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-------------●ここは鋼の錬金術師「ロイ×エドSSリレー企画」の二次創作サイトです♪●-------------※全ての画像・テキストの無断掲載持ち帰りはしないでください・初めての方は「about」をお読みください※since07/10/25
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初めてのお散歩・後編
 

 
おさんぽできるもん!
 
なんて、仔猫エドが飛び出してしまった。でも困ったことに金色の仔猫エドワードは、ロイの溺愛で筋金入りの箱入り仔猫で。
 
お外には何があるの? 
そう、垣根の向こうは未知なる世界。大人への第一歩なのだ。
 
そして、ブロック塀に前足を乗せたまま、お隣の大型犬ハボックは固まったまま動けないでいた。
 
「ロ、ロイさんに何て言えばいいんだ?」
「なにを、だ」
「ひっ!……い、いつお帰りになったんすかっ!」
「たった今だが……」
 
焦っていたらロイがお散歩から帰ってきた。
メス猫に絶大な人気を誇る甘いテノールの声も、今のハボックには心臓に悪いものでしかない。間違いなく、確実に寿命は縮んだ。
 
どう言えばいいんだ!というか、ロイを怒らせないようにする為には、どうすればいいのか、脳内を駆け巡るのは無駄な抵抗なことばかり。
 
そう、無駄。
だってそんなものない。
あるわけない。
 
エドワードが一匹で外へ出てしまったのだから。子守失格。でも、それはロイだって同じ。
 
ハボックの青ざめかたと、10cmほどの開いている縁側のガラス戸。
アルフォンスも自分も、散歩へ出かけているのだから開いていて当然なのだけれど、それにしてもハボックの焦りっぷりが尋常ではなくて。
しかも、「にょい、かえったの!」と小さな金色が飛び出してこない。
 
「……いつ、だ」
「え? あ、あの…」
「エドワードが外へ出たのは、何時ごろかと聞いている」
「は、はいっ!今さっき出たばかりっす!」
 
ちっと舌打ちをすると、ロイは垣根をくぐって外へと出て行った。ロイにハボックを怒ることはできない。
本来、子守を任されているのはロイなのだから。
 
散歩から帰ってくると、いつも自分に飛んでくるエドワードが可愛らしくて、「にょいといっしょにおさんぽにいく!」と駄々をこねる姿も、とってもキュート。正しく目の中に入れても痛くない存在なのだ、エドワードは。
だから、大きくなったら一緒にお散歩デビューなんて考えてはいても、エドワードを皆に見せるのは勿体無い。
いや、見せびらかさない方が勿体無いかも?
 
ロイはロイなりに悩んでいたらしい。
 
でも、いつも置いていかれているエドワードにしてみれば、そろそろ、ただ待っているだけなんて限界だった。
まして、弟のアルフォンスがお散歩に出ているのだから、余計に「おれもいきたい!」な気持ちが高まるのも当然のことで。
 
「きょうのおさんぽは、ぜったいついていく!」と、意気込んでいた。
でも今は冬、ぽかぽかコタツには勝てずお昼寝タイム突入してしまったのだ。そして、やはりというか、目が覚めたら誰もいなかった。
 
ハボックが何を言っても、エドワードには納得できない。待っているなんて、もうやだもん!
勢いに任せて、垣根をくぐって<外>に出た。
出て、初めての外をとにかく走った。
りんりんりんりん、鈴の音が昼過ぎの住宅地に響き渡る猪突猛進な走りっぷりは、かなり危ない。
車は急には止まれない。
でも、危ないけど住宅地のど真ん中で、車道とは離れていたのが幸いした。この道に車はほとんど通らない。
 
車は通らないけれど、猫たちならいる。
 
りんりんりんりんりんどんっ!こて…。
 
猪突猛進に走っていたエドワードが、何かにぶつかってこけた。そんな音。
 
「い、いたーい」
ぶつかって転んで、とっても痛い。お庭で遊んでいて転んだりしたら、いつもすかさず「大丈夫かい、エド?」とロイが飛んできて舐めてくれるけど、今は外。
ロイはいない。
いるのは、ぶつかった対象物で。
 
「あれ?なんだ、えらくちっさいね」
「ちっさくなんかないやい!おれはもうよんかげつなんだぞ!」
「4ヶ月?2ヶ月の間違いだろ、おちびちゃん」
 
挨拶代わりとばかりに、頭でちょん、とエドワードを突いてきた。もちろん、ころりん、と転がるのは必然で。
「なにすんだよっ!」
思わず涙目で訴えた。
でも真っ黒な猫は、「面白いや」と笑うばかり。
そんな時、
「いい加減にしなさい、エンヴィー。そんな小さな仔をからかってはダメよ」
「げ、ラスト…」
真っ黒な毛並みの、ラストというメス猫が窘めてくれた。
 
