-------------●ここは鋼の錬金術師「ロイ×エドSSリレー企画」の二次創作サイトです♪●-------------※全ての画像・テキストの無断掲載持ち帰りはしないでください・初めての方は「about」をお読みください※since07/10/25
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金色の子猫と雪の町 後編
目が覚めて、窓から外を見てみると。
そこは、真っ白できらきらひかる不思議な世界だった。
「おぉー!なんてきれーなんだ!!」
初めてみる白銀の世界に、子猫のエドワードは興奮して歓声をあげる。
興味と興奮と好奇心、これだけ揃えばすることはただ一つ。
「よし!いまからおさんぽにいくぞ!!」
カシカシとガラス戸を器用に開けてお庭にダイビング。
途端、エドワードは固まった。
いや、正しくは体中に冷気が走って凍った、といった方がいいかもしれない。
冬はコタツとストーブに囲まれた部屋しか知らない。そんなエドワードは完全完璧室内飼い箱入り子猫。
でも冷たさに凍っても、それ以上にキラキラと光る世界が眩しくて。
大きな瞳に大粒の涙を溜めながらも、周りの景色を凝視。
だって、とってもきれいなんだもん。
「ううっ、すんげーつめたいけど……むちっちゃきれい!!」
本能のまま垣根をくぐってお外へと出てしまう。
ちなみに、お隣のハボックは丁度お散歩で、エドワードが一匹でお外に出てしまったという一大事には全く気が付いていない。
つまり、ロイに怒られたのはまったくの怒られ損。
当のエドワードといえば、「すげー!」とか「すっごい!」とか「うぉー!」とか、何だかとってもご機嫌に町内を駆け回っていた。
ちなみに、その頃のロイといえば。
こ、こんなに寒い外に出てしまって、あの子が震えて泣いているに違いない!あぁ何てことだ……エドワードッ!今すぐ迎えに行くぞ!!
と、心配のあまり雪景色な町内へと捜索に飛び出していた。
飛び出した真っ白な雪原(町内だけど)に、小さな足跡がくっきりと残されている。
こんな雪の日に散歩をする猫などいない。ましてや子猫。この足跡は間違いなく、愛おしいエドワードのものだ。
「足跡まで何て可愛らしいのだ!よし、これを辿っていけば良い」
寒さも冷たさも愛の前では耐えられる。そう、エドワードへの愛は半端ではない。愛だけを心に黒猫ロイは行く!
って感じだよな……猫なのにロイさん凄いっすよ。と雪なんてへっちゃらな大型犬ハボックは感心を通り越して感激しながらロイを見送った。
アルフォンスだって、この時ばかりは尊敬の眼差になっている。
そしてロイは。
この寒さにエドワードが凍えていたら、風邪をひいてしまったら!と心労は尽きない。
そんな心配がピークに達しようとした時、
「やったなー!」
「あっははは、おちびちゃん、ほうら♪」
「ちびいうなあ!」
何とも元気な声が聞こえてきた。
「こ、これはエドワードとエンヴィーの声?!」
何をやっているんだ? とロイが急いで角を曲がると。
そこには。
雪かきをしながら遊んでいるという非常識な猫が2匹。
そう、エドワードとエンヴィーが、後ろ足で互いに雪を掛けあっていたのだった。
し、信じられん。雪で遊ぶ猫など…。しかも何時の間にあの2匹は仲良くなったのだ?!
茫然とその光景を見てしまう。そんなロイに2匹が気づいたようだ。
「あれ、ロイじゃん」
「あ、にょい!いっしょにゆきかきをしようよ」
「あー無理無理。年寄りにはこの雪は無理だって」
「にょいはとしよりじゃないもん!わかくてかっこいいもん」
にょい、あそぼ♪
愛しのエドワードに誘われた。
エンヴィーは無理だってって笑っている。
でも「そんなことないもん」って大きな金色の瞳がロイを見ていて。
たとえ一面雪だらけでも。
何て可愛いことを言ってくれるのだ、エドワードvv ここで引き下がったら男がすたるではないか!
