-------------●ここは鋼の錬金術師「ロイ×エドSSリレー企画」の二次創作サイトです♪●-------------※全ての画像・テキストの無断掲載持ち帰りはしないでください・初めての方は「about」をお読みください※since07/10/25
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更新のお知らせです。
拍手「叔父ロイ×中学生エド」第5話をUP。
それに伴い、第4話をシリーズのお部屋へ移動しました。
拍手「叔父ロイ×中学生エド」第5話をUP。
それに伴い、第4話をシリーズのお部屋へ移動しました。
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まったく女というものは身支度に時間がかかる生き物だ。
彼女がこの場を退室して、かなりの時間が経過したように感じる。
その間増えるばかりの招待客をさり気なく横目でチェックしながらも、営業スマイル全開で自分に寄ってくるご婦人方のお相手をしていた。
それにしても盗み見た招待客の顔ぶれは素晴らしいものがある。
財界の著名人や有名人・資産家などの顔があちらこちらに見える。
さすがはコルネオ家主催のパーティーだけのことはある。
だがただのパーティーにしてはいささか物騒だ。
ガートーマンの数が多すぎる上、どうやらボーイや召使いなどに扮している者もいるらしく。
明らかにガタイや仕草が本来のそれとは違っている。
ご婦人のダンスへのお誘いをさらりとかわしながらも、辺りの様子を伺えば置かれている現状にその身が引き締まる思いだ。
一筋縄ではいかない相手とわかっていたから、覚悟は決めていた。
身内の懐に飛び込むのが一番と、罠であると知りつつも見合いの誘いにのり、偽装結婚をしてでも潜り込むつもりだった。
だが以外にも見合い相手の娘はただのお飾りではなく、色々とその胸に思惑を秘めているようだ。
信用している訳ではないが、先ほどの彼女とのやり取りの中には、自分個人に対しての敵意は薄いと見た。
いい加減待たされてそろそろしびれも限界だ。
ここに来てずっと姿を現していない、ファーザー・ファルザーノのことも気になっていた。
だがフィオレッナが「待っててくださる?」と言い残している以上勝手に動く訳にもいかない。
この状態で不審な動きを見せてしまえば全てが水の泡だ。
何よりフィオレッナの不興をかうのは得策ではない。
「ロイ・マスタング様・・・」
不意に背後立たれて、反応しそうになったのをなんとか押しとどめた。
戦争経験のある軍人の悪い癖で、背後を取られると・・・・・体が勝手に反応して身構えてしまう。
殺気は・・・・ない。
だが、やはり音もなく近づいてくる様は何かしらの訓練を受けたもののようで、振り返ったその先にいたのはボーイの服を着た男だったがどこか気は許せなかった。
「そうだが、何か? 」
「フィオレッナ様がお呼びです。お支度が整ったとのことで・・・・・ご案内するように言い付かりました」
やっと、か。
こみ上げてきそうな盛大な吐息をなんとか押しとどめて、ロイは男の後ろ姿を追った。
「こちらです」と一言だけそう言い残して、男は一礼して踵を返した。
その部屋は会場から少し離れた場所にあった。
なかなか豪勢な作りの、大きな二枚扉だ。
ロイは取り合えず「トントン」と二度ほどノックをした。
「どうぞ、お入りになって」
中からはフィオレッナの声がした。
「失礼・・・」ロイはそう告げると、そのドアの扉を開いた。
ギギギギッと重たい音をたてて、ドアは開いた。
部屋はどうやら彼女の私室のようで、配置された家具や装飾品・カーペットに至るまでの一つ一つ。
とても凝った装飾が施されて、女性らしい優しいカラーで統一されていた。
「よろしいんですか?見るからに私室のようだ。見合いといえどいきなり会った当日に、あなたの個室に招きいれるなど、何かのお誘いと期待してもいいんでしょうか。お父上が知られたらマズイのでは」
部屋の真ん中に設置された応接セットに座っていた彼女は、優雅な仕草で立ち上がった。
「あら、パパにはナイショのお話だから、ここにお呼びしたんですわ」
言いながら手馴れた仕草でソファを勧められた。
「それは光栄なことだ」
答えながらロイは勧められたソファへと歩を進めた。
「でも・・・・あなたは私に女性としての価値など期待されてないでしょう?」
あっさりとロイの言葉をそう切って捨てて、彼女はにっこりと笑った。
「いえいえ、社交辞令を差し引いても、あなたは十分魅力的な女性だ。ファーザー・ファルザーノの娘という肩書きに埋もれさせてしまうには惜しいぐらいだ」
言いながら応接セットの前まで来ると、ロイは立ち止まった。
「ええ、あなたのおっしゃるように、私はお飾りなどで終るつもりはないの。私達、気が合うと思いません?」
ロイは思わず苦笑した。
決して侮れない相手だが、一時的にでも手を組むのは悪くないかもしれない。
そう思いかけた矢先・・・・・彼女は急にロイに背を向けて、部屋の隅へと歩を進めた。
「ここに呼んだのはあなたに私の大事なお人形を見て貰いたくて・・きっとあなたも気に入ると思うのよ」
そういいながら、彼女は部屋の隅まで進むと。
そこにある赤いカーテンに手をかけた。
人形?
彼女の意図が掴めない。
先ほどは確かに互いに協力しようと聞えたのだか、何か取り違えていただろうか。
「フィオレッナ、あなたのお人形遊びに付き合っている暇は・・」
言いかけたロイの言葉が止まった。
豪華なイスを中心に沢山の人形が並べられていた。
動物などのぬいぐるみであったり、可愛らしい女の子の人形であったり。
所狭しと並ぶその人形達に囲まれるように・・・・・ひときわ大きな、彼女のいうところの「人形」がイスに座らされていた。
「・・・!!」
肩までかかる金の長い髪は、いつものように束ねられることもなくさらりと広がっている。
白い・・・・・真白な純白な清楚なドレスを着せられて。
「彼」はそこにいた。
本当に人形のようだ。
イスにもたれ掛かるように座らされた、その彼の瞼は閉じられたままで。
ドレスと同じくその顔までも白く・・・・いや蒼白で色がなく、まるで生気が感じられない。
さすがのロイも言葉を失った。
「何故・・・・ここに彼が?」
必死に動揺を隠し、平静を装って搾り出した言葉。
「パパから頂いたの・・・・・・。ドレスは剥ぎ取られてボロボロの状態だったから、私が着替えさせてあげたのよ」
ドレスを剥ぎ取られた・・・・・という言葉に思わず声をあげそうになったが、なんとか持ちこたえて押しとどめた。
ファーザー・ファルザーノ・・・・・噂には聞いていたが本当に見境のない下賎な輩のようだ。
そう言った彼女の手には、いつの間にか大きな銃が握られている。
それは通常軍などで扱われているコンパクトなものとは違い、間違っても市場に流通しえないような物騒な代物だ。
視界にそれが入ってきているというのに、どうにも彼が気になって思考がうまく回らない。
「パパったら人形の扱いがとても乱暴なんだから。昔から趣味はとても幅が広くて、私が理解出来ないものもあったけど。このコは悪くないわね」
フィオレッナの口調は相変わらず楽しそうだ。
上品な口元に笑みを浮べ、楽しげにその大きな銃をかざす姿が妙にこの場に不釣合いだ。
「あら・・・・急にお顔の色が悪くなられましたけど」
フィオレッナは実に客観的に自分の腹をさぐり、顔色を伺ってくる。
自分はもう内に押し込めた怒りで、楽しそうに笑うその顔が直視出来ないというのに。
差し出したバラの花束で刺客を排除したその勇ましさに、感嘆の念など抱いた己の迂闊さを呪った。
どちらかと言えば好意的な感情を抱いていた自分自身に嫌悪さえ感じる。
「私のお人形がどうかしまして?」
平然を装うしかない、動揺を悟られては駄目だ。
彼は・・・・・ただの私の部下なのだから。
「綺麗でしょう?」
大きな銃を片手に抱えたまま、もう片方の手で起用に彼の髪をするりとすくい上げる。
すると彼の大きく胸元の開いたドレスから、オートメールの肩が現れた。
「これ。オートメールというのかしら?素敵ね、でも神経がちゃんとあると聞いたわ。神経の接続をいきなり切り離したりしたら・・・・・・痛いんでしょうね」
彼女はそのしなやかで細く白い手を、エドワードへと伸ばした。
エドワードの頬に赤いマニキュアで彩られた彼女の指が触れた。
彼女は楽しそうにエドワードの顔をするりと撫でると、そのままゆっくりとオートメールの結合部分に手を伸ばした。
全てが壊れた瞬間だ。
「触るなっ!!!」