「え~と面白くてつい」
「仔猫ちゃん、大丈夫?」
「おれ、ちいさくなんかないもん!だいじょうぶだもん!」
「あら、勇ましいのね」
 
ロイと同じ黒い毛並みの猫達。種類も同じようだ。とてもロイによく似ている。
でもロイじゃない。だからなのか、つい涙腺が緩んでしまった。
 
「ふ、ふぇ…」
「え!?お、おい、泣くなよ、泣くようなことかよ!」
「ふぇーんっ!にょいーっっ!!」
 
とうとう、にょい、と叫びながら泣いてしまった。
困ったのは、エンヴィーとラストだ。
 
「何だよ。これじゃ僕達が泣かしたみたいじゃないか」
「あら、泣かせたのでしょ?」
「違うよ、こいつが勝手に泣き出したんだろ!」
 
と、二匹が言い合っている間も、エドワードは「にょいにょい!」と泣き叫ぶばかり。
 
「困ったわね。迷子のようだけれど…」
「にょい、って何だ??」
 
毛並みはぴかぴかで首輪がついている。間違いなく飼い猫。それも、恐らく外へ出たのは初めてなのだろう。
この町内は毎日散歩しているが、金色の仔猫を見るのは今日が初めてだ。
 
「にょい、ね。誰かの名前なのね」
「あっはは、間抜けな名前!そいつの顔を見てみたいや♪」
「私に何か用かね」
 
聞き覚えのある嫌味な程の甘いテノールの声に、エンヴィーはゲンナリする。
 
「誰もあんたなんか呼んでないさ。ロ…」
「にょいっ!」
 
今まで泣いていた仔猫が、耳も尻尾もぴんっと立たせてロイに飛んでいく。そう、まさしくダイブ。
呆気にとられるエンヴィーとラストを他所に、ロイは擦り寄ってきたエドワードを優しく舐めだした。
 
「寂しい思いをさせてしまったようだね。すまない、エドワード」
「にょい~vv」
 
二匹の周りは桃色。ハートも飛んでいる。
 
「何、あれ?っていうか、ロイがにょい??」
「そうみたいね。笑ってはダメよ、エンヴィー…」
「わ、分かって…るって…っ」
 
メス猫の憧れ王子様とまで言われているロイが、にょい!しかも、この舌ッ足らずな仔猫に骨抜きにされている?!
 
エンヴィーは笑いを堪えるのに必死だ。とりあえず、ロイは怒らせないことに越したことはない。優男風のくせに、怒らせると怖いから。
それ以前にエンヴィーはロイにもラストに頭が上がらない。年齢順だから仕方がない。でもそれは、ロイも同じだったりする。
 
「世話をかけたようだな。ラスト…」
「気をつけてあげなさい、ロイ」
「……分かっている」
 
叱られたように、何だかロイはバツが悪そうだ。やがて、エドワードの首を咥えて歩き出す。
 
 
ぶらぶら、ロイに咥えられてエドワードの小さな体が揺れていて。歩かせても良いのだが、何が起きるか分からない。エドワードはエドワードで、揺れて楽しい。
まったくもって、まだまだ赤ちゃんなエドワードと、過保護なロイなのだった。
 
そして家に帰ると、先に帰っていたアルフォンスにエドワードはこってり怒られた。
 
「にいさん!どこ行ってたの!勝手に飛び出したら危ないじゃないか!!」
「おまえだってさんぽしてるじゃん…」
「僕はロイ兄さんの許可が出てるから良いの!」
「お、おれだって…」
「生まれたばかりの赤ちゃんみたいに、首根っこ咥えられて帰ってきたのはどこの誰?しかも楽しそうにさ」
「うー」
 
まだまだ、エドワードには分が悪い。お散歩デビューはもう少し先になりそうだ。
 
 
ぽかぽか縁側でお昼寝。
アルフォンスはお散歩に出かけていないけれど、今日はロイが傍にいてくれて、エドワードはぴたっ、とくっついている。
ロイとっても幸せ、エドワードも幸せ。
 
「なあ、にょい……」
「ん、なんだね?」
 
夢心地なエドワードに、優しい声が響いて更に心地よくなる。
 
「あのえんびーとらすとって、にょいのしってるねこ?」
「そうだね、弟と姉だよ」
 
ロイにはラストという姉がいる。でも、カーティス夫妻に引き取られたのは、まだ仔猫だったロイで。
ロイが引き取られた後にエンヴィーが生まれて、その後にグラトニー、末にラースが生まれたばかり。
皆、兄弟だけあって同じ真っ黒な毛並みだ。
 
「でも……にょいが、いちばんかっこいい…」
 
むにゃむにゃと、顔を埋めているエドワードの寝言に、ロイの鼓動は跳ね上がってしまう。
 
「私もね、兄弟たちよりもアルフォンスよりも……君が一番だよ」
 
真冬だけど、二匹はとっても温かい。
木枯らしだって、春の陽気に変えてしまうほど、とっても幸せなお昼寝の時間。
 
明日は、エドワードを連れてお散歩をしてみようか、と思うロイだった。
 
おしまい
 

 
お散歩デビューは、そのまま「ロイの恋人お披露目」&「誰も手を出すな」なアピールになるんだろうなと思います(笑)まいこ
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初めてのお散歩
                   ~黒猫ロイと金の仔猫・番外編~
 
前編
 
外は木枯らしが吹いていて、でも日当たりの良い縁側は硝子から差し込む陽射しもあってほこほこ。
それ以上にコタツの中はぽこぽこで。
そんなコタツの中でのお昼寝から目が覚めて、ふとんから出てきたのは金色の毛並みをした仔猫、エドワードだ。
珍しい金色の毛並みだけど、お腹はやっぱりふかふかの真っ白で、とってもキュートで愛らしい。
そんな愛らしいエドワードのちょこん、とついている三角の耳がぴこぴこと不安げに動いている。
 