「もちろんだよ、エドワード」
笑顔全開でロイは雪かきに混ざったのだった。
「知らないよ~年寄りなのにどうなっても」
「黙りなさい。そんな台詞は私に雪かきに勝ってから云いたまえ、エンヴィー」
こっそり耳打ちするエンヴィーに、ロイは余裕の笑みを見せる。
そして、もちろんエドワードには寸前で雪がかからないよう絶妙なさじ加減を発揮。
でも弟のエンヴィーには遠慮はしない。思いっきり雪を掛ける。エンヴィーだってロイには大量にぶちかましていた。
「私は負けんぞ!」
「年寄りは大人しくコタツに入っていれば?!」
どちらも本気の勝負になっている。兄弟だけあって、妙なところで似ているようだ。
雪にまみれて、たっぷり遊んだ。
こんな経験は3匹とも初めて。
「たのしかったぞ♪」
「また遊んであげるよ、エド」
「うん!」
と満足げな若い猫と子猫。
すっかり大人な猫と言えば。
「にょい、どうしたんだ?」
「あれ~、もしかして寒くて口も利けなくなったとか?」
「……………バカを言いなさい」
返事まで間が開いてしまった。しかも微妙に小声。
そんなロイに、心配そうに金色の瞳が覗きこんでくる。
「にょい…さむかった?」
「そ、そんなことはないとも!全然平気だよ、エドワード」
今のロイは、きっと人間なら腰に手を当て、はっはっはっと笑っている感じだろう。顔を引き攣らせながら、だけど。
エドワードは良かった、なんて騙されているけれど、エンヴィーには「あ~あ、やせ我慢しちゃってるよ」とバレバレだ。
この後。
すっかり風邪で寝込んでしまったのは、やはりロイ。
鼻水は出るし鼻ちょうちんまで膨らむわと、みっともなくて色男が台無し。
でも、
「にょい、はやくげんきになって」
と、エドワードが24時間片時も離れないでくっ付いてくれていた。
風邪もたまにはいいかもしれんな。
雪はとっても冷たかったけれど。
その雪のおかげで、今は気分がとってもぽかぽかなロイだった。
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金色の子猫と雪の町 その①
木枯らし一番がびゅ~と吹き荒れて、外はすでに雪景色。
そんな時は、昔から♪猫はこたつで丸くなる♪が常で。ここカーティス家でもコタツを囲んで黒猫ロイに亜麻色の子猫アルフォンス、そして金色の子猫エドワードがぽかぽかと暖をとっている。
はずなのだけれど。
「ロイさん!兄さんがいませんよ!!」
「何?! そんなバカなことがあるものか!」
ふと、お昼寝から目覚めたアルフォンスはびっくりして大声でロイを起こした。
だって、一緒に丸まっていたはずの兄がいない。
ロイはロイで「バカなことを言うものではない。エドワードならコタツの中で寝ているではないか……」と布団にもぐって見てみる。
そこにはころん、お腹を真上に向けて、両手両足を伸ばして。そう、とても幸せそうな寝顔の子猫がいるはず……だった。
「い、いない?!」
「だから、僕がいないって言ったじゃないですか!」
「これは一大事だ、アルフォンス!」
「ええ大変ですよ、ロイさん!」
これは非常にまずい状況。
だって、外は白銀の世界になっちゃってるし。
肉球は冷たいし濡れるし寒いし、普通なら猫はまず、外には出ない。
普通なら、ね。
でもエドワードは好奇心旺盛な上に過重包装しまくりの箱入り子猫ちゃんだったりする。
きっと、この雪景色を見て。
わあぁぁ…すんげーきれいだぞ!
なんて、あの大きな金色の瞳をランランと輝かせて見ていただろう。そして、あろうことか「おそとへいくぞ!」と抜け出したに違いない。
猫にとって有るまじき行為。猫の常識なんか通じない。それが金色の子猫、エドワード。
過保護にしまくったロイの責任だ。
とにかく探しに行かなくてはならない。
アルフォンスとロイはコタツから飛び出て、障子も開けて縁側に出る。
「「うっ」」
二匹は固まった。
「こ、これは、予想以上だな」
「ええ、まさか…こんなに積っているなんて」
ざっと積雪5㎝ほど。
でも、猫にとっては未知との遭遇と言っても良い。
「こ、この中をエドワードは外へと出たのか……っ」
「ロ、ロイさん…」
何時もは生意気なアルフォンスがロイの後ろへと隠れる。前人未到ならぬ前猫未踏の世界へいざ!
でも、これはかなり勇気がいる。
気温はとっても寒いのに、ロイは冷や汗で暑い。でもでも大切なエドワードが、この外に。
肉球が濡れて、冷たくて。尻尾もびちゃびちゃで凍えそうに冷たい。
「にょい~…さむいよ……たすけて」
と、エドワードが泣いてロイに助けを求めている姿が浮かぶ。
「くわっ!!この程度の雪がなんだ!エドワード、今行くぞ待っていなさい!!」
ガラス戸をガシガシと開け、いざ雪原(庭だけど)にロイは愛おしいエドワードの為にダイビングだ。
真っ白な世界(庭だけど)に黒い姿が宙を舞う(ええ、庭ですとも)。
びちゃ。
ぴた、ではなく着地音はびちゃ。だって雪だから。
「ロ、ロイさん、大丈夫?!」
恐る恐る、ガラス戸の隙間からアルフォンスがロイに声をかける。
何時もは生意気な口をきいてはいるが、やはりそこはまだ子猫。この雪を前にして外へとは出ることができない。
そして。
本来なら着地と同時に飛び上がるところを、ロイはぎゅっと我慢した。アルフォンスの手前、無様な姿は見せられない。
ここは我慢のしどころ。
つっ、冷たすぎるっ!!!!
でも、涙が出そうなほど雪は冷たかった。
ロイは頑張る。頑張って頑張って耐えた。でもでもやっぱり雪はとても冷たくて。
肉球からジンジンと冷たさが体中に、あっという間に広がっていく。
声は流石に抑えきれない。でも間抜けな姿はやはり見せることはできない。
ロイ、大人としての意地。
抑えきれない声は、
「ハボック!お前は何をしていたのだ! そこでエドワードが出て行くのを黙って見ていたのか?!それでも番犬か!」
ハボックへ八当たりで誤魔化した。
いきなり矛先を向けられて、お隣の大型犬ハボックが慌てて塀から顔を出す。
「ええ?!いやあのロイさん俺、この家の番犬であって、そっちは管轄外…」
「ほう、エドワードがどうなっても知らぬ、そういう訳か…」
「酷いよハボックのお兄ちゃん!!」
ロイ、寒さも忘れてお隣の大型犬ハボックを睨む。
睨まれて怖いは、弟のようなアルフォンスにも「酷い」と言われて、ハボックはとばっちりで泣くしかない。
「ひーっす、すんませんロイさん!!」
ロイは猫でハボックは犬なのに、何故か誤ってしまう。相変わらず黒猫ロイには頭が上がらないハボックは大型犬。
「とにかく、今助けに行くからなエドワード!!」
「ロイさん、頑張って!」
泣いているハボックを無視して、アルフォンスの応援を背に受けて、黒猫ロイ―――愛しのエドワード救出の為、白銀の前猫未踏の世界へ(ご近所だよ)飛び出したのだった。
ロイと一緒にお散歩してからエドワードの様子がおかしい。
そもそも、帰ってきたかと思うといきなりコタツにもぐって出てこなかったり。しかも、側へ寄ろうとしたロイに、
「にょいはくんなっ!おれはひとりでおひるねするんだからなっ!!」
なんて、有り得ない言葉を言ってロイを凹ませた。その様子を一部始終見ていたアルフォンスは吃驚だ。
に、兄さんどうしちゃったの?! ロイ兄さんラブらぶvvな兄さんが「くんなっ!」て一体何事?!