弾ける様に激しい制止の声を言い放った。
「あははははははははっ・・!」
待ち構えていたかのように、フィオレッナ勝ち誇ったような声をあげて笑った。
耳元でキンキンと甲高い声を出されたせいか、ピクリ・・・・と彼の眉が動いた。
大丈夫だ、息は・・・ある。
その一瞬を見逃さず、ロイは心の中で安堵した。
だが反応があったのは一瞬で、そのまま重い瞼が開かれることはない。
鍛えられた彼がここまで反応を見せないということは、どうやらなんだかの薬品投与は間違いないようだ。
すっ・・とロイの黒曜石が細く顰められる。
嘘で守れないというなら容赦はいらない。
あとは感情のまま怒りに支配されていくだけ。
殺気さえも纏ったその視線を真正面から受けても、彼女は動じた雰囲気もない。
「あら、とうとう化けの皮が剥がれてしまったわね」
顔は笑っているのに、見返してくる視線は挑むようで引けをとらない。
「こんな可愛らしい恋人かがいるのに、私とお見合いをしようだなんて・・・いけない人ね」
「彼は・・・・・私の部下だ」
表向きはそうだ、バレているとはいえわざわざ認めてやることはない。
「そぅ?別に私は彼にもあなたにも興味はないの。私が興味があるのはこの家。だから男も伴侶も必要ないの」
言い切った瞬間、銃をガシャリと構えた。
「ねぇ、お願いがありますわ」
言いながらエドワードの頭に、ピタリと銃を押し当てた。
ロイ殺気立った視線送ったまま、黙って彼女の次の言葉を待った。
「私が欲しいのは伴侶でもパートナーでもないの・・・・。邪魔なものを排除してくれる優秀な手駒。そう、あなたのようなね」
無言のまま拒絶するように、鋭い視線を投げてもまったくひるまない。
女にして、この度胸はどうだ。
「邪魔なものを、排除してくださらないかしら?」
フィオレッナは口元をゆるく上品にあげながらも、何でもないことのようにそう言った。
そして「さすがの私も身内を手にかけるのは気がけひますわ」、とそう続けた。それはすなわち自分の父親を消して欲しいということだ。
ロイはわざと盛大に眉を寄せて見せた。
心までも氷で出来ているのではないかと思われる女がよく言う、とばかりに。
「私に、殺せと?」
「あら、怖い・・・・・私そんなこと言ってませんわ」
銃をエドワードに突きつけたままの状態で・・・・・実に、楽しげに笑う。
だが恐ろしいことに彼女の体が揺れても、エドワードに押し付けられた銃は微動だにしていない。
それだけの力で銃を支え、尚且つその扱いに慣れている証拠だ。
これでは下手には、動けなかった。
「簡単に言ってくれますね」
低くなる声音もそのままに、挑むように言い返せば。
「あらっ、簡単でしょ?あなたなら出来るわイシュバールの悪魔と言われたあなたなら、ね」
確信しきった声で、昔の嫌な名を蒸し返されたが、ロイは敢えて反応しなかった。
「私ね、錬金術はまったくわかりませんのよ。素敵ね、手品のようなことが出来るんでしょう?例えば・・・・・何もないところ
から不審火を出して屋敷を燃やしたり、乗っている車を爆発させたり・・・・」
「手品をして見せろと?」
「ええ・・・あなたのその、素敵なスーツのそのポケットの中にある発火布があれば簡単でしょう?」
さすがにスーッとロイの双眼が細められた。
どうやら、こちらのことは全て調べあげているようだ。
それもかなり正確で詳細な情報だ。
自分とエドワードのことも知っているのは、軍でもごく身内の一部の人間だけだ。
おまけに自分の扱う錬金術の属性まで調べているとは恐れ入った。
実は父親などよりこの娘のほうが危険なのではないだろうか。
「そんなことを私が引き受けるとでも?」
「いいえ、思ってないわ。でもあなたは、逆らえないわね?」
艶やかに笑ったその美しい顔は、まるで悪魔のようだ。
彼女の構える銃口の先には、今だ意識のない「彼」がいた。
※※※※※※※※※※※※※※
すみませんっ、漂白剤くださーいっ←いきなりそのネタですかっ。
皆さまのイメージされていたフィオレッナのキャラを真っ黒に塗りつぶしたのは私です(土下座っ)
ロイだけに留まらず、オリキャラまで黒さが浸透してきている模様です(涙)
次の方是非とも漂白して補完してください~っ。
つぐみ拝
彼女がこの場を退室して、かなりの時間が経過したように感じる。
その間増えるばかりの招待客をさり気なく横目でチェックしながらも、営業スマイル全開で自分に寄ってくるご婦人方のお相手をしていた。
それにしても盗み見た招待客の顔ぶれは素晴らしいものがある。
財界の著名人や有名人・資産家などの顔があちらこちらに見える。
さすがはコルネオ家主催のパーティーだけのことはある。
だがただのパーティーにしてはいささか物騒だ。
ガートーマンの数が多すぎる上、どうやらボーイや召使いなどに扮している者もいるらしく。
明らかにガタイや仕草が本来のそれとは違っている。
ご婦人のダンスへのお誘いをさらりとかわしながらも、辺りの様子を伺えば置かれている現状にその身が引き締まる思いだ。
一筋縄ではいかない相手とわかっていたから、覚悟は決めていた。
身内の懐に飛び込むのが一番と、罠であると知りつつも見合いの誘いにのり、偽装結婚をしてでも潜り込むつもりだった。
だが以外にも見合い相手の娘はただのお飾りではなく、色々とその胸に思惑を秘めているようだ。
信用している訳ではないが、先ほどの彼女とのやり取りの中には、自分個人に対しての敵意は薄いと見た。
いい加減待たされてそろそろしびれも限界だ。
ここに来てずっと姿を現していない、ファーザー・ファルザーノのことも気になっていた。
だがフィオレッナが「待っててくださる?」と言い残している以上勝手に動く訳にもいかない。
この状態で不審な動きを見せてしまえば全てが水の泡だ。
何よりフィオレッナの不興をかうのは得策ではない。
「ロイ・マスタング様・・・」
不意に背後立たれて、反応しそうになったのをなんとか押しとどめた。
戦争経験のある軍人の悪い癖で、背後を取られると・・・・・体が勝手に反応して身構えてしまう。
殺気は・・・・ない。
だが、やはり音もなく近づいてくる様は何かしらの訓練を受けたもののようで、振り返ったその先にいたのはボーイの服を着た男だったがどこか気は許せなかった。
「そうだが、何か? 」
「フィオレッナ様がお呼びです。お支度が整ったとのことで・・・・・ご案内するように言い付かりました」
やっと、か。
こみ上げてきそうな盛大な吐息をなんとか押しとどめて、ロイは男の後ろ姿を追った。
「こちらです」と一言だけそう言い残して、男は一礼して踵を返した。
その部屋は会場から少し離れた場所にあった。
なかなか豪勢な作りの、大きな二枚扉だ。
ロイは取り合えず「トントン」と二度ほどノックをした。
「どうぞ、お入りになって」
中からはフィオレッナの声がした。
「失礼・・・」ロイはそう告げると、そのドアの扉を開いた。
ギギギギッと重たい音をたてて、ドアは開いた。
部屋はどうやら彼女の私室のようで、配置された家具や装飾品・カーペットに至るまでの一つ一つ。
とても凝った装飾が施されて、女性らしい優しいカラーで統一されていた。
「よろしいんですか?見るからに私室のようだ。見合いといえどいきなり会った当日に、あなたの個室に招きいれるなど、何かのお誘いと期待してもいいんでしょうか。お父上が知られたらマズイのでは」
部屋の真ん中に設置された応接セットに座っていた彼女は、優雅な仕草で立ち上がった。
「あら、パパにはナイショのお話だから、ここにお呼びしたんですわ」
言いながら手馴れた仕草でソファを勧められた。
「それは光栄なことだ」
答えながらロイは勧められたソファへと歩を進めた。
「でも・・・・あなたは私に女性としての価値など期待されてないでしょう?」
あっさりとロイの言葉をそう切って捨てて、彼女はにっこりと笑った。
「いえいえ、社交辞令を差し引いても、あなたは十分魅力的な女性だ。ファーザー・ファルザーノの娘という肩書きに埋もれさせてしまうには惜しいぐらいだ」
言いながら応接セットの前まで来ると、ロイは立ち止まった。
「ええ、あなたのおっしゃるように、私はお飾りなどで終るつもりはないの。私達、気が合うと思いません?」
ロイは思わず苦笑した。
決して侮れない相手だが、一時的にでも手を組むのは悪くないかもしれない。
そう思いかけた矢先・・・・・彼女は急にロイに背を向けて、部屋の隅へと歩を進めた。
「ここに呼んだのはあなたに私の大事なお人形を見て貰いたくて・・きっとあなたも気に入ると思うのよ」
そういいながら、彼女は部屋の隅まで進むと。
そこにある赤いカーテンに手をかけた。
人形?