「にゃ?」
 
何故か一緒に寝ていたはずのアルフォンスもいない。いつも側にいてくれるロイもいない。もちろん、飼い主イズミは仕事でいない。
八畳の和室にはコタツとみかんとエドワードだけ。誰もいなくて静かな部屋はとっても心細い。
 
「にょ……にょい…」
 
呼んでも返事がない。
いつもなら「起きたのかね、エドワード」と言って舐めてくれるはずなのに……。
 
「う、ふぇ…にょい」
 
もう大きな金色の瞳には涙がてんこ盛りで、今にも溢れて零れ落ちそうだ。てけてけと障子を前足の爪で開けて、縁側に出る。
もしかしたら、アルもロイもお日様で日光浴をしているかもしれないから。
でも、
「い、いない…アルもにょいもいない…」
広い縁側には日光が燦燦と注がれているだけ。
 
ぽろり、と溜まっていた涙が縁側に落ちると、次から次へとぽろぽろ零れ落ちて止まらなくて、それがまた寂しさに拍車をかけてしまう。
 
「……にょい、アル…ふぇ~ん」
「あー、大将!ほらハボックのお兄ちゃんがいるだろ~」
「はにょっく?」
「そう!はにょっく!」
 
尻尾をブンブンと振って壁にしがみ付いて叫んでいるのは、お隣の大型犬ハボック。
 
『いいかハボック。万が一、誰もいないときにエドワードの目が覚めてしまったら、その時はちゃんと相手をしているのだぞ。間違っても外へは出すな、いいな』
と、きつくロイからお達しを受けている。
 
と、もう一つ。
『エドワードは、私のだ。分かっているな』
と、更にきつく念押しされていた。
 
『もちろんっす!ロイさん!』
『よし。では頼んだぞ』
『いってらっしゃいっす!』
 
そんな会話がなされたのは、一時間前。
ついでに、
『ハボックのお兄ちゃん、ぼくもお散歩にいってくるねー』
と、アルフォンスが縁側のガラス戸をカシカシ、器用に前足で開けて散歩に出かけたのが半時間前。
 
で、現在に至る。
 
金色の仔猫エドワードは、お散歩デビューはまだだった。ロイの許可が下りないのだ。
それはアルフォンスだって同じはずなのだが、好奇心旺盛な仔猫はロイに叱られても連れ戻されても、連日果敢にチャレンジ。
ついには、ロイも根負けしてしまい認めてしまった。
そうなれば、
「おれもおさんぽにいく~!」
と、エドワードが言い出すのも当然で。
 
でも、少しずつでも成長しているアルフォンスと違い、エドワードはまだまだ小さい。というか、<ちんまり>としたなりだ。
首もとの鈴がアルフォンスのものより大きく見えるのは気のせいか!?というほどに、アルフォンスとは成長速度が違う。
 
お散歩などさせたら―――。
 
「いや~ん!!きゃばいいvv」
もみくちゃにされ、首輪が付いているのにお持ち帰りされてしまうかもしれない。危険だ、あまりに危険極まりない。
 
だが人間だけでなく、ご近所の猫たちだってエドワードには危ない存在だ。
メス猫だけならまだしも、不埒な変態オス猫に絡まれたりでもしたら!
 
「そんなこと、この私が断じて許さん!」
 
その不埒な変態オス猫の最たるがロイさんです。とは、ハボックは決して口には出さない。でも、ロイにしてみれば「お前は不埒な変態犬の一歩手前だ」なんだそうだ。
 
確かに、ハボックは犬でありながら猫のエドワードが可愛い。鎖に繋がれていなければ、駆け寄ってロイがするように舐めてやりたいのだ。
 
『ほ~ら、エドは本当に可愛いなぁ』
『はにょっく、くすぐったいよ』
『あはは、エドはお子様だな』
 
妄想はどこまでも膨らんで幸せいっぱい夢一杯。
 
でも黒猫ロイさんが怖い。実際にはしていないのに、こんな妄想をしていると知れたら……。
猫なのに、ロイの威圧は大型犬よりも大きい。
考えただけで、ハボックの尻尾が縮んでしまった。
 
まあ、ロイさんの心配も分かるし、とにかく大将が外に出ないようみておかないと。
 
とにかく、お散歩はロイと一緒に、と決まっている。その日時を決めるのもエスコートをするのもロイだ。
だけど、肝心のロイといえば、
「外気にさらすなど、もっての外だ!」
そんなこんなで、エドワードのお散歩デビューの日はまだまだ遠い。
 
でも、今日は何だかエドワードのご機嫌が悪い。縁側のガラス戸の隙間からぴょん、と飛び出ると。
 
「はにょっくはにょっく!にょいはどこ!?まだおさんぽからかえってないの!」
「まあ、ご近所の見回りは忙しいんだよ」
「じゃ、アルは!?アルはどうしておさんぽしていいの!」
「あ~、まあ、ロイさんの許可が下りてるし」
「おれは!?アルはいいのにどうしておれはだめなの、はにょっく!」
 
そんな舌っ足らずは犯罪級に愛らしくて、ハボックは悩殺されまくり。
ただでさえ小さくて可愛いのに、「はにょっく」なんて呼ばれてどうしよう!? どきどきが止まらなくて大変だ。
 