エドに自覚はなくても、いつもエドはロイにべったりで。
ロイはロイで鼻の下が伸びきるのを必死に我慢しているのはアルにも一目瞭然。
そんな光景を毎日24時間まぢかで見ていたのだ。
なのに、お散歩から帰ってきてからエドはコタツから出てこないし、ロイはコタツ布団の上で涙に暮れているし。
有り得ない光景に、アルも呆然と眺めるしかない。
あんなに「しんねんになったら、にょいとおさんぽなんだぜ♪」って、喜んでいたのに。とうとう兄さんも<町へお散歩>、大人への一歩を踏む出すんだねって。まあ、保護者付きだけど。箱入りで心配だけど、ロイ兄さんが一緒だから大丈夫って思っていたのに…。
ここまで考えて、「まさか?!」アルフォンスはある考えに行き着いた。
まさかまさかまさか!!あの人(猫だけど)兄さんの前でも女の子達にデレデレしていたんじゃ!?
ロイは良く言えばフェミニスト、悪く言えば根っからのタラシだ。
そして、エドワードといえば箱入り仔猫。それも過重包装しまくりの筋金入りの箱入りで天然の世間知らず。
知っているのは、ロイとアルとご近所の大型犬ハボックぐらいで、既に一匹でお散歩をしているアルフォンスと比べて世間はあまりに狭い。
そんな兄さんの前で、出会うメス猫すべてにタラシ全開モードな態度をしたの?! タラシだ色男だスケコマシだなんて色々な噂もその現場を見たり聞いたりして知っていたけど、まさかっ、あんな初心な兄さんの前でなんて信じられないよっ!
エドワード溺愛、エドワード至上主義は何もロイだけではい。アルフォンスだってそうだ。しかも、自他共に認める究極のブラコン。
沸々と、無神経なロイに対して怒りが込み上げてくる。
てくてくと、コタツ布団の上で丸くなっているロイへと近づくと、思いっきり低い声をだして名前を呼んだ。
「―――ロイさん」
いつもの幼く可愛い声が、ドスを含んだ低い響きでロイに聞こえる。驚いて顔を上げると、これ以上ないほどの笑顔があった。
そう、アルフォンスは笑顔全開。そして、そんなアルフォンスにロイは肝が冷えそうだ。
さ、寒いぞアルフォンス?!
悪寒が走る中、ロイはある事に気が付く。
今、アルフォンスは<ロイさん>と言ったのだ。今日の今朝まで<ロイ兄さん>と呼んでいたのに。
そう、これはアルフォンスからの宣戦布告なのだ。
「兄さんを悲しませるなんて、僕はそんな無神経な人(猫だけど)認めませんからね!」
「……はい?」
ロイ、今いち思考が付いていかない。
さっきまで、アルフォンスにとってロイは親代わりであり兄だった。頼もしくて大好きな<ロイ兄さん>だから、兄さんを任せても良いかな、なんてちょっぴりだけど思っていたのに。
内心プンプン!でも表面上は笑顔のアルフォンスがロイに詰め寄るが、ロイには何故アルフォンスが怒っているのか分からない。
「僕、怒っているんですからね」
「えっと…何をだね?……アルフォンス」
「分からないなら良いです。教えてあげませんよ。ついでに、兄さんがどうしてコタツにもぐっているのかも教えてなんかあげません」
ロイのことを<兄さん>とは呼ばない。
だって。
今この時から、ロイはアルフォンスにとって恋のライバルになったのだから。
それからというもの、アルフォンスの反撃はもの凄い。
毎日毎日、ロイとエドワードの接触を絶妙のタイミングで邪魔に入る。あんなに3匹で寄り添ってお昼寝をしていたのに、それはもう遠い昔の記憶のようにさえ思えてしまう程だ。
エドワードといえば、あの日以来ロイとはろくに口をきいていない。
未だ拗ねているのも原因なのだが、一番の要因はアルフォンスだ。とにかく、エドワードと2匹だけになる機会なんてロイにはない。
「どういうつもりだね、アルフォンス。あんなに私に懐いていたのに」
「僕はもう赤ちゃんじゃないんです。それから、いい加減兄さんを諦めてくださいよ、往生際が悪いですよ、大人の癖に」
「それはできない相談だな、アルフォンス」
ばちばちっと両者の間に火花が散る。
ロイとて、エドワードと同じようにアルフォンスを可愛がってきたつもりだ。もちろん、恋愛感情は抜きで、だけど。
でも、これだけ敵対視されれば嫌でも気が付く。
弟して兄のエドワードを心配しているのではなく、ロイと同じ感情でもって接しているのだ。
そう、同じ感情。
つまり―――愛している。ということ。
