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作:まいこ
秋が深まったある日の午後。
その日はぽかぽかと小春日和で、ロイはご機嫌にご近所をお散歩していた。
「やあ、ミーコにメリー、ご機嫌いかがな?」
「あっ、ロイ様vv」
「ロイ様もご機嫌いかがですか?」
「君たちに出会えて最高だよ」
「「きゃ~vvvvv」」
ちなみに。
お天気は小春日和だけど、間違いなく今の季節は秋。というか、もう冬になりかけ。
猫たちの愛の季節には、まだ数ヶ月早い、というかまだまだ先のはず。
でも、この町内は別。
オールシーズン「ハートマーク」が飛び交う愛の季節真っ最中なのだ。
その原因はロイにあった。
艶やかな黒毛にスラリとしたしなやかな肢体と長い尻尾。
オス猫の色香を24時間365日惜しみなく放出している。
そんなロイを毎日見ているメス猫たちは大変だ。
季節に関係なくどっきん☆ときめき、乙女心だけでなく、淑女な猫たちもふわふわと浮きだってしまう。
そして、オスだって大変なのだ。
町内のメス猫、子猫から婆さま猫まで全てが「ロイさま~~vv」なのだから、
何とかして自分の方へ眼差しを向けようと日々努力を惜しまない。
グルーミングで自分を磨く者、喧嘩で相手を倒し強さをアピールする者、
鼠をとってひたすら貢ぐ者etc…。
真冬だって関係ない。
おかげで「にゃ~ごvにゃ~ごv」と、この町内はとっても賑やかなのだ。
でもその張本人ロイには大本命の猫がいたりする。
それは、珍しい金糸の毛並みと金色の瞳をした子猫。
………そう、まだ生後半年の【子猫】だ。ちなみに性別は♂。
ロイの飼い主が「可愛いだろ、ほら」とロイに見せてくれたのが、4ヶ月前。
まだ生まれて2ヶ月の子猫は掌に乗るほどで、
そして「みぃ~」と小さく鳴くその頼りない姿は強烈に!これ以上ないっ!!
と言うぐらいに愛らしかった。
本来子猫には、見る者を庇護欲や保護欲を掻き立てさせる不思議な力が備わっている。
でも、この金色の子猫は格別だった。
その日から、ロイの人生観(猫生観か?)は変わった。
表面上メス猫へのフェミニストぶりは変わりないが、
誰か特定のメス猫とのデートがパタリと止んでしまったのだ。
まあ、それが逆に「ロイ様ったらつれないわ。そこまた憎らしくて素敵v」なんて、
メス猫に受けてしまっていたりと、ロイの人気は衰えを知らない。
そんなロイにオス猫たちの妬みや嫉妬の眼差しが突き刺さるが、本人はまるで無視。
喧嘩をふっかける者もいたが逆に返り討ち。
益々ロイの人気は上がるばかり。
「さて。そろそろ帰って、あの子の遊び相手でもしてやろう」
足取り軽くロイが塀を乗り越え庭先に下りると、愛おしい金色の子猫がお昼寝をしている姿が目に入った。
金色の子猫、エドワードはただ今お昼寝中だ。
ぽかぽか陽射しが差し込んだ温かな縁側で、手足を思いっきり伸ばしきり、
だらり~んとお腹を丸出しで寝転がっている。
まさしく、飼い猫特有のお昼寝タイム。
かっ、可愛すぎるぞっっエドワードーッッ!!!
こっ、これはぜひっ一緒に添い寝というやつをしなければなるまいっっ!!
いそいそウキウキと縁側に上り、エドワードの寝顔をそっと覗き込む。
「こっこれはーっ!」
すぴよぴよ~と安心しきった天使の寝顔に、ロイ完全ノックアウト。
いっ、いかん!
エドワードはまだ生後6ヶ月ではないかっ!
ぐっ、我慢だロイ・マスタング(猫だけどフルネームがある)ここは忍耐のみせどころではないかっ!
ぐががががぁぁーっと湧き上がる熱い思いを、どうにかこうにかロイは必死に思い留めた。
が、その反動で体力の消耗は激しく、ぜーはーぜーはーと息遣いが荒い。
しかも、どきどきと胸の高まりを抑える事ができない。
百戦錬磨と名高い黒猫ロイが子猫に初恋をしたあげく、ときめいてしまっている。
私としたことが、何たる不覚。
だが今は。
「と、とにかく添い寝だ…っ」
目の前の美味しいシチュエーションにとにかく急げと、ロイまっしぐら。
だが。
「ぼくもおひるね~」と、すっと割り込んできたのは。
「アッ、アルフォンス!」
そう、エドワードには弟がいた。
といっても猫だから本来四兄弟だったのだけど、ロイの飼い主に貰われてきたのは、
エドワードとすぐ下の弟アルフォンスの2匹だった。
で、このアルフォンスが意外に曲者で、何かと良いタイミングでロイの邪魔に入ってくるのだ。
今だってそう。
エドワードの小さな体に添い寝をしようと近寄った瞬間、アルフォンスは割り込んできた。
そして、ロイなんかお構いなしにエドワードにくっ付いて、寝転がってしまった。
生後6ヶ月の金色と栗色の子猫が二匹。
じゃれあう様に縁側でお日様に当たってお昼寝。
その姿は観る者の心を和ませ、そのあまりの可愛らしさに誰しもがノックアウトされる。
ロイという例外を除いて。
だって、ロイは知っている。このアルフォンスの異常なまでのブラコンを。
今だって今だって!
エドワードにくっ付く時に、アルフォンスはロイの方をちらりと見て、
そして「ふん」と、鼻で笑ったのだ。
「こ、子猫の分際で……っ」
【頭にくる】とはこの事。
「どきたまえっ!そこは私の定位置だっ」
二匹の間に頭をぐいぐいと突っ込んでいく。はっきりいって大人気ない。
でも、アルフォンスだって負けてはいない。
あくまで寝たままの体勢を崩さず、必死にエドワードにしがみ付いて頑張っている。
ぐいぐい割り込もうとするロイ、踏ん張るアルフォンス、あくまで熟睡のエドワード。
だが、その均衡が破られた。
「お前はーっ子猫のお昼寝を邪魔するやつがあるかーっ!!」
「なっ!?」
飼い主によってロイは首根っこを掴まれ、ぽい~~~っと放り出され、
塀の間際にある植え込みへと、真っ逆さまに突き刺さる。
その様子を塀越しに見ていた隣の大型犬、ハボックは恐る恐るロイに声をかけた。
「大丈夫ですか~、ロイさん」
「お、おのれ…っ、なんて乱暴な飼い主なんだ」
「いや、あの~ロイさん大人気ないと…」
「なんだと、ハボック」
「いえっ!なんでもないっす!」
犬だけど、しかも大型犬だけど何故かハボックは、この黒猫ロイには頭が上がらない。
猫に睨まれ、身を竦める。
ロイが再び縁側に目線をやると、飼い主の膝の上で幸せそうに眠る子猫が二匹。
でもアルフォンスとは、ばっちり目があった。
『ふふん、ば~か』
と、あの栗色の瞳が言っている。
「あ、あんの小憎たらしい生意気なクソガキがあぁぁぁっ!」
猛然と飛び掛ろうとするも。
「うるさいぞ、ロイ!」
飼い主、イズミに一喝されて掴まれて、今度は塀の外へと放り出されてしまった。
塀の外、溝の中でドロドロになりながら、「明日こそ絶対、エドワードとお昼寝をしてみせる!」と。
黒猫ロイは固く、固く誓ったのだった。
おしまい