種族の違う犬でさえ、こうなのだ。
 
だから外出禁止。
 
「ほら、ロイさんが初めてのお散歩は一緒に、って言っているだろ?だから、それまで良い仔で待っているんだよ」
 
………いつもなら、これで大人しくなる。ぶう、と拗ねていても、アルやロイが帰ってくるまでハボックとお話をして待っているのだが。
 
「おれだってもうおさんぽできるもん!!」
「え!?お、おいっ、大将!?」
 
ハボックが止める間もなく、小さな体が垣根の下をくぐってしまった。
 
 
庭には愛らしい金色の仔猫はいない。縁側にいるはずもなく。目をぱちぱちさせたってダメ。
 
あれほどロイに念押しされていたのに。
 
「ま、…まじっすか……」
 
大事件発生。
箱入り仔猫エドワードが、なんと一匹で外へと出てしまったのだ。
 
 
********************
 
何故に和室?
だって、猫にはコタツとみかんと和室がセットなんですもの(汗
あと、時間軸と成長過程も怪しい・爆
まいこ 08/11/11
 
みぃーみぃーと、お隣から聞こえる子猫の鳴き声に、大型犬ハボックは気になって塀の上からのぞいてみた。

そこには金色の子猫エドワードが、鳴いていたのではなくて泣いていた。





可愛いあの子は子猫ちゃん~金色の子猫・番外編~




縁側でお昼寝をしていたのだろう。目が覚めてみれば一緒に寝ていたはずの弟、アルフォンスがいない。二匹の枕になっていたロイもいない。

目が覚めて、いきなりひとりぼっちなら心細くて当然だ。しかも、一ヶ月程前に貰われてきたばかりの生後間もない子猫だ。

言い表しようのない寂しさでひたすら泣いている。


あーあ、もうロイさんたらどこ行ったんだ?普段あれだけ『急に塀から顔をだすな、この仔がびっくりして泣き出すだろ!』なんて怒るくせに、その本人が泣かしてるよ…。

果てさてどうしたものか?

犬、しかも自分は大型犬だ。子猫からすれば、きっともの凄く大きく感じるに違いない。更に火がついたように泣き出したらどうしよう!?

しかもしかもっ、そんな時に限ってロイさんが帰ってきたら俺おしまいっすよ!

犬なのに(しかも大型レトリバー)、何故かハボックはお隣の黒猫ロイに頭が上がらない。
『犬は猫の天敵だ、お前を見たらエドワードが泣くに決まっている』そんなお達しがあって、実はハボッはエドワードとはしゃべった事がまだないのだ。

でもこのままほっておく訳にもいかない。
とりあえず、慰めてみることにした。

「え~と、…おーい大将、泣くなよ~ほら、お隣のハボックお兄ちゃんがいるだろ?」

返事がない。


ないけど、縁側からじーとこちら側を伺っている様で、「お、興味を持ったか!?」これはお近づきのチャンスだ。

「お兄ちゃんだよ~ん♪」

とにかくおどけてみせる。子供受けには自信がある。あるけど、あくまで子犬と人間の子供専門だ。子猫相手なんて全くの範囲外。

だけどやるしかない!

そんなハボックの熱意が通じたのか、縁側をぴょこんと飛び降りてエドワードが近づいてくる。トコトコとやってくる様は、まさしく小動物の愛らしさ満載。見ているだけで和んでしまう可愛らしさ。

そして極め付けが、塀の下でハボックを見上げてくる大きな金色の瞳。


うっ!こっ、これはーっ!!


どがーんっ!という衝撃音が打ち寄せるのを、ハボックは聞いた。聞いてしまった。

うるうると潤んだ大きな大きな瞳が、もう涙ごと零れ落ちそうで。

はっきり言って。


激マブッすよっ!!!


魂を持って行かれそうになった。

その上、「……はにょっく?」舌っ足らずに自分の名前を呼んでくる。

持って行かれたっすよーっ!!!


ハボックの、犬として何かが終わってしまった瞬間だった。



全世界のメス猫の恋人を自負していたロイが、見事落ちてしまったのだ。犬とはいえ、ハボックがエドワードの天然の愛らしさに太刀打ちできるはずがない。
太刀打ちできないが、

「何を持っていかれたと言うのだ、ハボック…」
「げっ!ろろろろろロイさん!?」

もっと太刀打ちできない存在が、この黒猫ロイだ。

「にょい!」

泣いていたのが嘘のように、エドワードの表情がぱあぁと笑顔になって。垣根をくぐってきたロイへとぴょんぴょん走り寄っていく。

「エドワード、すまなかったね。一人にしてしまって」
「にょい、にょい

ロイではなく、『にょい』と未だ舌ッ足らずに自分を呼ぶエドワードが可愛くて可愛くて、もうどうしていいのか分からないぐらい、ロイはエドワードが可愛い。

足元にまとわり着くエドワードをひたすら舐めてやる。エドワードは泣いていたのはどこに行ったのやら、すっかりご機嫌。

ロイだってご機嫌。な、はずなのだけど。

「……そういえばハボック」
「は、はい!」
「お前、私のエドワードに何て呼ばれたのだ?」

ハボックへと向きなおしたロイの視線が、もの凄く冷たい。

「え、え~と………はにょっく?」
「やめんか!お前が言っても可愛らしくも何ともない、気持ち悪いだけだっ!」
「ひーっ、すんません!」

理不尽だ。そう思っても言葉にできない。だってロイさんが怖いから。
相手は猫、大型犬のハボックから見れば成猫といえど、小さいな生き物でしかない。だけど、このロイには頭がまるっきり上がらないのだ。