私のエドワードに恋愛感情を持つとは、良い度胸ではないか。それも、浮気をしていると思い込んでの自覚とは、可愛いものだ。
「私は浮気などしていないよ。挨拶は基本だろ? アルフォンス」
「その挨拶の仕方に問題があるって思わないんですか?」
「男として、素敵なレディ達を袖になどできんな」
「………何も兄さんの前でデレデレしなくてもいいでしょ」
「おやおや、それは酷い誤解だね。それに可愛らしい文句だ」
「あなたは自覚がないのですね」
二匹とも譲らない。いくら話し合っても平行線ばかりで『どうしようもない』とはこの事だ。
でも、ロイの方に分が悪い。
初めてのお散歩で、初めてのメス猫達。もう少しロイに配慮があっても良かったはず。それはロイも認めている。
まさか、あんなにエドワードが落ち込むとは思いもよらなかったのだ。あげく拗ねられて口をまともにきいてはもらえない。
けれど、それはロイにとって嬉しい誤算だった。
―――落ち込んで拗ねてしまうほどに、ロイの事が好き―――
無自覚なまま、全身でロイが『好き』と言っているエドワード。これ以上の幸せがあるだろうか。
男冥利に尽きるとは、まさしくこの事。
だけど、このまま放っておくのは頂けない。いつまでもエドワードに無視されるのは流石に堪える。
コタツに近づく。それを牽制するように、アルフォンスがコタツ布団の上に座る。その様子に、ロイはため息をつかずにはいられない。
やれやれ、それほどに信用がなくなってしまったのかな。ひどい誤解だよ、アルフォンス。
「エドワード…」
いつもの甘く優しいテノールの響きで、愛おしい幼子を呼ぶ。
「私は今から散歩に出るが、一緒に行かないかい? 是非とも、君と一緒に散歩をしたいのだけどね、私は。君がいないと寂しくて仕方がなくてね……君はどうなのかな?」
君はどうしたい? 一緒に散歩をしたくないのかい?
さりげなくだが、決定権をエドワードに委ねる。そんなロイに、アルフォンスは「大人ってずるい」と思った。
エドワードは拗ねているだけだ。だから、こんな風に誘われてしまったら、諭されてしまったら。
もぞもぞと、コタツ布団が動く。
ちょこんと、中から外を覗くのは可愛らしい三角の耳で、それから撫でたくなる小さな頭。
そして、布団をかぶったまま大きな金色の瞳がロイを見つめてくる。
ようやく顔を出してくれた金色の仔猫。
でも、どこかまだ拗ねている雰囲気がとても可愛らしくて愛おしくて、ロイには微笑ましい。
「さあ、行こうか。エドワード」
「……にょい…」
ああ、やっと私の名前を呼んでくれた。
名前を呼んでもらう。それだけのことがロイには嬉しい。この幸せを壊さないよう、これからは迂闊な言動は控えようと、心底思った。
「何かな?」
「もう…おねえちゃんにむちゅうにならない?」
「私が夢中なのは君だけだよ」
「うそつけ…」
「おや、これは手厳しいね」
にっこり微笑んでエドワードを見る。そして、思いの丈を込めて、今度はロイが呼んだ。
「さあ、おいで。私のエドワード…」
もそもそと、コタツの中から出てくる金色の仔猫を、ロイはじっと待っている。
待っていて、出てきたところを舐めてやった。
「少し、久しぶりだね」
「……にょいがわるいんだもん」
「そうだったね。許してくれるかい?」
許すも何も、出てきた時点で円満解決なのに。まったくずるい大人だ、と間近で見ていたアルフォンスは思った。
しかも、あの声と笑みは反則でしょ! 仔猫に全力投球な大人ってどうよ? 横で聞いているだけの僕でも腰が抜けそうになっちゃったよ!腰にくるんだよ、あの人(猫だけど)の声は!
でも、どんなに反論しても負け惜しみにしかならないって、アルフォンスには分かっている。
ロイに呼ばれてエドワードが出てきた。エドワード自らコタツの中から出てきたのだから、アルフォンスにはどうしようもない。
悔しかったら男を磨くしかない。それもとびっきりの好い男に。
「ちぇ…」
今度はアルフォンスが拗ねて膨れっ面。
そんなアルフォンスに、「では、行ってくるよ。アルフォンス」勝ち誇ったような笑みを向けるロイが、また大人気ない。
そしてべったりと、ロイの足元に絡みながら歩いている金色の仔猫は幸せそうだ。
無邪気な笑顔が今のアルフォンスには、ちょっとだけ辛い。
僕だってロイさんに負けないくらいの男になるんだからね! ご近所のお姉さん達は皆「将来が楽しみに♪」って言ってくれているんだから!