彼女の意図が掴めない。
先ほどは確かに互いに協力しようと聞えたのだか、何か取り違えていただろうか。
「フィオレッナ、あなたのお人形遊びに付き合っている暇は・・」
言いかけたロイの言葉が止まった。
豪華なイスを中心に沢山の人形が並べられていた。
動物などのぬいぐるみであったり、可愛らしい女の子の人形であったり。
所狭しと並ぶその人形達に囲まれるように・・・・・ひときわ大きな、彼女のいうところの「人形」がイスに座らされていた。
「・・・!!」
肩までかかる金の長い髪は、いつものように束ねられることもなくさらりと広がっている。
白い・・・・・真白な純白な清楚なドレスを着せられて。
「彼」はそこにいた。
本当に人形のようだ。
イスにもたれ掛かるように座らされた、その彼の瞼は閉じられたままで。
ドレスと同じくその顔までも白く・・・・いや蒼白で色がなく、まるで生気が感じられない。
さすがのロイも言葉を失った。
「何故・・・・ここに彼が?」
必死に動揺を隠し、平静を装って搾り出した言葉。
「パパから頂いたの・・・・・・。ドレスは剥ぎ取られてボロボロの状態だったから、私が着替えさせてあげたのよ」
ドレスを剥ぎ取られた・・・・・という言葉に思わず声をあげそうになったが、なんとか持ちこたえて押しとどめた。
ファーザー・ファルザーノ・・・・・噂には聞いていたが本当に見境のない下賎な輩のようだ。
そう言った彼女の手には、いつの間にか大きな銃が握られている。
それは通常軍などで扱われているコンパクトなものとは違い、間違っても市場に流通しえないような物騒な代物だ。
視界にそれが入ってきているというのに、どうにも彼が気になって思考がうまく回らない。
「パパったら人形の扱いがとても乱暴なんだから。昔から趣味はとても幅が広くて、私が理解出来ないものもあったけど。このコは悪くないわね」
フィオレッナの口調は相変わらず楽しそうだ。
上品な口元に笑みを浮べ、楽しげにその大きな銃をかざす姿が妙にこの場に不釣合いだ。
「あら・・・・急にお顔の色が悪くなられましたけど」
フィオレッナは実に客観的に自分の腹をさぐり、顔色を伺ってくる。
自分はもう内に押し込めた怒りで、楽しそうに笑うその顔が直視出来ないというのに。
差し出したバラの花束で刺客を排除したその勇ましさに、感嘆の念など抱いた己の迂闊さを呪った。
どちらかと言えば好意的な感情を抱いていた自分自身に嫌悪さえ感じる。
「私のお人形がどうかしまして?」
平然を装うしかない、動揺を悟られては駄目だ。
彼は・・・・・ただの私の部下なのだから。
「綺麗でしょう?」
大きな銃を片手に抱えたまま、もう片方の手で起用に彼の髪をするりとすくい上げる。
すると彼の大きく胸元の開いたドレスから、オートメールの肩が現れた。
「これ。オートメールというのかしら?素敵ね、でも神経がちゃんとあると聞いたわ。神経の接続をいきなり切り離したりしたら・・・・・・痛いんでしょうね」
彼女はそのしなやかで細く白い手を、エドワードへと伸ばした。
エドワードの頬に赤いマニキュアで彩られた彼女の指が触れた。
彼女は楽しそうにエドワードの顔をするりと撫でると、そのままゆっくりとオートメールの結合部分に手を伸ばした。
全てが壊れた瞬間だ。
「触るなっ!!!」
弾ける様に激しい制止の声を言い放った。
「あははははははははっ・・!」
待ち構えていたかのように、フィオレッナ勝ち誇ったような声をあげて笑った。
耳元でキンキンと甲高い声を出されたせいか、ピクリ・・・・と彼の眉が動いた。
大丈夫だ、息は・・・ある。
その一瞬を見逃さず、ロイは心の中で安堵した。
だが反応があったのは一瞬で、そのまま重い瞼が開かれることはない。
鍛えられた彼がここまで反応を見せないということは、どうやらなんだかの薬品投与は間違いないようだ。
すっ・・とロイの黒曜石が細く顰められる。
嘘で守れないというなら容赦はいらない。
あとは感情のまま怒りに支配されていくだけ。
殺気さえも纏ったその視線を真正面から受けても、彼女は動じた雰囲気もない。
「あら、とうとう化けの皮が剥がれてしまったわね」
顔は笑っているのに、見返してくる視線は挑むようで引けをとらない。
「こんな可愛らしい恋人かがいるのに、私とお見合いをしようだなんて・・・いけない人ね」
「彼は・・・・・私の部下だ」
表向きはそうだ、バレているとはいえわざわざ認めてやることはない。
「そぅ?別に私は彼にもあなたにも興味はないの。私が興味があるのはこの家。だから男も伴侶も必要ないの」
言い切った瞬間、銃をガシャリと構えた。
「ねぇ、お願いがありますわ」
言いながらエドワードの頭に、ピタリと銃を押し当てた。
ロイ殺気立った視線送ったまま、黙って彼女の次の言葉を待った。
「私が欲しいのは伴侶でもパートナーでもないの・・・・。邪魔なものを排除してくれる優秀な手駒。そう、あなたのようなね」
無言のまま拒絶するように、鋭い視線を投げてもまったくひるまない。
女にして、この度胸はどうだ。
「邪魔なものを、排除してくださらないかしら?」
フィオレッナは口元をゆるく上品にあげながらも、何でもないことのようにそう言った。
そして「さすがの私も身内を手にかけるのは気がけひますわ」、とそう続けた。それはすなわち自分の父親を消して欲しいということだ。
ロイはわざと盛大に眉を寄せて見せた。
心までも氷で出来ているのではないかと思われる女がよく言う、とばかりに。
「私に、殺せと?」
「あら、怖い・・・・・私そんなこと言ってませんわ」
銃をエドワードに突きつけたままの状態で・・・・・実に、楽しげに笑う。
だが恐ろしいことに彼女の体が揺れても、エドワードに押し付けられた銃は微動だにしていない。
それだけの力で銃を支え、尚且つその扱いに慣れている証拠だ。
これでは下手には、動けなかった。
「簡単に言ってくれますね」
低くなる声音もそのままに、挑むように言い返せば。
「あらっ、簡単でしょ?あなたなら出来るわイシュバールの悪魔と言われたあなたなら、ね」
確信しきった声で、昔の嫌な名を蒸し返されたが、ロイは敢えて反応しなかった。
「私ね、錬金術はまったくわかりませんのよ。素敵ね、手品のようなことが出来るんでしょう?例えば・・・・・何もないところ
から不審火を出して屋敷を燃やしたり、乗っている車を爆発させたり・・・・」
「手品をして見せろと?」
「ええ・・・あなたのその、素敵なスーツのそのポケットの中にある発火布があれば簡単でしょう?」
さすがにスーッとロイの双眼が細められた。
どうやら、こちらのことは全て調べあげているようだ。
それもかなり正確で詳細な情報だ。
自分とエドワードのことも知っているのは、軍でもごく身内の一部の人間だけだ。
おまけに自分の扱う錬金術の属性まで調べているとは恐れ入った。
実は父親などよりこの娘のほうが危険なのではないだろうか。
「そんなことを私が引き受けるとでも?」
「いいえ、思ってないわ。でもあなたは、逆らえないわね?」
艶やかに笑ったその美しい顔は、まるで悪魔のようだ。
彼女の構える銃口の先には、今だ意識のない「彼」がいた。
※※※※※※※※※※※※※※
すみませんっ、漂白剤くださーいっ←いきなりそのネタですかっ。
皆さまのイメージされていたフィオレッナのキャラを真っ黒に塗りつぶしたのは私です(土下座っ)
ロイだけに留まらず、オリキャラまで黒さが浸透してきている模様です(涙)
次の方是非とも漂白して補完してください~っ。
つぐみ拝
どんな手を使って潜り込んできたのかは知らないが、その行動力にも称賛を贈りたいところだなぁ、とファルザーノの瞳は面白い獲物を見つけた時のように輝きを増していた。可愛らしいだけではなく、度胸も容姿も噂通りに天下一品だ。私の褥に招待するのにふさわしい……。ファルザーノの口元が緩む。その気配を察したのかファルザーノの護衛官たちは主の視線の先を追った。
柱の陰に潜むようにして。佇んでいたのはピンクのドレスを着た金の髪の少女。本日のパーティの招待客リストにはないその少女の姿に、護衛官たちは背広の内から銃を取り出した。
「ファーザー・ファルザーノ。……排除、いたしますか?」
気配を硬質のものに変えた部下たちをファルザーノはにこやかにほほ笑みながら制した。
「先走るな。……実に可愛らしいだろう?あれは排除するのではなく愛でるもの、だ」
わるくない。ああ、悪くないな、と一人悦に入ったように頷いているファルザーノだった。ひとしきりくすくすと笑った後ようやくファルザーノは護衛の部下へと指示を出した。
「あの【少女】を私のプライベート・ルームへと案内しておくように」
丁重にな、付け加えたファルザーノに無言で頷いた部下たちはすっと足音も立てずに、尚且つ気配も消してエドワードの背後の方へと回りこんだ。
エドワードは、招待客達に正体がばれないようにと柱の陰に潜んでこれからの作戦について頭を巡らせていた。
パーティには無事潜り込めた。これからが勝負。何が何でもコルネオ家の黒い尻尾の一端でも掴んで帰ること。それがロイを守ることにもなるし、見合いを潰すことにもなるのだ。
幸い今回開催されているパーティは盛大なものだが、ロイとそしてフィオレッナ・コルネオの見合いというのはメインではない。定期的に開催されているコルネオ家主催の単なるパーティ。その陰では様々な催しが繰り広げられているとも言われているが証拠など何一つつかんだことはない。まあ、たくさんの人間が集まり、談笑し……それぞれに楽しみを見つける。ダンスをするもよいだろう、カジノなどの遊びに興ずるも良し。上の部屋を取り、快楽に耽ることさえ可能だ。その会場に招待されたロイ・マスタングが運命的にフィオレッナと出会い、そして恋に落ち。二人はめでたく結ばれた、というのがファルザーノの筋書きだ。けれどその裏では様々な思惑が入り乱れていた。筋書き通りに二人が結婚し、そして東方司令部を裏から操る。まあそれが最も楽な道すじ、仮に例えるのならプランAというところだ。そしてそれでもファルザーノは構わなかった。けれど、そうやすやすとあのロイ・マスタングがコルネオ家の思う通りに動くとは考えにくい。とすればプランBに移行する。つまり、今回を契機に彼をこちらのサイドに引き寄せ、うまい具合に暗殺してしまうのだ。それをコルネオ家と懇意のとある武器商人やらテログループやが狙っているのはもちろん知っているしファルザーの自身も賛同の意を表明していた。だが、どちらに転んでも得をする道を取るのがファルザーノのやり口だ。娘が本気でロイを身内に取り込んでも良し、ロイが死んで東方を手にしても良し、なのである。どちらにしろ家はますますの繁栄を遂げるだろうし、ついでに目の前の【少女】も手に入れやすい。
ファルザーノは自身の今後の未来に乾杯と、胸の内で独りほくそえんだ。
一方、そんな思惑にも気がつかずにエドワードはこれからの作戦を練っていた。練っていたのだが……。「わあああ」とか「きゃあああ」だとかいう歓声に一瞬はっと気を取られ、思考は中断せざるを得なかった。
歓声とともに現れたのはいつもの軍服と異なりフォーマルスーツ姿のロイであった。そして手にはフィオレッナへの手土産なのだろう、ロイは両腕に大輪の薔薇の花を抱えていた。
――大佐……。
自分へではない別の誰かへ贈る花を抱えたロイに、エドワードの胸はずきりと痛んだ。
覚悟、はしていた。だけどまだロイからは何も言われていない。だけどやっぱりロイは自分と別れるつもりなのだ。それは愛情が冷めたという理由からではないにせよ、ロイ自身の目的をその手に掴むためとは云えども。
エドワードの耳に昨日の雨の音の幻聴が聞こえてきたようだった。身体も、冷たく冷えた重みすら感じてしまう。
エドワードは思わずうつむいて、ぎゅっとドレスを握り締めた。
そのエドワードの右腕を、後ろからいきなり誰かがつかみ上げた。エドワードが身をひるがえす暇もなく脇腹へ固い銃口が押し付けられて、もう片方の腕も別の男によってとらえられた。
――しまった……!