きっと前世は上司と部下とかだったに違いない。そんな事さえ思ってしまうほどに、本当に頭が上がらない。


ほんのひと時、幸せの絶頂を味わった。でもすぐ急下降。
塀越に仲睦まじい二匹の猫を見ながら、「……羨ましいっすよぉ」何だかハボックはとっても心が寂しい。

でも、可愛い遊び相手ならいる。

「ハボックのお兄ちゃん、遊んでー!」
「おう、アル坊。今帰ったのか?」
「うん!」
「あんまり外に行っちゃダメだぞ。ロイさんに叱られるぞ」
「ぼく、もうおとなだもん!」
「ははは…」

こっそり、アルは抜け出して散歩に出ていた。もちろん、最初はロイに見つかってそれこそ首根っこを咥えられて連れ戻された。

でも果敢に毎日トライ。

今ではロイも諦めて容認している。でも、「エドワードが真似をしてはいけないから、あの仔が寝ているときだけだ」との条件付きだけど。

同じ子猫でも、箱入りエドワードとは違ってアルはすっかりたくましい。ハボックにも懐いて、時折遊んでもらっている。

そう、遊んであげているのはハボック―――のはず。

「兄さん、可愛いでしょう?」
「おう、可愛いな♪」
「……ダメですからね」
「へ?」

まだ小さな子猫なのに、栗色の瞳が「兄さんに近寄ったら、ハボックのお兄ちゃんでも僕、許しませんから」と、子猫が大型犬を睨んでいる。

可愛いあの仔に惚れ込んで、でもそのおかげで頭が上がらない存在がまた一匹増えてしまった。

しかも、今度は子猫。


俺って、一体……。


塀に寄りかかって項垂れる、何だか情けない。
でも、目の前でころころと表情が変わる金色の子猫を見て、ほんわかと気分が温かくなる。

「やっぱ……可愛いよなぁ」

懲りないのが、ハボックの良いところ。



そしてその数日後。

ロイの知らない間に行われたエドワードの初めてのお散歩は、とっても波乱に満ちたものになるのだった。


                                                     おしまい

犬だってエドたんにはイチコロなのさ!
子猫の可愛らしさ+エドワード=誰も太刀打ちできない。が須田の図式です(きっぱり)
<初めてのお散歩>に続く予定、というか続けたい希望です(汗)
まいこ
初夏の子猫たちその②
  ~黒猫ロイと金色の子猫~より
 
 
エドワードがロイと初めて出会ったのは、まだ生後2ヶ月の頃。
 
たくさんいた兄弟たちは日に日に少なくなって、「いつものことなのよ…」とママ猫は淋しそうに言っていた。
一番の仲良しだったエドワードとアルフォンスは、たまたま家の中を散歩していて最後までママ猫と一緒にいることができたのだけれど。
 
本当は、最初こそ偶然だったが後は違う。
 
お客さんが来る時間帯はいつもだいたい同じで。そして、お客さんが来ると必ず兄弟達が減っている。
エドワードとアルフォンスは、小さいなりに何かを感じて二匹でいつもその時間には抜け出していたのだ。
だけど。
その日のお客さんは、いつもと違う時間帯に来たのだった。
 
誰にも邪魔をされないはずの時間。ママ猫のお腹にもたれて寝ていたら―――。
 
「これは可愛い。二匹一緒に貰いたいが…」
「ええ、この子たちで最後ですから良いですよ」
 
話し声が聞こえたかと思うと、ふわりと抱き上げられた。
 
「みゅ?」
「みぃ?」
 
エドワードとアルフォンスが見上げると、そこには知らない女の人が優しく微笑んでいて。でも……。
 
ママ猫がじーと女の人に抱かれているエドワードとアルフォンスを見つめている。諦めたように何も言わないけれど、とても悲しそうで。
二匹の子猫もママ猫を求めて、みぃみぃ鳴いて泣き止まない。
 
「悪いな……大事に育てるから安心だけはしてほしい。お前達は、これから私と一緒に暮らすんだよ。私はイズミだ、宜しくなエド、アル」
 
イズミは優しくママ猫の頭を撫でて、エドワードとアルフォンスを抱きしめてそう言った。
 
 
けれど、帰り道どんなに優しく抱きしめても子猫たちは泣き止まなくて。
家に着いてからも、エドワードとアルフォンスの為に用意してあったふかふかのクッションも、温かなミルクも二匹を泣き止ますことができない。
 
「困ったな…今からまた出かけないといけないのだが…」
 
さすがのイズミも途方に暮れてしまう。
そんな時、黒く長い尻尾を揺らしながら部屋に入ってきたものがいた。
 
「ロイ、ちょうど良いところへ帰ってきたな」
 
イズミの飼い猫、ロイだ。
艶やかな黒い毛並みのオスの成猫で、メス猫とのデートから帰ってきたところなのだが、お気に入りの部屋は聞きなれない子猫の鳴き声がもの凄い。
 
『ああ、そういえば子猫をもらってくると言っていたな』
 
クッションに埋もれて泣いている子猫に視線をやる。
そこには、小さな小さな子猫が二匹、身を寄せ合って母親を呼んで泣いていた。
 
「ロイ、この子たちを頼む。できるだけ早く帰ってくるから」
『え!?ち、ちょっと待てっ』
「すぐに戻るから頼んだぞ!」
『待てと言っている、おいっ!』
 
なんて叫んでも無駄。にゃーにゃーとしかイズミには聞こえない。聞こえないけれど、そここは飼い主。何か抗議っぽいのは伝わったようで。
 
「私は、お前に頼んだと、そう言っているんだよ、ロイ」
『わかりました』
 
睨まれて終わり。
 
部屋には泣きっぱなしの子猫が2匹と、子守なんてしたことがないオス猫が一匹。
 
うむ…さて、どうしたものか?
 