まだ仔猫のアルフォンス。大きな目標に向かって、やる気満々だ。目標は高ければ高いほど燃えるもの。
ロイが最大で最高の人生の目標なのだ。
「……僕もお散歩にいこっと」
そして、機嫌よくお散歩に出かけたロイとエドワードといえば―――。
「にょいのばかーっ!おねえちゃんにまたむちゅうになってるーっ!!」
「ご、誤解だエドワード! 待ちなさいっ!」
ちょっと微笑んで挨拶をした。
でも、腰にくる程の甘いテノールに優しい微笑みは効果覿面で。相手はロイにぼ~となってしまう。
そんな事が3回も続けば、エドワードだって分かってはいても「うそつき!」と怒ってしまう訳で。
「うわ~んっ!」
「いきなり走ったら危ないよ、エドワード!」
泣きながら走り去る仔猫を、必死の形相で追いかけるのは町内一の色男。
そんな光景を、散歩の途中でアルフォンスは目の当たりにしてしまった。
「あれが、僕の目標……」
呆れてしまって、目標にした事を思いっきり後悔した。
このあと、エドワードは一週間ばかりコタツにもぐったまま、その間またしてもロイは一度も口をきいてはもらえなかった。
コタツ布団の上で「エドワード、出てきておくれ」と泣いているのはロイ。
縁側で「ばっかじゃないの」と呆れるのは、アルフォンス。
ブロック塀の上では「どうしてあの人がモテルんだ??」と大型犬ハボックが顔を覗かせている。
こんなにチグハグな2匹だけど、大人になったら誰も付け入る隙なんてないほどに、お似合いの恋人同士になるのは間違いない。
でも、それと同時に。
ロイにとって恋のライバルは、とてもとても増えていて大変なことになるのも必須。
だって。
金色に輝くエドワードは、町内一のアイドルになるのだから。
おしまい
そもそも、帰ってきたかと思うといきなりコタツにもぐって出てこなかったり。しかも、側へ寄ろうとしたロイに、
「にょいはくんなっ!おれはひとりでおひるねするんだからなっ!!」
なんて、有り得ない言葉を言ってロイを凹ませた。その様子を一部始終見ていたアルフォンスは吃驚だ。
に、兄さんどうしちゃったの?! ロイ兄さんラブらぶvvな兄さんが「くんなっ!」て一体何事?!
エドに自覚はなくても、いつもエドはロイにべったりで。
ロイはロイで鼻の下が伸びきるのを必死に我慢しているのはアルにも一目瞭然。
そんな光景を毎日24時間まぢかで見ていたのだ。
なのに、お散歩から帰ってきてからエドはコタツから出てこないし、ロイはコタツ布団の上で涙に暮れているし。
有り得ない光景に、アルも呆然と眺めるしかない。
あんなに「しんねんになったら、にょいとおさんぽなんだぜ♪」って、喜んでいたのに。とうとう兄さんも<町へお散歩>、大人への一歩を踏む出すんだねって。まあ、保護者付きだけど。箱入りで心配だけど、ロイ兄さんが一緒だから大丈夫って思っていたのに…。
ここまで考えて、「まさか?!」アルフォンスはある考えに行き着いた。
まさかまさかまさか!!あの人(猫だけど)兄さんの前でも女の子達にデレデレしていたんじゃ!?
ロイは良く言えばフェミニスト、悪く言えば根っからのタラシだ。
そして、エドワードといえば箱入り仔猫。それも過重包装しまくりの筋金入りの箱入りで天然の世間知らず。
知っているのは、ロイとアルとご近所の大型犬ハボックぐらいで、既に一匹でお散歩をしているアルフォンスと比べて世間はあまりに狭い。
そんな兄さんの前で、出会うメス猫すべてにタラシ全開モードな態度をしたの?! タラシだ色男だスケコマシだなんて色々な噂もその現場を見たり聞いたりして知っていたけど、まさかっ、あんな初心な兄さんの前でなんて信じられないよっ!
エドワード溺愛、エドワード至上主義は何もロイだけではい。アルフォンスだってそうだ。しかも、自他共に認める究極のブラコン。
沸々と、無神経なロイに対して怒りが込み上げてくる。
てくてくと、コタツ布団の上で丸くなっているロイへと近づくと、思いっきり低い声をだして名前を呼んだ。
「―――ロイさん」
いつもの幼く可愛い声が、ドスを含んだ低い響きでロイに聞こえる。驚いて顔を上げると、これ以上ないほどの笑顔があった。
そう、アルフォンスは笑顔全開。そして、そんなアルフォンスにロイは肝が冷えそうだ。
さ、寒いぞアルフォンス?!
悪寒が走る中、ロイはある事に気が付く。
今、アルフォンスは<ロイさん>と言ったのだ。今日の今朝まで<ロイ兄さん>と呼んでいたのに。
そう、これはアルフォンスからの宣戦布告なのだ。
「兄さんを悲しませるなんて、僕はそんな無神経な人(猫だけど)認めませんからね!」
「……はい?」
ロイ、今いち思考が付いていかない。
さっきまで、アルフォンスにとってロイは親代わりであり兄だった。頼もしくて大好きな<ロイ兄さん>だから、兄さんを任せても良いかな、なんてちょっぴりだけど思っていたのに。
内心プンプン!でも表面上は笑顔のアルフォンスがロイに詰め寄るが、ロイには何故アルフォンスが怒っているのか分からない。
「僕、怒っているんですからね」
「えっと…何をだね?……アルフォンス」
「分からないなら良いです。教えてあげませんよ。ついでに、兄さんがどうしてコタツにもぐっているのかも教えてなんかあげません」
ロイのことを<兄さん>とは呼ばない。
だって。
今この時から、ロイはアルフォンスにとって恋のライバルになったのだから。
それからというもの、アルフォンスの反撃はもの凄い。