気がついた時には遅かった。
「……お嬢様、とお呼びするべきでしょうか?それとも『鋼の錬金術師』のほうがよろしいですか?」
押さえつけるような声を出したファルザーノの部下たちを、エドワードがギリリと睨みつける。銃口を押しつけてきている男の足を思い切り踏みつけて、会場の招待客達にばれないように錬金術でも使ってこの場を逃れてみようかと、考えた瞬間にもう一人の別の男が「危害を加えるつもりはない」と淡々と告げた。
「我らが主、ファーザー・ファルザーノがお呼びだ。……大人しくついてこい」
エドワードははっと顔をあげた。
これはピンチなのかチャンスなのか。それはまだわからない。だが……。
「いいぜ、行ってやる」
抵抗の意思などないことを言葉で表明して。言われた通りに大人しく従っていった。
ファルザーノの懐に潜り込んで、その内部から道を掴むのも一つの手なのかもしれない。そんな考えは単に今のロイの姿を見たくないからという逃げ、かも知れないことにエドワードは気がつかないふり、をした。
ロイはエドワードがこの場に居ることなども気がつかずに、営業用の甘いスマイルを浮かべて、フィオレッナへ薔薇を手渡した。
「本日はお招きにあずかりまして……。麗しの君に出会えて光栄です」
如才なく会話を切り出したつもりだった。が、フィオレッナ・コルネオは受け取った薔薇の香り「まあ、いい香りですこと」などとうっとりしたような表情を浮かべつつも、非常に硬質そして重低音の響きを伴うつぶやきを漏らした。
「仕組まれた、とわかっていてよくもまあこの場に来れたことですわね。その度胸は賞賛すべきなのかしら?」
何のことかわかりませんと目線だけでロイは応えた。
「女性への初めての贈り物としては花束は相場ですが……気に入ってもらえたのなら嬉しいですね」と口元だけで笑って見せた。
ロイの漆黒の瞳をフィオレッナはじっと睨みつけて。そしてふっと肩の力を抜いた。
「まあいいわ。及第点ね。あのね、私は腹芸を繰り広げるのも無能な娘のマネをするのも面倒なの。だから率直に言うわ、ロイ・マスタング。ウチのパパは貴方を殺しちゃえ☆っていう計画にも加担しているのですけれどね、私は私で思惑があるの。それに協力するつもりはあるのか、し……」
彼女が一旦言葉を切ったのは迷ったからではない。いかにもロイがフィオレッナとの会話を終えたら次に挨拶をさせてくださいとばかりに二人の周囲を取り囲んでいた招待客のうちの一人が、いきなりナイフを取り出し突きかかってきたからだ。
フィオレッナはロイの腕をぐいと引くと、もう片方の手で持っていたバラの花束を大きく振り上げるなり、そのナイフを掲げた男の身体を花束で力任せに打ちすえた。
「今、私たちお話し中なの。不作法でせっかちな男は嫌われましてよ?」
言葉は穏やかだがバシンバシンと打ちすえる度に花束を包んでいるラッピングが空を切るような唸りを上げる。その音と共に赤い薔薇の花弁は花吹雪となって宙に舞い、そして磨き上げられた床へと散っていく。使い物にならなくなった贈り物をぽいと捨て、トドメとばかりに男の腹を蹴りあげた。
男の手からカランと音を立ててナイフが床へと落とされて。そしてその男も床へとあっさりと転倒した。
「私と貴方のどちらを狙ったのかはわかりませんけど……せっかくいただいたお花を台無しにしてごめんなさいね?」
フィオレッナはまるで悪戯を咎められた少女のようにぺろりと舌を出した。が……。
今まさにした行動といえば、花束でナイフを持った男を打ちすえて、尚且つドレス姿で男を蹴とばし、更にノックダウンさせたということで。
さすがのロイもあっけにとられて目をぱちくりと瞬かせた。予想外の彼女の行動にとっさに取り繕うことができなかったのだ。
「あのね、マスタング大佐。お話したいことはたくさんあるんですけど、ドレス、破れてしまったから着替えてくるわね。……少しの間待っててくださる?」
首をかしげたその姿も、破れたドレスをつまみ上げるしぐさも愛らしい。だがさすがにコルネオ家の娘と称賛の声を上げるべきなのだろうか。他の招待客への配慮も忘れずみなへ向かって艶やかな笑みを浮かべる。そして、「その男、さっさとかたずけて」と部下たちに対して指示を出しながら会場を後にするフィオレッナにロイは少々感嘆のため息を吐いた。
一方、エドワードは。
ファルザーノのプライベートルームから下着姿で飛び出してきた。まあ何があったのかは予想の範囲だろうが、押し倒されて、危ういところを逃げて来た、という形だ。
だが、こんな姿になったとしてもこのまま逃げるわけにもいかない。どこかで着替えを調達して……と思い、適当な部屋へと潜り込んだ。それはちょうどよく衣装部屋だったらしい。服服服、数えきれない枚数のさまざまな色彩の服がすらりと並んでいたのだ。けれどどれもみな綺羅綺羅しいドレスなのだ。
「……オレにまたドレス着ろってことかよ……」
ドレスなんか着た揚句におっさんに押し倒されて、そこをなんとか蹴りあげて、必死になって逃げてきたというのに何の因果でまたドレス?