クッションに埋もれている子猫たちを覗き込むと、まだ広さに余裕があるそこにロイもお邪魔する。
そして子猫の隣へと横たわると、ぺろぺろと交互に二匹を舐めてやった。
 
自分にも経験がある。
この家に始めて来た時の心細さと淋しさに。
 
だから、今は何も言わず、ただ小さな子猫たちを母猫がするように舐めてやった。泣き止むまで、ずっとずっとロイは二匹を舐め続けたのだ。
 
ようやく泣き止んだ頃、
『私はロイだ。これから毎日一緒だな』
実にスマートにカッコよくロイは決めた。決めたつもりだった。
 
だが。
 
『……にょい?』
 
舌っ足らずにロイを呼んだ子猫が見上げてくる。
その子猫の大きな金色の瞳が、今にも涙で零れ落ちそうなほど、うるうると潤んでいて。
 
かっ、か、可愛いではないか……っっ!!
 
どうやら零れ落ちたのは、ロイの心みたいだ。
それは町内でもタラシで評判の黒猫ロイが、生後2ヶ月の子猫(しかも♂)に激しい衝撃と共に恋をしてしまった瞬間だった。
 
恋に落ちれば、あとはもうコロコロと転げ落ちるだけ。
可愛い可愛いエドワード♪愛らしいエドワードvキュートでらぶりーなエドワード♪と、すっかりメロメロで鬱陶しいほどの溺愛ぶり。
そして恋をして幸せな毎日になる、はずが―――ロイを待っていたのは忍耐の日々。
 
だって、相手はまだ生後2ヶ月の子猫、というよりまだ赤ちゃんといって良い。
一緒にお昼寝をすれば、寝ぼけてロイのお腹に顔を埋め、小さな手でふにふにと押す始末。まだまだおっぱいが恋しい。
 
そう、寝ぼけたエドワードとアルフォンスは、ロイをママ猫と間違えるのだ。
 
『仕方がない、エドワードもアルフォンスも赤ちゃんなのだから。耐えろ、耐えるのだ、私っ!』
肉球をぐっと握り締める。
 
分かってはいてもロイにとっては屈辱。でも、そんな子猫に恋しているのはロイ。
アルフォンスも可愛いが、何とっていってもエドワードだ。
 
ふふふ…このまま、子育てに専念して私好みの猫に育てるのも一興だな。
 
ここに、猫版『光る源氏の君計画』を虎視眈々と狙う、いけない大人がいた。
そしてそれは、兄らぶvvな弟アルフォンスに敏感に察知され、ほのぼのな関係が一転した。
アルフォンスにしてみれば『優しいお兄ちゃん』だったのに、『可愛い兄に寄り付く悪い虫』にロイの立場は下落してしまった。
そして、ロイにしてみれば『可愛い弟』から『真っ黒くろすけお邪魔虫』に『恋のライバル』へとアルフォンスは昇格(?)してしまったのだった。
 
この日から、アルフォンスとロイの不毛な戦いの火蓋は切って落とされる。そんな賑やかな日々から10ヶ月。
 
そう、エドワードとアルフォンスがイズミに貰われてから、10ヶ月が経っていた。生まれてから1年。
本当なら、もう子猫ではないはず。だけど、大人というにはまだ子猫の面影とあどけなさが残っている、そんな時期。
 
でもエドワードは相変わらず小さくて、見た目は生後半年、良く見てもいいところ8ヶ月の子猫にしか見えない。
弟のアルフォンスの方がよっぽど大人になっている。
でもこのアルフォンスは可愛い容姿を最大限に活かし、人様の前でエドワードと戯れる時は、まだ大人の一歩手前の無邪気な子猫を見事演じきるのだ。
それは、女子高校生だって「きゃーv可愛い子猫がもう一匹いるわvv」と、騙されてしまう程の完璧さを誇っていた。
 
ロイにしてみれば「子猫の分際で!」と怒り心頭になる。もう子猫ではないけれど、自分のお腹をふみふみしていたアルフォンスは、ロイにしてみれば何時までたっても子猫なのだ。
 
でも、女子高校生に抱きかかえられている今の状況は激しくまずい。
アルフォンスのグルーミングはすでに終わっている。エドワードが起きて、お座りをしているからだ。
なら何がまずいのか?
 