毎日毎日、ロイとエドワードの接触を絶妙のタイミングで邪魔に入る。あんなに3匹で寄り添ってお昼寝をしていたのに、それはもう遠い昔の記憶のようにさえ思えてしまう程だ。
エドワードといえば、あの日以来ロイとはろくに口をきいていない。
未だ拗ねているのも原因なのだが、一番の要因はアルフォンスだ。とにかく、エドワードと2匹だけになる機会なんてロイにはない。
「どういうつもりだね、アルフォンス。あんなに私に懐いていたのに」
「僕はもう赤ちゃんじゃないんです。それから、いい加減兄さんを諦めてくださいよ、往生際が悪いですよ、大人の癖に」
「それはできない相談だな、アルフォンス」
ばちばちっと両者の間に火花が散る。
ロイとて、エドワードと同じようにアルフォンスを可愛がってきたつもりだ。もちろん、恋愛感情は抜きで、だけど。
でも、これだけ敵対視されれば嫌でも気が付く。
弟して兄のエドワードを心配しているのではなく、ロイと同じ感情でもって接しているのだ。
そう、同じ感情。
つまり―――愛している。ということ。
私のエドワードに恋愛感情を持つとは、良い度胸ではないか。それも、浮気をしていると思い込んでの自覚とは、可愛いものだ。
「私は浮気などしていないよ。挨拶は基本だろ? アルフォンス」
「その挨拶の仕方に問題があるって思わないんですか?」
「男として、素敵なレディ達を袖になどできんな」
「………何も兄さんの前でデレデレしなくてもいいでしょ」
「おやおや、それは酷い誤解だね。それに可愛らしい文句だ」
「あなたは自覚がないのですね」
二匹とも譲らない。いくら話し合っても平行線ばかりで『どうしようもない』とはこの事だ。
でも、ロイの方に分が悪い。
初めてのお散歩で、初めてのメス猫達。もう少しロイに配慮があっても良かったはず。それはロイも認めている。
まさか、あんなにエドワードが落ち込むとは思いもよらなかったのだ。あげく拗ねられて口をまともにきいてはもらえない。
けれど、それはロイにとって嬉しい誤算だった。
―――落ち込んで拗ねてしまうほどに、ロイの事が好き―――
無自覚なまま、全身でロイが『好き』と言っているエドワード。これ以上の幸せがあるだろうか。
男冥利に尽きるとは、まさしくこの事。
だけど、このまま放っておくのは頂けない。いつまでもエドワードに無視されるのは流石に堪える。
コタツに近づく。それを牽制するように、アルフォンスがコタツ布団の上に座る。その様子に、ロイはため息をつかずにはいられない。
やれやれ、それほどに信用がなくなってしまったのかな。ひどい誤解だよ、アルフォンス。
「エドワード…」
いつもの甘く優しいテノールの響きで、愛おしい幼子を呼ぶ。
「私は今から散歩に出るが、一緒に行かないかい? 是非とも、君と一緒に散歩をしたいのだけどね、私は。君がいないと寂しくて仕方がなくてね……君はどうなのかな?」
君はどうしたい? 一緒に散歩をしたくないのかい?
さりげなくだが、決定権をエドワードに委ねる。そんなロイに、アルフォンスは「大人ってずるい」と思った。
エドワードは拗ねているだけだ。だから、こんな風に誘われてしまったら、諭されてしまったら。
もぞもぞと、コタツ布団が動く。
ちょこんと、中から外を覗くのは可愛らしい三角の耳で、それから撫でたくなる小さな頭。
そして、布団をかぶったまま大きな金色の瞳がロイを見つめてくる。
ようやく顔を出してくれた金色の仔猫。
でも、どこかまだ拗ねている雰囲気がとても可愛らしくて愛おしくて、ロイには微笑ましい。
「さあ、行こうか。エドワード」
「……にょい…」
ああ、やっと私の名前を呼んでくれた。
名前を呼んでもらう。それだけのことがロイには嬉しい。この幸せを壊さないよう、これからは迂闊な言動は控えようと、心底思った。
「何かな?」
「もう…おねえちゃんにむちゅうにならない?」
「私が夢中なのは君だけだよ」
「うそつけ…」
「おや、これは手厳しいね」
にっこり微笑んでエドワードを見る。そして、思いの丈を込めて、今度はロイが呼んだ。
「さあ、おいで。私のエドワード…」
もそもそと、コタツの中から出てくる金色の仔猫を、ロイはじっと待っている。
待っていて、出てきたところを舐めてやった。
「少し、久しぶりだね」
「……にょいがわるいんだもん」
「そうだったね。許してくれるかい?」
許すも何も、出てきた時点で円満解決なのに。まったくずるい大人だ、と間近で見ていたアルフォンスは思った。
しかも、あの声と笑みは反則でしょ! 仔猫に全力投球な大人ってどうよ? 横で聞いているだけの僕でも腰が抜けそうになっちゃったよ!腰にくるんだよ、あの人(猫だけど)の声は!
でも、どんなに反論しても負け惜しみにしかならないって、アルフォンスには分かっている。
ロイに呼ばれてエドワードが出てきた。エドワード自らコタツの中から出てきたのだから、アルフォンスにはどうしようもない。
悔しかったら男を磨くしかない。それもとびっきりの好い男に。
「ちぇ…」
今度はアルフォンスが拗ねて膨れっ面。
そんなアルフォンスに、「では、行ってくるよ。アルフォンス」勝ち誇ったような笑みを向けるロイが、また大人気ない。
そしてべったりと、ロイの足元に絡みながら歩いている金色の仔猫は幸せそうだ。
無邪気な笑顔が今のアルフォンスには、ちょっとだけ辛い。
僕だってロイさんに負けないくらいの男になるんだからね! ご近所のお姉さん達は皆「将来が楽しみに♪」って言ってくれているんだから!
