット追求主義だというのなら、何も現政権を支えるためだけに暗躍しなくてもいいのではないだろうか。たとえば表舞台に立たせ、堂々と裏の手段を取ることなく権勢を伸ばす。それができれば、そしてあのファルザーノの腐れ親父はともかく、この人なら。そういう真っ当な道の方を望むのではないだろうか。現状ではこんな考えなどとっさの思いつきというよりも単なる机上の空論に過ぎないのだが。それほど大きくフィオレッナの本質から外れていないような気に、何故だかエドワードはなってしまった。
上手く、大佐がこのヒトを御することができるのか?それはかなり難しいと思う。なら、お互いにメリットを提供し合えればいいんじゃねえのかな。大佐も得して、このヒトも得する。そんな道があれば。
だが、上手くいくかどうかというよりも、この考えが前提条件として正しいのかさえも不明で。
もっと、詳しく。この人を知らないといけないのかもしれない……。
さらに深く考えに集中しようとしたが、
「ああそうねえ。うーんと、じゃあね、私が飲ませてあげるわね♪口移しで、のほうがいいかしらー?」
歌うように告げられた発言内容に「な、な、ななななななな……っ!」とエドワードは真っ赤になってしまったのだ。
「くそ……っ!」
完全に今回は負け、だ。その点は認めざるを得ない。侮っていた。コルネオ家をではなくその家の娘を。見合いなどという名目で、父親の駒にされる娘であるのならばどうとでもできるなどと思いあがっていたのかもしれない。完全に、負けた。もう一度、駄目押しのようにロイは胸の中で繰り返した。あれほどの情報の正確さと速さ。どこから手に入れたのか。それすら皆目見当がつかない。そして捕らわれてしまったエドワード。その彼を目の前にしながら引き下がることしかできない自分の不甲斐無さ。考えなければいけないことは山ほどある。
何故あの場にエドワードが捕らえられていたのか。
どうやったら彼をこの手に取り戻すことができるのか。
無意味な殺人などできるわけもない。
コルネオ家を、国の安寧を邪魔する勢力は可及的速やかに取り除かなければならないというのに。
なのに。
胸に浮かんでくるのは現状を覆す策ではなくて、先ほど告げられた言葉の数々だ。
ああ、確かに逃げていたのかもしれない。情けない男と罵られても仕方がない。
フィオレッナだけでなく、ヒューズにも言われた言葉が脳裏を掠めた。
「一番大事なものを見間違えても…か……」
ああ、確かに間違えた。
かもしれないではなく。間違えたのだ。その結果、小娘ともいえるような年齢のフィオレッナにエドワードが捕らわれてしまったのだ。
だが、このままでは終わらない。少なくともエドワードをあの家から救出しなくてはならない。
今回の負けは認めよう。そして如何に己が不甲斐無かったのかも。だが、ロイは負けたまま引き下がるような男ではなかった。何をどうすることが勝ちにつながるのか。それはわからなくとも。
「このままで終わるものか……」
負け惜しみではなく決意として。ロイは前を睨みつけた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
第七話担当ノリヲでした。
ロイVSフィオ嬢ちゃん。第一ラウンド終了~、勝者フィオレッナ!さあ、第二ラウンドは?
悪魔のような笑み。けれど発している口調はおかしいくらいに静かなのだ。慈愛に満ちているとさえ受け取れるほどに。
「雨の中、ずっと待たせて。貴方は雨に濡れているこの子を見続けていた……。ねえ、何を告げるつもりだったの?」
告げる、つもりだった。
あの冷たい雨の中。悲しみに濡れるエドワード。
あの場所でずっと、雨に濡れることも構わず私を待っていてくれた彼に。
さよなら、と。
来てくれて、そして私を待ち続けていてくれた。それだけで十分だった…・・・はずなのに。
目的へと走る自分についてきて欲しいなどと言えるはずもなく。
エドワードもエドワードで。叶えなければならない望みがあるのだから。
この別れは必然なのだと、これがお互いのためなのだと。
別れたとしても、この気持ちは変わらないと。そう、そのはずだったというのに。
……これは、なんだ。この女は……。手放そうとするから隙ができる、だと?