「きゃ~んvv尻尾を振っているわよ♪」
「ご機嫌なのね~かっわいいvv」
「こっちに来るわよvv」
 
尻尾を振りながら垣根の前まで行くと、エドワードはちょこんと、そこでお座り。
お座りをして、尻尾をぺったんぱったんと地面に揺らしている。というか叩きつけているのだが。
 
「「「あーっもうっ、かっわいいーっ!!」」」
 
女子高校生たちは思いっきり勘違いをして喜んでいる。
猫が尻尾を揺らすのは犬とは大きく理由が異なっていて、犬は喜んで尻尾を大きく揺らすが、猫のそれは……はっきりいって「怒ってます」なのだ。
 
そう、エドワードは怒っているのだ。
それはロイにもビシビシと嫌でも伝わっていて。
 
『や、やあ…お目覚めかな? エドワード』
『……あんた、何やってんの』
『ま、まあその…なかなかお嬢さんが離してくれなくて、ほとほと困っているんだよ……ははは…』
『ふ~ん…』
 
垣根に緊張感と寒さが同時に漂っている。
ロイにとっては非常に不味い状態なのだが、でも女子高校生からすれば、「にゃ~」とか、「にゃー」とかにしか聞こえない。しかも、尻尾の動きが可愛らしくて勘違いに拍車が掛かりっぱなしだ。
 
「やーん、猫ちゃんたちお話しているvv」
「この黒猫と仲良しなのね!」
「じゃあ離してあげればスリスリしにいくのかしら!?」
 
子猫に擦り寄る黒猫、黒猫に甘える子猫な図が見たい!という事で、ようやくロイは解放された。
女子高校生が見守るなか、そろそろとロイがエドワードに歩み寄る。
が、足が途中で止まってしまった。だって、金色の瞳が完全にすわっていたのだから。
 
イズミに引き取られてから10ヵ月。その間、ロイから寄せられる好意が親愛のものなのか恋愛によるものなのか、エドワードだって分からない程もはや子供ではない。何かしらを感じているはず。
だけど。
エドワードにらぶらぶコール24時間フル活動なのに、デートこそないもののメス猫への愛想が止むことはなく、ロイはこうして人間の女の子にもベッタリだ。
 
エドワード的には、『気にいらねぇ』の一言に尽きる。らしい。
 
子供ではないから嫉妬だってする。そう嫉妬だ。この気持ちは嫉妬以外、何ものでもない。でも困った事にまったく自覚していない。
 
そして、ロイもそんなエドワードにまったく気がついていない。
 
な、何故、エドワードはこんなにもご機嫌斜めなのだ!? 寝起きだからなのか?
 
なんて、的外れなことを一生懸命考えていた。だって、機嫌を損ねたエドワードは一日中口を聞いてくれないのだ。
しかも、これ幸いにとばかりに、アルフォンスがエドワードにべったりで離れない。わざとらしくグルーミングをしたり、添い寝をしたりと見せ付けるのだ。
 
今日もこのままでは、きっと口も聞いてはもらえない。しかも、アルフォンスはこの状況を高みの見物。向こうの縁側で笑っている。
そして極め付けが、エドワードのこの言葉。
 
『ロイなんて嫌いだっ』
『エ、エドワード…ッ』
がーんっ!と強烈な衝撃波がロイを襲う。
 
エドワードはプイッと横を向いて、尻尾を激しくぺったんペッタンさせている。
ロイは、そんなエドワードを宥めるのに必死だ。
 
でも女子高校生は変わらず喜んでいて。
そしてアルフォンスは溜め息をついていた。
 
何だかなぁ……兄さんもロイさんも、いいかげん気がつかないかなぁ~。兄さんはともかく、ロイさんは経験豊富な癖してさ。ま、僕は教えてなんてあげないからね。ずっと邪魔しちゃうもん。
 
 
もうちょっとだけ、あと少し。
黒猫ロイと金色の子猫エドワードの、2匹にとっての春はすぐそこまで来ている―――かも、しれない。
 
 
おしまい
 
初お散歩編も書けたら書いてみたいな~と、野望だけはあります(汗
そしてここで、拍手お返事を失礼します!
Poohさまv>須田も触りたいです~。ふかふか猫のお腹大好きですvv
「わあ、見てみて!」
「きゃーっ、かわいいvv」
「いや~ん、おなか真っ白でふかふか~♪」

ちょっと陽射しが痛いというか、きつくなってきたある初夏の午後。
女子高校生らしき女の子達3人の声が、道端にきゃんきゃんとこだましていた。




初夏の子猫たち―その①―

       ~黒猫ロイと金の子猫より~






彼女達の視線の先は、垣根の向こうにあるとある一軒家の庭先、つまり縁側で。
そこには燦燦と日光が注がれていて、真っ白なふかふか毛並みのお腹が、気持ち良さそうに太陽へと向いていた。

そう、金色の子猫・エドワードはただ今お昼寝真っ最中。
紫外線が最も多いこの時期、女性達には天敵な太陽も、猫には天からの恵みというか、温かで気持ちの良い贈り物なのだ。