まだ仔猫のアルフォンス。大きな目標に向かって、やる気満々だ。目標は高ければ高いほど燃えるもの。
ロイが最大で最高の人生の目標なのだ。
「……僕もお散歩にいこっと」
そして、機嫌よくお散歩に出かけたロイとエドワードといえば―――。
「にょいのばかーっ!おねえちゃんにまたむちゅうになってるーっ!!」
「ご、誤解だエドワード! 待ちなさいっ!」
ちょっと微笑んで挨拶をした。
でも、腰にくる程の甘いテノールに優しい微笑みは効果覿面で。相手はロイにぼ~となってしまう。
そんな事が3回も続けば、エドワードだって分かってはいても「うそつき!」と怒ってしまう訳で。
「うわ~んっ!」
「いきなり走ったら危ないよ、エドワード!」
泣きながら走り去る仔猫を、必死の形相で追いかけるのは町内一の色男。
そんな光景を、散歩の途中でアルフォンスは目の当たりにしてしまった。
「あれが、僕の目標……」
呆れてしまって、目標にした事を思いっきり後悔した。
このあと、エドワードは一週間ばかりコタツにもぐったまま、その間またしてもロイは一度も口をきいてはもらえなかった。
コタツ布団の上で「エドワード、出てきておくれ」と泣いているのはロイ。
縁側で「ばっかじゃないの」と呆れるのは、アルフォンス。
ブロック塀の上では「どうしてあの人がモテルんだ??」と大型犬ハボックが顔を覗かせている。
こんなにチグハグな2匹だけど、大人になったら誰も付け入る隙なんてないほどに、お似合いの恋人同士になるのは間違いない。
でも、それと同時に。
ロイにとって恋のライバルは、とてもとても増えていて大変なことになるのも必須。
だって。
金色に輝くエドワードは、町内一のアイドルになるのだから。
おしまい
黒猫ロイと金の仔猫・番外編 ~町へ行こう~その②
でも、そんなハボックの心配は全然無用。
だって、ロイは見目形だけでなく、内面も男前。決める時はビシッと決める。
メロメロでだらしなく見えても、大切な仔猫を外へと連れ出すのだ。細心の注意と気配りを忘れない。
良い男とは顔だけでは決まらないのだ。
ロイとのお散歩がよほど嬉しいのか、エドワードはちょっぴり小走り気味。
ちりんちりん、と鳴る鈴の音がロイにはとても心地が良くて、足元にぴったりとくっ付くようにして歩くエドワードが可愛らしくて心が弾む。
こんなに心地よいものなら、もっと早くに一緒に散歩をすれば良かったかな。
あんなにも心配して不安に思っていたのに、気分はお姫様をエスコートする騎士もしくは王子さま。
そんな気分を存分に味わって、もう最高潮にロイは気持ちが良い。
そんな中、ご近所の三毛猫のミー子に会った。
「ロイ様!新年おめでとうございますVV」
「おめでとう、ミー……」
子と、名前を全部言い終わる前にミー子がダイブしてきた。もちろん、ダイブの先はロイ。そして、 女の子を避けるという選択枠はロイにはない。
よって、ミー子はしっかりロイの背にのっかかっていた。ロイ様の体温を毛並みを直で感じられて、ミー子は新年からとってもはっぴー♪
「君は相変わらず元気だね」
「はい!ロイ様大好きvv」
熱烈ラブコールなメス猫に、いつもなら「ははは、それは嬉しいね」なんてロイも返事をするのだけれど、今日は勝手が違った。
だって、
「にょいはおれのなの!!」
舌ッ足らずな癖に、大胆な発言があったから。
「ロイ様、……この仔は?」
ロイにのっかかったまま、ミー子はロイの足元にくっ付いている仔猫を見た。
味覚/糖純/露つゆみたいに美味しそうな、とっても大きな金色の瞳がこれでもかっ!と睨んでいて、おまけに輝く金の毛並みが逆立っている。
もちろん、尻尾はぶはっと限界までに膨らんでいて、ミー子を<威嚇>をしているのだった。
そう<威嚇>なのだが。
「か、かっわいいんvvや~ん、どうしましょうvv」
どんなに頑張って威嚇しても、怖くもなければ迫力も無い。すべて<可愛い>or<愛らしい>に自動変換されてしまう。
究極の愛くるしさを持つ。
それが、金の仔猫エドワード。
今日も新年早々、可愛らしさは絶好調で絶品なのだ。いや、去年よりも更に磨きがかかっている。
大きくなるにつれ、普通は仔猫特有のふわふわとした愛らしさは薄まっていくものだけれど、何故かエドワードの愛らしさは日に日に増すばかり。
腕に抱けば、誰もが手放せなくなる。
そう、それが金の仔猫エドワード。
ロイがエドワードを愛でるのはもちろん、実弟のアルフォンスに至っては、もの凄いブラコンだ。飼い主のイズミも溺愛している。そして、お隣の大型犬ハボックも多種族でありながら夢中という有様。
三毛猫ミー子も例外ではなく、手足をばたつかせ「可愛い」を連呼している。
でもメロメロになりながらもロイの背中からは降りない。
だって、仔猫は可愛いけれど、やはり妙齢なお年頃の三毛猫ミー子はロイ様が一番だから。
そんなメス猫の恋愛感情は分からなくても、<ロイ様が一番好き&ロイ様の一番になりたいv>な感情を敏感に察したのか、エドワードのご機嫌はこれ以上ないぐらい急下降。
まだまだ恋愛には疎くても、独占欲ならしっかり芽生えている。