はあ、とため息をつきたくなるのも無理はない。だが、ため息なんかをついて気を抜いている場合ではなかったのだ。
「――どなたかしら。私の部屋に入り込むなんて」
開いた扉の隙間から殺気に満ちた声がエドワードを捕らえた。
振り向いてみればそこに立っていたのはいつどこから調達したのかライフルを抱えているフィオレッナで。
――マズイ、さっきはおっさんで今度は娘のほうかよ。
冷汗が、エドワードの背筋を流れた。が、驚愕などはみじんも感じさせないような堂々とした態度で、エドワードは両手を上げた。
「アンタのクソ親父に、乱暴されそうになったから逃げただけだ。……服、ひんむかれたから、このままじゃ逃げられねえだろ。なんか着る物と思ってただけだ。アンタへの他意はねえよ……」
少なくとも、ロイの見合い相手に、こんなみっともない姿で対峙はしたくはなかった。エドワードは吐き捨てるようにそう言うと、唇を噛みしめた。両手を上げたこの状況ではそうする以外にできることはなかったのだ。
「あらん?」
フィオレッナは先ほどとは180度異なる気の抜けた声を出す。自分の衣装部屋に誰かが隠れていたと思えばそれは自身に対する刺客ではなく、ちっさこいコドモで。警戒を解くようにフィオレッナはにこやかな笑みを浮かべてみた。
「あん、ごめんなさいね?私の許しもなく私の部屋に入っているものだから、刺客とか暗殺者とかそういう職業のヒトだと思っちゃったのよぉ」
ぽいっと手にしていたライフルを捨てて、フィオレッナはすたすたとエドワードに近寄っていった。
「んー。いかにもウチのパパが好きそうなキレイなお顔ねあなた。……ええと?服、だったかしら?どれがいい?」
いきなりフィオレッナに両頬を手で挟まれ、瞳までのぞき込まれたエドワードはあまりの話の早さと彼女の顔の近さに、さすがに「えっ」と硬直した。
「パパの手の早さには困ったものね。この私の、実の娘よりも小さな子にまで手を出そうとするんだから」
小さい。
小さい。
小さな子。
前後の状況も忘れ「だああああぁぁぁぁぁれがぁぁぁぁぁぁぁぁミジンコみたいに小さい子、だあああああああああっ!」と激昂した。
「あん、もう、騒がないでよ。騒いで困るのは貴方の方でしょ?」
フィオレッナは携帯用のアトマイザーを取り出すと、それをいきり立ったエドワードの顔面に、シュッと吹きつけた。
「え……」
甘い、臭いがして。エドワードは吹きつけられたものが香水なのだと認識した。 「いい香りでしょ?私いつもこーゆーの持ち歩いているのよ」
女性の身だしなみなのだろうか、と思ったのだけれども何故だかくらりと視界が回った。
「あ……」
どさりと、音を立てて。エドワードは絨毯の上に崩れ落ちる。身体にまったくと言っていいほど力が入らなかった。
「護身用よ。……仮にもコルネオ家の娘ですもの。いつも命の危険なんかにはさらされているの」
意識を失いかけながらもエドワードは必死になってフィオレッナを見上げようとした。が、瞳は重く、目を開けることさえすでに困難だった。
――マズイ、これ、香水なんかじゃねえ。催眠スプレーとかだ……。
だが、吹きつけられたスプレーの中身がなんであるかなどわかったところで。エドワードは自身の意識が急速に遠のくのを止めることなどできなかった。
「『鋼の錬金術師』エドワード・エルリック。写真でみたとおり可愛いわぁ。それからとある単語に過剰反応するというところも報告書のとおりね」
浮かんでいる表情とは異なりフィオレッナの声音は淡々としてものだった。
「それからね、後でロイ・マスタングには言おうと思ったのだけれども……。私はこのコルネオの家を継ぐのよ。この私が、私の意志で、パパの後を継ぐの。無能な婿を貰う気もないし、やり手のパパの部下たちの誰かを婿にして、形だけの当主に収まる気もないの。パパがマスタング大佐を暗殺しようとするのなら、それを阻止すれば私の実力は他の組織にも知れるでしょうし、コルネオの家を継ぐだけの才があるとわかるでしょう。そうね逆でもいいの。皆を出し抜いて、私がマスタング大佐を暗殺しちゃっても良いわけだし。この子は……さて、どういうふうに使うのがいいのかしら……」
ああもう聞いてはいないわね。と崩れ落ちたエドワードの身体をじっと見つめて、フィオレッナは口元を緩めた。予期せぬエドワードの乱入はフィオレッナにとっては交渉のカードが一枚増えたに過ぎなかった。だが、このカードはなかなかの素晴らしい天からの贈り物なのかもしれないと、天使のような極上の笑みをエドワードに向けたのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
すみません勝手に第五話書いちゃった、ノリヲです。またも長くなってごめんなさい
娘が書きたくて。(娘はメインじゃないというのになぁぁ)。
というか出張ってすみませんフィオ嬢ちゃん。
えーと、ひんむくあたりを割愛したのは…ここがカステラ部屋だから(笑)アダルト禁止~v
柱の陰に潜むようにして。佇んでいたのはピンクのドレスを着た金の髪の少女。本日のパーティの招待客リストにはないその少女の姿に、護衛官たちは背広の内から銃を取り出した。
「ファーザー・ファルザーノ。……排除、いたしますか?」
気配を硬質のものに変えた部下たちをファルザーノはにこやかにほほ笑みながら制した。
「先走るな。……実に可愛らしいだろう?あれは排除するのではなく愛でるもの、だ」
わるくない。ああ、悪くないな、と一人悦に入ったように頷いているファルザーノだった。ひとしきりくすくすと笑った後ようやくファルザーノは護衛の部下へと指示を出した。
「あの【少女】を私のプライベート・ルームへと案内しておくように」
丁重にな、付け加えたファルザーノに無言で頷いた部下たちはすっと足音も立てずに、尚且つ気配も消してエドワードの背後の方へと回りこんだ。
エドワードは、招待客達に正体がばれないようにと柱の陰に潜んでこれからの作戦について頭を巡らせていた。
パーティには無事潜り込めた。これからが勝負。何が何でもコルネオ家の黒い尻尾の一端でも掴んで帰ること。それがロイを守ることにもなるし、見合いを潰すことにもなるのだ。
幸い今回開催されているパーティは盛大なものだが、ロイとそしてフィオレッナ・コルネオの見合いというのはメインではない。定期的に開催されているコルネオ家主催の単なるパーティ。その陰では様々な催しが繰り広げられているとも言われているが証拠など何一つつかんだことはない。まあ、たくさんの人間が集まり、談笑し……それぞれに楽しみを見つける。ダンスをするもよいだろう、カジノなどの遊びに興ずるも良し。上の部屋を取り、快楽に耽ることさえ可能だ。その会場に招待されたロイ・マスタングが運命的にフィオレッナと出会い、そして恋に落ち。二人はめでたく結ばれた、というのがファルザーノの筋書きだ。けれどその裏では様々な思惑が入り乱れていた。筋書き通りに二人が結婚し、そして東方司令部を裏から操る。まあそれが最も楽な道すじ、仮に例えるのならプランAというところだ。そしてそれでもファルザーノは構わなかった。けれど、そうやすやすとあのロイ・マスタングがコルネオ家の思う通りに動くとは考えにくい。とすればプランBに移行する。つまり、今回を契機に彼をこちらのサイドに引き寄せ、うまい具合に暗殺してしまうのだ。それをコルネオ家と懇意のとある武器商人やらテログループやが狙っているのはもちろん知っているしファルザーの自身も賛同の意を表明していた。だが、どちらに転んでも得をする道を取るのがファルザーノのやり口だ。娘が本気でロイを身内に取り込んでも良し、ロイが死んで東方を手にしても良し、なのである。どちらにしろ家はますますの繁栄を遂げるだろうし、ついでに目の前の【少女】も手に入れやすい。
ファルザーノは自身の今後の未来に乾杯と、胸の内で独りほくそえんだ。
一方、そんな思惑にも気がつかずにエドワードはこれからの作戦を練っていた。練っていたのだが……。「わあああ」とか「きゃあああ」だとかいう歓声に一瞬はっと気を取られ、思考は中断せざるを得なかった。
歓声とともに現れたのはいつもの軍服と異なりフォーマルスーツ姿のロイであった。そして手にはフィオレッナへの手土産なのだろう、ロイは両腕に大輪の薔薇の花を抱えていた。
――大佐……。
自分へではない別の誰かへ贈る花を抱えたロイに、エドワードの胸はずきりと痛んだ。
覚悟、はしていた。だけどまだロイからは何も言われていない。だけどやっぱりロイは自分と別れるつもりなのだ。それは愛情が冷めたという理由からではないにせよ、ロイ自身の目的をその手に掴むためとは云えども。
エドワードの耳に昨日の雨の音の幻聴が聞こえてきたようだった。身体も、冷たく冷えた重みすら感じてしまう。
エドワードは思わずうつむいて、ぎゅっとドレスを握り締めた。
そのエドワードの右腕を、後ろからいきなり誰かがつかみ上げた。エドワードが身をひるがえす暇もなく脇腹へ固い銃口が押し付けられて、もう片方の腕も別の男によってとらえられた。
――しまった……!