「何が言いたい、貴様……」
笑顔の下で何を考えているのかわからない。今ロイにはっきりとわかっているのはフィオレッナの恐ろしいほどの情報の正確さ、のみだ。感情に引きずられそうになる心を、ロイは何とか理性で止めようとていた。
「この子のことを貴方はもう手放すのでしょう?なら私が好きにしてもいいということよ」
「……何をする、つもりだ」
尖った氷に切りつけられたように寒気が走る。ふるえそうな指先をとどめているのはロイの矜持でしかない。冷静に対処せねば思わぬ落とし穴に落とされる。それがわかっているというのに反撃の糸口がつかめないどころか焦りだけが増していく。フィオレッナのペースに乗せられたまま、どんどんと退路を狭められていくような感じさえしてしまう。
「無関係なモノ、でしょう?壊そうと汚そうと貴方に口を出す権利はないわ。貴方が捨てたものを私が拾った。ただそれだけよ?ああ、そう…ね。少しだけ教えてあげようかしら?……パパはこの人形で遊ぼうとしたわ。乱暴で好き勝手する困ったパパでごめんなさいね?でも私は綺麗に着飾ってここに大事に座らせてあげているの。……いつか飽きるまで、ね 」
ころころと声を立てて笑うフィオレッナに対する怒りが抑えられそうもない。冷静に、と理性は告げてくるのだが感情は叫ぶのだ。そんなことのために私は彼を手放そうとしたのではない、と。
「……鋼のに何かしてみろ。その時は私が貴様を地獄に送ってやる」
低く抑えたかすれた声。そこにはフィオレッナに対する怒りとも殺意ともとれるほどの強い衝動が込められていた。けれどこの言葉を聞いた瞬間、フィオレッナは「あははははははは」と高笑いをしたのだ。
「そうやっていつまでも逃げているがいいわ、ロイ・マスタング。情けない男ね。この子を心の底から捨てることもできず、ただ、相手の幸せのために身を引いたなんて似非ロマンチシズムに浸るのがお似合いよ。『別れても愛しているのは君だけだ』なんて自分に酔ったセリフでも言うつもりだったんでしょ?笑わせないで。そんなのは捨てる方の勝手な言い分だわ。身勝手な理屈であなたの都合に振り廻されたほうがどれほど傷つくと思うの?それを受け止めることもできやしないクセに」
ぐ、っと。詰まった。感情は激昂するが、フィオレッナの言うことはある意味正論で。だがここで引き下がるわけにはいかない。ロイは口を開きかけたが、フィオレッナに機先を制された。
「……まあいいでしょう。いきなり要求を突きつけて即答しなさいなんて不作法ですもの。お返事は次に会った時で構いませんわよ?」
たおやかな笑顔でフィオレッナは会話を終了させた。そして、いつの間にか開けられていたのか扉の向こうには銃器を構えたフィオレッナの部下たちがずらりと勢揃いしていて。
「お客様はお帰りよ。丁重にお見送りを」
部下に告げた言葉は簡潔だ。ロイはやはりフィオレッナを睨みつけることしかできなかった。
「ごきげんよう、ロイ・マスタング大佐。次に会う時を楽しみにしておりますわ」
フィオレッナの声はバタンと閉められた扉に遮られたのか、それともロイへと届いたのか。どちらにしろそれにはフィオレッナはすでに無関心だった。手にしていたライフルはポイっと投げ捨てて、スカートをひるがえすようにくるりとエドワードの方を向いた。
「もういいわよぉ、起きているんでしょ?」
ゆっくりと見開かれた金色の瞳。それはフィオレッナを睨みつけていた。
「あのな、アンタ、大佐のことイジメすぎ。……あれじゃ、今頃……」
「話したことはすべて私の本心よ。どの道を選んでもらっても私は構わないの。私の目的はこの家を手にすること。そのためにはパパがどうなろうとロイ・マスタングがどうなろうと知ったことではないわ。ついでに言うとあなたも今のところ私の大事なカードの一枚にすぎないわよ?」
首をかしげるその様子は愛らしい。だがその口調や雰囲気にうっかりだまされてはいけないのだ。確かにフィオレッナは本心しか話さないのだろう。それが彼女に捕まってからの短い時間の中でもエドワードには感じられた。かといって油断は禁物なのだ。ロイすらやりこめてしまうほどの手腕の持ち主、父親の駒になどなる女性ではないのだろう。抜きかけた気を引き締めなければと、エドワードは未だうまく動かない手足の代わりに思考のみを巡らし始めた。
「一応しばらくは大人しくしてやってもいい。だけどオレはカードなんかじゃねえ。……オレはオレのルールで動く。ロ…、大佐を、アンタの駒なんかにはさせねえ……」
潜入捜査の目的は半分は果たしたようなものだ。ファルザーノが何を考えどう動くつもりなのか。それはわかった。けれどそれがわかったところでエドワードは今この段階でこの家から離れるわけにはいかなかった。ファルザーノよりもこのフィオレッナがどう動くか、それが全くと言っていいほど読めないのだ。本気で、ロイに自身の父親を殺させようとしているのか、それともそれを布石に何か事を起こそうとしているのか。それすらわからねばこの状況を好転させられる勝機も掴むことはできない。多少の身の危険は感じなくもないが、ここはしばらくフィオレッナの動向を探るしかない。エドワードは決意をこめて睨みつける。が、フィオレッナはくすりと微笑むのみだった。
「貴方ねえ、あんな身勝手な男、甘やかすことないでしょお。自分を大事にしてくれない男と付き合っていてもメリットはないわよ?雨の中、何時間も貴方を待たせて。それを影から見ているだけで何にも言わないで次の日には私とお見合いよ?ついでに言うと私とあの人、結婚まで一直線かもしれなくてよ?あなたそれでいいわけ?」