だから、エドワードは伸び伸びと気持ちよくお昼寝をしている。
そして、時々ころん、くりん、と寝返りを打つから大変だ。

だって。

「きゃーっ!」
「見た!ねえっ今の見た!?」
「可愛すぎるわーっ!!」

もう歓喜の声を通り越して、絶叫がご近所に響き渡るのだから。そこへ、散歩帰りのロイが通りかかった。

「おやおや、エドワードはまたお腹を出して寝ているのだな」

やはり大人の余裕なのだろうか。嫉妬するのではなく、ロイは女の子達の狂喜乱舞ぶりを冷静に分析する。

「ま、私のエドワードは世界一の愛らしさだからな、お嬢さん方の反応も当然といえばとうぜんか」
そして家に入ろうと、女子高校生の前を横切ると。

「きゃvv何この黒猫!素敵―っ!」
一人が叫びながらロイを抱き上げる。

「やーんvv本当!成猫の魅力!?ってやつね!」
もう一人は、両手を合わせながら頬を染めていて。

「私が猫だったら結婚したいーっ!」
3人目のお嬢さんはブンブンと腕と腰を左右に振って叫んでいた。

『ふっ、これもまた、当然といえば当然のことだが…』

人間なら、間違いなくロイは前髪を掬い上げ、「やあ、お嬢さん方…」と微笑んだに違いない。
ロイは見事な艶と滑らかな毛並みの黒猫で、ご近所のメス猫は全て彼の虜といっても過言ではなく。
そして、そのオスとしての魅力は、実は人間にも有効だったりする。
散歩中に出会う女の子やご婦人方は、「まあ、素敵な黒猫!」と皆一様にロイを褒め称え、時にはうっとりと歩く姿を見つめていたりするのだ。

猫でありながら、ロイはご町内のプリンス的存在だった。

だから、若くて異様にノリの良いこの女子高生3人組が、ロイに絶叫激しく抱きしめるのは無理もない事で。
しかも、一度抱きしめると、なかなか離してくれない。

大好きな愛おしい存在があるとはいえ、ロイとて立派な成猫のオス、男には違いない。この状況は満更でもなく、なかなかにご満喫。
でも、せっかくのご機嫌も一気に下降した。何故なら―――。

「きゃー見てみてvvもう一匹子猫ちゃんがでてきたわよvv」
「いやん本当に可愛いーvv」
「しかも金色の子猫にくっ付いてるわよvv」
『なっ、何だと!』

女子高校生に合わせていた視線を、びゅんっ!という勢いでエドワードへと戻す。戻した視線の先、黒曜石の瞳に映ったのは可愛い可愛いエドワードと、もう一匹……。

あ、あれは真っ黒くろすけのアルフォンスではないか!

てけてけと、縁側にやってきたのはエドワードの弟アルフォンス。金色の毛並みとハニーゴールドの瞳のエドワードとは少し違い、亜麻色の毛並みと栗色の瞳だ。
ロイにとって真っ黒くろすけでも、一般的にその愛らしさはエドワード同様群を抜いている。
その可愛らしい子猫が二匹、縁側で日向ぼっこ。
しかもだ。
ロイの目の前でアルフォンスは、寝ているエドワードにペロペロとグルーミングしだしたのだ。

その姿は、はっきりいって、もの凄く可愛い。
舐める子猫も舐められる子猫も幸せ一杯な光景は、抱きしめたいぐらいキュートでらぶりーだ。

そんなKOノックアウトな光景を目の当たりにしたら、もう女子高校生達は堪らない。
でも、きゃーきゃー叫びながらもロイを手放さないのは、流石と言うしかない。だって、ロイはカッコイイから離したくないのだ。

そして、ロイはロイで真性のフェミニストを今ほど後悔したことはない。

『何をしているっ! 私のエドワードにグルーミングだとは良い度胸ではないかっ、離れたまえアルフォンス!』

すぐさま飛び出してエドワードから剥がしたい。
だが、今自分はしっかり女子高校生にホールドされていて。ここから無理にでも飛び出すには爪をたてるしかない。
でもそんなことをすれば、女の子に傷をつけることになってしまう。

そ、そんな事などできん……っ

エドワードの元に飛んでいきたいのに行くことができない。激しいジレンマに眩暈を起こしそうだ。
一方アルフォンスは、ロイのそういった性癖はもちろん承知の上での行動なのだ。

『ふふん、そうやってあなたは眺めていれば良いんですよ、ロイさん』

ちろちろエドワードを舐めながら、横目でちらりとロイを見る。このアルフォンスも、もし人間だったのなら間違いなく口端が上がっているに違いない。

面白くないのはロイだ。
絶対に自分をバカにしている!そう確信を持てる。しかも、挑発までしているのだ。子猫の分際で生意気な。

どんなに怒り心頭でも女子高校生に抱っこされ、というか抱きしめられ身動きがとれず、尻尾だけがぶぁさっ!と膨らんでいる。

何だか情けない。
これでも男かと、ロイは自分でも思う。

そんなロイの葛藤など女子高校生が知るはずもなく、彼女らは変わらずきゃーきゃーと騒がしい。
アルフォンスは勝利に気分良く、更にエドワードにくっついてグルーミング。

騒がしさとしつこいぐらいのグルーミングに、流石のお寝坊なエドワードも目を開けた。
寝ぼけ眼な金色の子猫は、ぼーーっと縁側にお座りをする。



ぼーっとした視界に、一番に入ってきたのは黒。



その②へつづく

お題連載中に何やってんの!?って感じですね(汗
いえ、ご近所の猫があまりに幸せそうにお昼寝していたので、ついつい。
しかも、この時期を逃したら後がない!と思い立ったので…ご了承を(汗
このシリーズは、ノリヲさんへの捧げ物です♪
まいこ 08/05/26

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ILLUSTRATION BY nyao