気がついた時には遅かった。
「……お嬢様、とお呼びするべきでしょうか?それとも『鋼の錬金術師』のほうがよろしいですか?」
押さえつけるような声を出したファルザーノの部下たちを、エドワードがギリリと睨みつける。銃口を押しつけてきている男の足を思い切り踏みつけて、会場の招待客達にばれないように錬金術でも使ってこの場を逃れてみようかと、考えた瞬間にもう一人の別の男が「危害を加えるつもりはない」と淡々と告げた。
「我らが主、ファーザー・ファルザーノがお呼びだ。……大人しくついてこい」
エドワードははっと顔をあげた。
これはピンチなのかチャンスなのか。それはまだわからない。だが……。
「いいぜ、行ってやる」
抵抗の意思などないことを言葉で表明して。言われた通りに大人しく従っていった。
ファルザーノの懐に潜り込んで、その内部から道を掴むのも一つの手なのかもしれない。そんな考えは単に今のロイの姿を見たくないからという逃げ、かも知れないことにエドワードは気がつかないふり、をした。
ロイはエドワードがこの場に居ることなども気がつかずに、営業用の甘いスマイルを浮かべて、フィオレッナへ薔薇を手渡した。
「本日はお招きにあずかりまして……。麗しの君に出会えて光栄です」
如才なく会話を切り出したつもりだった。が、フィオレッナ・コルネオは受け取った薔薇の香り「まあ、いい香りですこと」などとうっとりしたような表情を浮かべつつも、非常に硬質そして重低音の響きを伴うつぶやきを漏らした。
「仕組まれた、とわかっていてよくもまあこの場に来れたことですわね。その度胸は賞賛すべきなのかしら?」
何のことかわかりませんと目線だけでロイは応えた。
「女性への初めての贈り物としては花束は相場ですが……気に入ってもらえたのなら嬉しいですね」と口元だけで笑って見せた。
ロイの漆黒の瞳をフィオレッナはじっと睨みつけて。そしてふっと肩の力を抜いた。
「まあいいわ。及第点ね。あのね、私は腹芸を繰り広げるのも無能な娘のマネをするのも面倒なの。だから率直に言うわ、ロイ・マスタング。ウチのパパは貴方を殺しちゃえ☆っていう計画にも加担しているのですけれどね、私は私で思惑があるの。それに協力するつもりはあるのか、し……」
彼女が一旦言葉を切ったのは迷ったからではない。いかにもロイがフィオレッナとの会話を終えたら次に挨拶をさせてくださいとばかりに二人の周囲を取り囲んでいた招待客のうちの一人が、いきなりナイフを取り出し突きかかってきたからだ。
フィオレッナはロイの腕をぐいと引くと、もう片方の手で持っていたバラの花束を大きく振り上げるなり、そのナイフを掲げた男の身体を花束で力任せに打ちすえた。
「今、私たちお話し中なの。不作法でせっかちな男は嫌われましてよ?」
言葉は穏やかだがバシンバシンと打ちすえる度に花束を包んでいるラッピングが空を切るような唸りを上げる。その音と共に赤い薔薇の花弁は花吹雪となって宙に舞い、そして磨き上げられた床へと散っていく。使い物にならなくなった贈り物をぽいと捨て、トドメとばかりに男の腹を蹴りあげた。
男の手からカランと音を立ててナイフが床へと落とされて。そしてその男も床へとあっさりと転倒した。
「私と貴方のどちらを狙ったのかはわかりませんけど……せっかくいただいたお花を台無しにしてごめんなさいね?」
フィオレッナはまるで悪戯を咎められた少女のようにぺろりと舌を出した。が……。
今まさにした行動といえば、花束でナイフを持った男を打ちすえて、尚且つドレス姿で男を蹴とばし、更にノックダウンさせたということで。
さすがのロイもあっけにとられて目をぱちくりと瞬かせた。予想外の彼女の行動にとっさに取り繕うことができなかったのだ。
「あのね、マスタング大佐。お話したいことはたくさんあるんですけど、ドレス、破れてしまったから着替えてくるわね。……少しの間待っててくださる?」
首をかしげたその姿も、破れたドレスをつまみ上げるしぐさも愛らしい。だがさすがにコルネオ家の娘と称賛の声を上げるべきなのだろうか。他の招待客への配慮も忘れずみなへ向かって艶やかな笑みを浮かべる。そして、「その男、さっさとかたずけて」と部下たちに対して指示を出しながら会場を後にするフィオレッナにロイは少々感嘆のため息を吐いた。
一方、エドワードは。
ファルザーノのプライベートルームから下着姿で飛び出してきた。まあ何があったのかは予想の範囲だろうが、押し倒されて、危ういところを逃げて来た、という形だ。
だが、こんな姿になったとしてもこのまま逃げるわけにもいかない。どこかで着替えを調達して……と思い、適当な部屋へと潜り込んだ。それはちょうどよく衣装部屋だったらしい。服服服、数えきれない枚数のさまざまな色彩の服がすらりと並んでいたのだ。けれどどれもみな綺羅綺羅しいドレスなのだ。
「……オレにまたドレス着ろってことかよ……」
ドレスなんか着た揚句におっさんに押し倒されて、そこをなんとか蹴りあげて、必死になって逃げてきたというのに何の因果でまたドレス?
はあ、とため息をつきたくなるのも無理はない。だが、ため息なんかをついて気を抜いている場合ではなかったのだ。
「――どなたかしら。私の部屋に入り込むなんて」
開いた扉の隙間から殺気に満ちた声がエドワードを捕らえた。
振り向いてみればそこに立っていたのはいつどこから調達したのかライフルを抱えているフィオレッナで。
――マズイ、さっきはおっさんで今度は娘のほうかよ。
冷汗が、エドワードの背筋を流れた。が、驚愕などはみじんも感じさせないような堂々とした態度で、エドワードは両手を上げた。
「アンタのクソ親父に、乱暴されそうになったから逃げただけだ。……服、ひんむかれたから、このままじゃ逃げられねえだろ。なんか着る物と思ってただけだ。アンタへの他意はねえよ……」
少なくとも、ロイの見合い相手に、こんなみっともない姿で対峙はしたくはなかった。エドワードは吐き捨てるようにそう言うと、唇を噛みしめた。両手を上げたこの状況ではそうする以外にできることはなかったのだ。
「あらん?」
フィオレッナは先ほどとは180度異なる気の抜けた声を出す。自分の衣装部屋に誰かが隠れていたと思えばそれは自身に対する刺客ではなく、ちっさこいコドモで。警戒を解くようにフィオレッナはにこやかな笑みを浮かべてみた。
「あん、ごめんなさいね?私の許しもなく私の部屋に入っているものだから、刺客とか暗殺者とかそういう職業のヒトだと思っちゃったのよぉ」
ぽいっと手にしていたライフルを捨てて、フィオレッナはすたすたとエドワードに近寄っていった。
「んー。いかにもウチのパパが好きそうなキレイなお顔ねあなた。……ええと?服、だったかしら?どれがいい?」
いきなりフィオレッナに両頬を手で挟まれ、瞳までのぞき込まれたエドワードはあまりの話の早さと彼女の顔の近さに、さすがに「えっ」と硬直した。
「パパの手の早さには困ったものね。この私の、実の娘よりも小さな子にまで手を出そうとするんだから」
小さい。
小さい。
小さな子。
前後の状況も忘れ「だああああぁぁぁぁぁれがぁぁぁぁぁぁぁぁミジンコみたいに小さい子、だあああああああああっ!」と激昂した。
「あん、もう、騒がないでよ。騒いで困るのは貴方の方でしょ?」
フィオレッナは携帯用のアトマイザーを取り出すと、それをいきり立ったエドワードの顔面に、シュッと吹きつけた。
「え……」
甘い、臭いがして。エドワードは吹きつけられたものが香水なのだと認識した。 「いい香りでしょ?私いつもこーゆーの持ち歩いているのよ」
女性の身だしなみなのだろうか、と思ったのだけれども何故だかくらりと視界が回った。
「あ……」
どさりと、音を立てて。エドワードは絨毯の上に崩れ落ちる。身体にまったくと言っていいほど力が入らなかった。
「護身用よ。……仮にもコルネオ家の娘ですもの。いつも命の危険なんかにはさらされているの」
意識を失いかけながらもエドワードは必死になってフィオレッナを見上げようとした。が、瞳は重く、目を開けることさえすでに困難だった。
――マズイ、これ、香水なんかじゃねえ。催眠スプレーとかだ……。
だが、吹きつけられたスプレーの中身がなんであるかなどわかったところで。エドワードは自身の意識が急速に遠のくのを止めることなどできなかった。
「『鋼の錬金術師』エドワード・エルリック。写真でみたとおり可愛いわぁ。それからとある単語に過剰反応するというところも報告書のとおりね」
浮かんでいる表情とは異なりフィオレッナの声音は淡々としてものだった。
「それからね、後でロイ・マスタングには言おうと思ったのだけれども……。私はこのコルネオの家を継ぐのよ。この私が、私の意志で、パパの後を継ぐの。無能な婿を貰う気もないし、やり手のパパの部下たちの誰かを婿にして、形だけの当主に収まる気もないの。パパがマスタング大佐を暗殺しようとするのなら、それを阻止すれば私の実力は他の組織にも知れるでしょうし、コルネオの家を継ぐだけの才があるとわかるでしょう。そうね逆でもいいの。皆を出し抜いて、私がマスタング大佐を暗殺しちゃっても良いわけだし。この子は……さて、どういうふうに使うのがいいのかしら……」
ああもう聞いてはいないわね。と崩れ落ちたエドワードの身体をじっと見つめて、フィオレッナは口元を緩めた。予期せぬエドワードの乱入はフィオレッナにとっては交渉のカードが一枚増えたに過ぎなかった。だが、このカードはなかなかの素晴らしい天からの贈り物なのかもしれないと、天使のような極上の笑みをエドワードに向けたのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