「いいわけねえだろ……」
「わかっているのならなんとかなさい…・・・って、ああそうね。そのためにこの家まで乗り込んできたんですものね。私、そういうのは好きよ」
それもあるが、ロイを暗殺させるわけにいかないからコルネオ家の尻尾くらいつかむつもりの潜入捜査だとはさすがに言うことのできないエドワードではある。
「……なあ、本気でアンタのあのクソ親父。大佐に…殺させるつもりなのか?」
話題を切り替えるためエドワードは単刀直入に切り出した。
が、しかし。フィオレッナはええと?と首をかしげるのみだ。
「どの道を取ってもらってもいいわよぉ?……あのね、私のパパはロイ・マスタングを暗殺してもいいし、私と結婚させて上手い具合に東方を牛耳ってもいいしでどう転んでも自分の利益に結びつくような方法をとるの。私もそうよ。本当に殺してもらってもいいし、パパをこの家の当主から引きずり落とすだけでもいいの。……コルネオの家の者はメリット追求主義なの」
あまりにあまりの言葉にエドワードはあんぐりと口を開けた。
「ねえ、それよりお茶にしない?しゃべりすぎて疲れちゃったのよ」
ふうと吐き出されたため息に、エドワードはこっちの方がため息をつきたいと思った。本当に何を考えているのか少しも読むことができない。言っていることに嘘は感じられないけれど、状況が変われば取る立場もコロコロと変わるのだろう。いっそこの人にコルネオ家を支配させたほうがいいのかもしれない。現状の政権を裏の経済から支えさせるのではなく彼女の人脈だの家の力だのをすべてロイを上に押し上げるために使うことができるのなら。これほど強力なバックもないのかもしれないのだが。
「なあにがお茶だよ。アンタに嗅がされた薬、まだ利いてるんだぜ?……しゃべるくらいは出来っけど、手も足もまだちょっと痺れてるんだけどよ?」
ふと浮かんだ考えだったそれは妙案であるような気もして、軽口をたたきながらもエドワードは錬金術師の論理的な思考で現状を分析してみようと試みた。
力は力だ。それをどう使うかは使うもの次第である。今ここにあるコルネオ家の力。メリット追求主義だというのなら、何も現政権を支えるためだけに暗躍しなくてもいいのではないだろうか。たとえば表舞台に立たせ、堂々と裏の手段を取ることなく権勢を伸ばす。それができれば、そしてあのファルザーノの腐れ親父はともかく、この人なら。そういう真っ当な道の方を望むのではないだろうか。現状ではこんな考えなどとっさの思いつきというよりも単なる机上の空論に過ぎないのだが。それほど大きくフィオレッナの本質から外れていないような気に、何故だかエドワードはなってしまった。
上手く、大佐がこのヒトを御することができるのか?それはかなり難しいと思う。なら、お互いにメリットを提供し合えればいいんじゃねえのかな。大佐も得して、このヒトも得する。そんな道があれば。
だが、上手くいくかどうかというよりも、この考えが前提条件として正しいのかさえも不明で。
もっと、詳しく。この人を知らないといけないのかもしれない……。
さらに深く考えに集中しようとしたが、
「ああそうねえ。うーんと、じゃあね、私が飲ませてあげるわね♪口移しで、のほうがいいかしらー?」
歌うように告げられた発言内容に「な、な、ななななななな……っ!」とエドワードは真っ赤になってしまったのだ。
「くそ……っ!」
完全に今回は負け、だ。その点は認めざるを得ない。侮っていた。コルネオ家をではなくその家の娘を。見合いなどという名目で、父親の駒にされる娘であるのならばどうとでもできるなどと思いあがっていたのかもしれない。完全に、負けた。もう一度、駄目押しのようにロイは胸の中で繰り返した。あれほどの情報の正確さと速さ。どこから手に入れたのか。それすら皆目見当がつかない。そして捕らわれてしまったエドワード。その彼を目の前にしながら引き下がることしかできない自分の不甲斐無さ。考えなければいけないことは山ほどある。
何故あの場にエドワードが捕らえられていたのか。
どうやったら彼をこの手に取り戻すことができるのか。
無意味な殺人などできるわけもない。
コルネオ家を、国の安寧を邪魔する勢力は可及的速やかに取り除かなければならないというのに。
なのに。
胸に浮かんでくるのは現状を覆す策ではなくて、先ほど告げられた言葉の数々だ。
ああ、確かに逃げていたのかもしれない。情けない男と罵られても仕方がない。
フィオレッナだけでなく、ヒューズにも言われた言葉が脳裏を掠めた。
「一番大事なものを見間違えても…か……」
ああ、確かに間違えた。
かもしれないではなく。間違えたのだ。その結果、小娘ともいえるような年齢のフィオレッナにエドワードが捕らわれてしまったのだ。
だが、このままでは終わらない。少なくともエドワードをあの家から救出しなくてはならない。
今回の負けは認めよう。そして如何に己が不甲斐無かったのかも。だが、ロイは負けたまま引き下がるような男ではなかった。何をどうすることが勝ちにつながるのか。それはわからなくとも。
「このままで終わるものか……」
負け惜しみではなく決意として。ロイは前を睨みつけた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
第七話担当ノリヲでした。
ロイVSフィオ嬢ちゃん。第一ラウンド終了~、勝者フィオレッナ!さあ、第二ラウンドは?