すみません勝手に第五話書いちゃった、ノリヲです。またも長くなってごめんなさい
娘が書きたくて。(娘はメインじゃないというのになぁぁ)。
というか出張ってすみませんフィオ嬢ちゃん。
えーと、ひんむくあたりを割愛したのは…ここがカステラ部屋だから(笑)アダルト禁止~v
拍手有難うございますvv
以下、拍手コメントのお返事です♪
以下、拍手コメントのお返事です♪
「まあ、いらっしゃい。エドちゃんにアル君」
「お兄ちゃん達いらっしゃいーvv」
「「こ、こんにちは…」」
エドワードとアルフォンスは引きつった笑顔でご挨拶。まあ、アルフォンスは鎧だけど、生身なら間違いなく引きつっている。
それもそのはず、極秘の潜入捜査の準備と打ち合わせに、ヒューズに連れて来られたのは軍部でもなくホテルでもなく、一家団欒を絵に描いたような幸せな家族が住んでいる家、だったのだから。
「ち、中佐っ」
小声でエドワードは抗議をするが、まあまあ上がれって!人好きのする笑顔で背を押され、気が付けばアルフォンスと二人リビングのソファに座っていた。
そんな二人を、更なる奇々怪々な事が襲う。
「さあ、これで良いかしらエドちゃん、どう?」
「はい?」
エドワードの頭上をクエスチョンマークが乱舞し、次の言葉も続かず三点リーダーが10個ほど連なっている。
その原因は、ひとえにヒューズ夫人が手にしていたもの。それは、それは――――。
パステルピンクを基調としたドレスだった。
フリルとレースをふんだんにあしらったそのドレスは、とっても愛らしく年端のいかない少女が着るのにぴったりなデザインで。
しかも、このドレスとお揃いであろう髪を括る大きなピンクのリボンが、ヒューズ夫人の手に握られていたりする。
「……あ、あの…」
「仮装パーティーに参加するのですってね。思いっきり楽しんでくるのよ」
「え、……あ、うん!」
にっこり笑うグレイシアの隣で、ヒューズが目配せしている。その意図を、エドワードは瞬時に理解した。
ロイに内緒でする潜入捜査、ホークアイ達に協力してもらう選択もあったのだが、軍部内では、どこで洩れるか分からない。
なら、まったく事情を知らない第3者に介入してもらうのが良策だ。けれど、それでも信頼の置ける人物でなければならない。
その点、グレイシアはぴったりの人選だ。もちろん彼女は潜入捜査の事は知らない。ヒューズは絶対に知らせたりしない。
あくまで、仮装大会に出るエドワードを、これでもかって程に可愛らしく愛らしい少女にしあげてくれ♪と、面白そうに言ったのだ。
予想通り、グレイシアは嬉々としてエドワードを少女に仕上げていってくれる。
トップで大きなピンクのリボンで結い上げ、でも少し遊びを持たせて緩く垂れる髪が、ほんの少しの色気を演出している。といっても、大人のそれではなく、あくまで少女特有の色気なのだが。
それがまた危ない程に可愛いのだ。
「まあ、エドちゃん!少女趣味のおじさんには気をつけるのよ」
「は、はい…」
気をつけるのよ、そういいながら、夫人はとても嬉しそうだ。反対にエドワードの気分は地を這っている。
サイテーだ…。ロイには見せられねぇ……。
ひたすら気分は落ち込んでいく。でも、テンションが上がりっぱなしな人もいる。
「ママ~、パパ~、お兄ちゃんとっても可愛いvvエリシア、こんなお姉ちゃんがほしいよ!」
「ははは、お姉ちゃんは無理だが、妹なら頑張れるぞ!」
「ほんと!?」
「ああ、パパにお任せだv」
「ぱぱ、だいすきvv」
「ぱぱも大好きだぞ~VV」
勝手に盛り上がっている親子に、エドワードは完全に蚊帳の外だ。だが、ヤキモキしながらアルフォンスが助け舟をだす。
「あ、あの~ヒューズさん。そろそろパーティーの時間じゃ…」
「おぉ、そうだった!じゃ、これからエドを二人で送ってくるわ」
「ええ、いってらっしゃいエドちゃん」
「お兄ちゃん、がんばってね」
「お、おう…いってきます」
うな垂れるエドワードを、ハイテンションのヒューズが車に乗せ出発した。もちろん、アルフォンスも鎧姿で会場入りする、とグレイシアとエリシアには言ってある。
だが実際は、アルフォンスは中には入れない。偽装した招待状を持っているのはエドワードだけ。
そもそも、鎧姿のアルフォンスでは目立ち過ぎて潜入捜査はできない。
そして、エドワードも『鋼』の二つ名はあまりに有名で、容姿も特徴も知られており、何より今夜出席する上層部のお偉い方には顔を知られている。
もちろん、ロイに知られるのは論外。
だから、万が一の時に動きにくいドレス姿を不利になると分かっていながら、敢えて選んだのだ。
車の中で、ヒューズと最終打ち合わせをする。
「いいか、エド。ファルザーノ・コルネオには充分に気をつけろ」
「分かってる」
ファルザーノ・コルネオ。今回のお見合い兼、パーティーの主催者で、ロイが捨て身で内側から叩き潰そうとしている人物だ。
そして、そのロイの暗殺を娘をダシにして企てている一人。
ロイが彼女を愛しているわけでもない。理由を知って『どうして俺に何も言ってくれないんだよ!……俺は、そんなに頼るに値しない存在なのか?』という淋しさと憤りが入り混じった感情と、でも作戦だと聞かされホッとしている自分がいる。
ゲンキンだよな、俺って。でも………やっぱり文句の一つでも言ってやらないと気がすまねぇぞ、あの無能っ!
やはり、怒りが沸々と湧いてくる。
ふと、ある事がよぎった。
「娘さん…フィオレッナさんだったっけ? 気の毒だよな。知ってるのかな…」
結婚した場合、自分の夫が自分の父を、家を自分を裏切るのだ。それは考えただけでも胸が苦しい未来。
幸せになるはずの結婚が、不幸だけを招く。
「お前さんが気にすんな。相手もなかなか手ごわいぞ?何たって当主の座を狙って、父親の寝首をかこうとしたことがあるらしいからな」
「げっ、それ本当かよ」
「おお、まじまじ!」
どうやら、フィオレッナ・コルネオには同情の余地はまったくいらないらしい。
「そんなんと結婚して、大佐……大丈夫なのか?」
「まあ、取って食われそうだな、あっはっはっ!」
別の意味でロイへの心配事が一つ増えてしまった。
そして、面白そうに笑い飛ばしていたヒューズが急に真剣な面持ちになる。
「ファルザーノ・コルネオはエド、お前の事も狙っている」
「………はい?」
運転席のヒューズの横顔を、思いっきりエドワードは間抜けな顔で見てしまった。
言われた意味が良く分からない。
「それって、どういう意味?」
「まあ、あれだ。ファルザーノは男も女も両方いけてな。愛人の数は両手に余るとか噂は華々しいぞ。しかも若ければ若いほど良いらしい。お前さんぐらいの歳の愛人もいるって話だ。」
あっけに取られ、エドワードは返答ができない。だが、アルフォンスは違う。
「そ、それってどういう事なんですか!そんな事聞いていないですよっ!」
いつもは礼節を弁えているアルフォンスが、事もあろうにヒューズに噛み付いたのだ。
「まあ、落ち着けや。それでな、ロイを消してお前さんの後見人に収まって、合法的に手に入れようとしてる、という噂もある。ま、あくまで下卑た噂だがな」
「そっ、そんな人の所に兄さんを差し向けるなんて、何考えているんですかっ!」
車中が殺伐とした雰囲気になる。そんな中、エドワードがアルを制止する
「アル…黙ってろ」
「に、兄さん、でもっ!」
「いいから、黙ってるんだ」
有無を言わせず、そのままヒューズに問う。
「なあ………その噂って、大佐も知ってるの?」
「……ああ、知っている」
無言で前を見る。雨が降っていた。3人には、規則正しく動くワイパーの音だけが聞こえる。
エドワードの女装には、ファルザーノへの対策も入っていたのだ。できるだけエドワードとは知られないように、ヒューズなりに気をつけたつもりなのだが。
それは無駄な努力になる。
「さあ、着いたぞ。そうだ、これがファルザーノだ、見ておけ」
胸ポケットから、ヒューズはファルザーノ・コルネオの写真を出してエドワードに見せた。
金色の瞳が驚きに見開かれる。
「へぇ、……もっと中年のコテコテとしたおっさんかと思ってたけど……バーコードとか」
写真で初めて見たファルザーノ・コルネオは銀髪をオールバックにして、青い瞳が印象的な、意外にもシルバーグレーという言葉が似合う紳士風の男性だったのだ。
「さあ、ここから中はお前さん一人だ」
コルネオ家の前で、ヒューズとアルフォンスは車の中で待機を余儀なくされる。不安も心配もある、けれど、今はエドワードに賭けるしかない。
「んじゃ、行ってくる」
「兄さん、その…気をつけて」
「おう、任せとけって」
絶対にロイを殺させないし、おっさんなんかに俺は良いようにされたりしない。
決意を秘めてニカッと笑う【少女】が頼もしい。
そんな少女を見送る二人が後悔の思いに駆られるまで、あと数時間。
意を決して潜入した屋敷内の大ホールは、どす黒いものを覆い隠すように煌びやかで華やか過ぎて、エドワードには嫌味としか感じない。
美しいとは、思えない。
「ロイは、まだ来ていないのかな?」
辺りを見回し、逸る気持ちを抑えこみ、とりあえず目立たないように壁際へと移る。だが、そんな様子を見つめている視線があるのを、エドワードは気がつかない。
青い瞳がエドワードを映し、ファルザーノの口端が上がる。
「これはこれは、なるほど………愛らしい少女というわけか。そういう趣向も悪くないね……私の、エドワード・エルリック…」
萌え立ったが吉日。
そして、・・・・・・・・すみません!須田は無類の女装&おじ様好きーvvなんですYO!
(あ、でもエドたん限定ですよ?)
もろに趣味に走ってしまってすみません(爆
おじ様のセリフが書きたいが為に、ここまで引っ張ってしまいました(汗
次の方、宜しくお願いしますっ!
まいこ
「お兄ちゃん達いらっしゃいーvv」
「「こ、こんにちは…」」
エドワードとアルフォンスは引きつった笑顔でご挨拶。まあ、アルフォンスは鎧だけど、生身なら間違いなく引きつっている。
それもそのはず、極秘の潜入捜査の準備と打ち合わせに、ヒューズに連れて来られたのは軍部でもなくホテルでもなく、一家団欒を絵に描いたような幸せな家族が住んでいる家、だったのだから。
「ち、中佐っ」
小声でエドワードは抗議をするが、まあまあ上がれって!人好きのする笑顔で背を押され、気が付けばアルフォンスと二人リビングのソファに座っていた。
そんな二人を、更なる奇々怪々な事が襲う。
「さあ、これで良いかしらエドちゃん、どう?」
「はい?」
エドワードの頭上をクエスチョンマークが乱舞し、次の言葉も続かず三点リーダーが10個ほど連なっている。
その原因は、ひとえにヒューズ夫人が手にしていたもの。それは、それは――――。
パステルピンクを基調としたドレスだった。
フリルとレースをふんだんにあしらったそのドレスは、とっても愛らしく年端のいかない少女が着るのにぴったりなデザインで。
しかも、このドレスとお揃いであろう髪を括る大きなピンクのリボンが、ヒューズ夫人の手に握られていたりする。
「……あ、あの…」
「仮装パーティーに参加するのですってね。思いっきり楽しんでくるのよ」
「え、……あ、うん!」
にっこり笑うグレイシアの隣で、ヒューズが目配せしている。その意図を、エドワードは瞬時に理解した。
ロイに内緒でする潜入捜査、ホークアイ達に協力してもらう選択もあったのだが、軍部内では、どこで洩れるか分からない。
なら、まったく事情を知らない第3者に介入してもらうのが良策だ。けれど、それでも信頼の置ける人物でなければならない。
その点、グレイシアはぴったりの人選だ。もちろん彼女は潜入捜査の事は知らない。ヒューズは絶対に知らせたりしない。
あくまで、仮装大会に出るエドワードを、これでもかって程に可愛らしく愛らしい少女にしあげてくれ♪と、面白そうに言ったのだ。
予想通り、グレイシアは嬉々としてエドワードを少女に仕上げていってくれる。
トップで大きなピンクのリボンで結い上げ、でも少し遊びを持たせて緩く垂れる髪が、ほんの少しの色気を演出している。といっても、大人のそれではなく、あくまで少女特有の色気なのだが。
それがまた危ない程に可愛いのだ。
「まあ、エドちゃん!少女趣味のおじさんには気をつけるのよ」
「は、はい…」
気をつけるのよ、そういいながら、夫人はとても嬉しそうだ。反対にエドワードの気分は地を這っている。
サイテーだ…。ロイには見せられねぇ……。
ひたすら気分は落ち込んでいく。でも、テンションが上がりっぱなしな人もいる。
「ママ~、パパ~、お兄ちゃんとっても可愛いvvエリシア、こんなお姉ちゃんがほしいよ!」
「ははは、お姉ちゃんは無理だが、妹なら頑張れるぞ!」
「ほんと!?」
「ああ、パパにお任せだv」
「ぱぱ、だいすきvv」
「ぱぱも大好きだぞ~VV」
勝手に盛り上がっている親子に、エドワードは完全に蚊帳の外だ。だが、ヤキモキしながらアルフォンスが助け舟をだす。
「あ、あの~ヒューズさん。そろそろパーティーの時間じゃ…」
「おぉ、そうだった!じゃ、これからエドを二人で送ってくるわ」
「ええ、いってらっしゃいエドちゃん」
「お兄ちゃん、がんばってね」
「お、おう…いってきます」
うな垂れるエドワードを、ハイテンションのヒューズが車に乗せ出発した。もちろん、アルフォンスも鎧姿で会場入りする、とグレイシアとエリシアには言ってある。
だが実際は、アルフォンスは中には入れない。偽装した招待状を持っているのはエドワードだけ。
そもそも、鎧姿のアルフォンスでは目立ち過ぎて潜入捜査はできない。
そして、エドワードも『鋼』の二つ名はあまりに有名で、容姿も特徴も知られており、何より今夜出席する上層部のお偉い方には顔を知られている。
もちろん、ロイに知られるのは論外。
だから、万が一の時に動きにくいドレス姿を不利になると分かっていながら、敢えて選んだのだ。
車の中で、ヒューズと最終打ち合わせをする。
「いいか、エド。ファルザーノ・コルネオには充分に気をつけろ」
「分かってる」
ファルザーノ・コルネオ。今回のお見合い兼、パーティーの主催者で、ロイが捨て身で内側から叩き潰そうとしている人物だ。
そして、そのロイの暗殺を娘をダシにして企てている一人。
ロイが彼女を愛しているわけでもない。理由を知って『どうして俺に何も言ってくれないんだよ!……俺は、そんなに頼るに値しない存在なのか?』という淋しさと憤りが入り混じった感情と、でも作戦だと聞かされホッとしている自分がいる。
ゲンキンだよな、俺って。でも………やっぱり文句の一つでも言ってやらないと気がすまねぇぞ、あの無能っ!
やはり、怒りが沸々と湧いてくる。
ふと、ある事がよぎった。
「娘さん…フィオレッナさんだったっけ? 気の毒だよな。知ってるのかな…」
結婚した場合、自分の夫が自分の父を、家を自分を裏切るのだ。それは考えただけでも胸が苦しい未来。
幸せになるはずの結婚が、不幸だけを招く。
「お前さんが気にすんな。相手もなかなか手ごわいぞ?何たって当主の座を狙って、父親の寝首をかこうとしたことがあるらしいからな」
「げっ、それ本当かよ」
「おお、まじまじ!」
どうやら、フィオレッナ・コルネオには同情の余地はまったくいらないらしい。
「そんなんと結婚して、大佐……大丈夫なのか?」
「まあ、取って食われそうだな、あっはっはっ!」
別の意味でロイへの心配事が一つ増えてしまった。
そして、面白そうに笑い飛ばしていたヒューズが急に真剣な面持ちになる。
「ファルザーノ・コルネオはエド、お前の事も狙っている」
「………はい?」
運転席のヒューズの横顔を、思いっきりエドワードは間抜けな顔で見てしまった。
言われた意味が良く分からない。
「それって、どういう意味?」
「まあ、あれだ。ファルザーノは男も女も両方いけてな。愛人の数は両手に余るとか噂は華々しいぞ。しかも若ければ若いほど良いらしい。お前さんぐらいの歳の愛人もいるって話だ。」
あっけに取られ、エドワードは返答ができない。だが、アルフォンスは違う。
「そ、それってどういう事なんですか!そんな事聞いていないですよっ!」
いつもは礼節を弁えているアルフォンスが、事もあろうにヒューズに噛み付いたのだ。
「まあ、落ち着けや。それでな、ロイを消してお前さんの後見人に収まって、合法的に手に入れようとしてる、という噂もある。ま、あくまで下卑た噂だがな」
「そっ、そんな人の所に兄さんを差し向けるなんて、何考えているんですかっ!」
車中が殺伐とした雰囲気になる。そんな中、エドワードがアルを制止する
「アル…黙ってろ」
「に、兄さん、でもっ!」
「いいから、黙ってるんだ」
有無を言わせず、そのままヒューズに問う。
「なあ………その噂って、大佐も知ってるの?」
「……ああ、知っている」
無言で前を見る。雨が降っていた。3人には、規則正しく動くワイパーの音だけが聞こえる。
エドワードの女装には、ファルザーノへの対策も入っていたのだ。できるだけエドワードとは知られないように、ヒューズなりに気をつけたつもりなのだが。
それは無駄な努力になる。
「さあ、着いたぞ。そうだ、これがファルザーノだ、見ておけ」
胸ポケットから、ヒューズはファルザーノ・コルネオの写真を出してエドワードに見せた。
金色の瞳が驚きに見開かれる。
「へぇ、……もっと中年のコテコテとしたおっさんかと思ってたけど……バーコードとか」
写真で初めて見たファルザーノ・コルネオは銀髪をオールバックにして、青い瞳が印象的な、意外にもシルバーグレーという言葉が似合う紳士風の男性だったのだ。
「さあ、ここから中はお前さん一人だ」
コルネオ家の前で、ヒューズとアルフォンスは車の中で待機を余儀なくされる。不安も心配もある、けれど、今はエドワードに賭けるしかない。
「んじゃ、行ってくる」
「兄さん、その…気をつけて」
「おう、任せとけって」
絶対にロイを殺させないし、おっさんなんかに俺は良いようにされたりしない。
決意を秘めてニカッと笑う【少女】が頼もしい。
そんな少女を見送る二人が後悔の思いに駆られるまで、あと数時間。
意を決して潜入した屋敷内の大ホールは、どす黒いものを覆い隠すように煌びやかで華やか過ぎて、エドワードには嫌味としか感じない。
美しいとは、思えない。
「ロイは、まだ来ていないのかな?」
辺りを見回し、逸る気持ちを抑えこみ、とりあえず目立たないように壁際へと移る。だが、そんな様子を見つめている視線があるのを、エドワードは気がつかない。
青い瞳がエドワードを映し、ファルザーノの口端が上がる。
「これはこれは、なるほど………愛らしい少女というわけか。そういう趣向も悪くないね……私の、エドワード・エルリック…」
萌え立ったが吉日。
そして、・・・・・・・・すみません!須田は無類の女装&おじ様好きーvvなんですYO!
(あ、でもエドたん限定ですよ?)
もろに趣味に走ってしまってすみません(爆
おじ様のセリフが書きたいが為に、ここまで引っ張ってしまいました(汗
次の方、宜しくお願いしますっ!
まいこ