「おりろよ!にょいにしゃわんなっ!」
「あらん、やーよ」
ムキになって怒る仔猫が面白くて可愛らしくて、あっかんべーなんてしてしまう大人気ない三毛猫ミー子と、
「にょいのいちばんはおれなの!にょいはおれんのなのっ……おれのなの!」
エドワードは、もうほとんど半泣き状態だ。
「ミー子、子供をからかうのは頂けないね」
「ご、ごめんなさい…」
流石にロイもこれ以上は放っておくわけにはいかない。
何時もは優しいはずのテノールの声が、少しばかり戒めを含んでいて。三毛猫ミー子はおずおずとロイから降りた。
「あ、あのロイ様……」
「この仔はエドワードだ。よろしく頼むよ」
「は、はい!」
ロイ様に叱られてしゅんとしてしまっていたけれど、仔猫を紹介されてミー子の気分は復活。ロイもその辺は心得ている。
「ではまた」
「はい!また明日お会いするのを楽しみにしています♪」
ルンルン気分で去っていくミー子を、ロイは紳士らしく見送る。見えなくなって、ようやくロイとエドワードの二匹だけのお散歩の再開だ。
でも、エドワードは半泣きから本泣きになってしまっていて。
大きな金色の瞳からはぽろぽろと涙が零れ、「ふぇ…えっ…っ」としゃくりあげながらロイに着いてきていた。
「エドワード、そんなに泣かないでおくれ。あの子も悪気があったわけではないんだよ」
「に、にょいは……」
「ん?」
「にょいは……おれのにょい…なんだもん」
「もちろんだよ、エドワード」
「にょいのいちばんは……おれなんだもん」
「もちろんだとも」
ああ、なんて可愛いのだ私のエドワードは……。
慰めなくてはいけないのに、『にょいはおれの、にょいのいちばんはおれなの』と泣き止まないエドワードが愛おしすぎて、そのあまりの愛らしさにロイは眩暈を起こす寸前。
そんな眩暈寸前の至福の中、今度はシャムネコのメアリーに会った。
「まあ、ロイ様v明けましておめでとうございます」
「やあ、メアリー。おめでとう」
どう慰めようか、でもなんて可愛いのだと、眩暈まで起こしかけていたのに瞬時に笑みを浮かべ挨拶を交わす。それはもう、オス猫ロイとしての条件反射だ。
そして、ちょっと気位の高そうなお嬢様な彼女は、ロイに猛烈なアピールはしない。
しないけれど、足元に泣きながらくっ付いている仔猫は気になる。
「ロイ様…この仔は?」
「ああ、私のエドワードだよ。メアリー」
さ、ご挨拶をしなさい。ロイは泣きはらしているエドワードの目元を舐めてやる。
<私の>という言葉と今の行動に、メアリーはピンときた。ピンときたけれど、そのまま認めるのは面白くない。
大人のメス猫にロイを射止められたと云うのなら、まだ分かる。
だけど、まさか恋敵が。
『こ、こんなに小さな仔猫っ、しかも可愛いとはいえ男の子?!男の子にロイ様を持っていかれたなんて私の自尊心が許せませんわ!』
シャムネコはプライドが高かった。
高かったのだけれど、仔猫に負けたなんて許せないのだけれど。
だけど。
それ以上に、―――エドワードは可愛らしかったのだ。
「とっても愛らしい仔ですね」
「そうだろ。私の自慢だよ」
「ま、妬けますわ」
臆面もなく<私の自慢>だと言われ、しかも、その時のロイの表情が本当に嬉しそうで。
シャムネコのメアリー、負けを認めるしかない。
しかも、実は内心では涙が零れている金色の瞳を舐めてやりたくてウズウズしてしまって仕方がなかったのだ。
でも言えない。だって<ロイ様の仔猫>だから。
ぐっと我慢。
「では、失礼いたしますわ。ロイ様お幸せに」
「有り難う、メアリー」
ロイ様ったら、なんて幸せそうなお顔をなさるの。
あの微笑みが、ただ一匹の仔猫のものになる。悔しいけれど勝ち目がないのも事実。
今日はもう家に帰ってお昼寝(ふて寝ともいう)をしよう、と思うメアリーだった。
ミー子とは違い、無事にあっさりと引き下がってくれてホッとしたのも束の間。
「にょい……いまのおねえちゃんもすきなの…」
足元を見てみれば、大粒の涙が一段と金色の瞳を濡らしていた。
出会うメス猫がすべて「ロイ様v」とハートマーク付きでロイを呼んでいて。ロイはロイで自分のことなんてお構いなしに、にっこり微笑んで相手の名前を呼んでいる。
何時もは自分に向けられている笑みが、今日は違う猫に向けられていた。
それがエドワードには何だか寂しくて悲しくて、涙が勝手にぽろぽろと溢れてしまう。
どうしてなのか分からないけれど、とっても嫌だったのだ。
ロイが一番で、ロイにとっても自分が一番で。
でも、そう思う感情が何なのかは、まだ仔猫のエドワードには分からなくて。
分からないけれど。
ロイが今のエドワードにとって世界そのものなのだ。
その②おわり
良くも悪くも、仔猫エドは箱入りさんです。
まいこ 09/01/29←拍手UP日
でも、そんなハボックの心配は全然無用。
だって、ロイは見目形だけでなく、内面も男前。決める時はビシッと決める。
メロメロでだらしなく見えても、大切な仔猫を外へと連れ出すのだ。細心の注意と気配りを忘れない。
良い男とは顔だけでは決まらないのだ。
ロイとのお散歩がよほど嬉しいのか、エドワードはちょっぴり小走り気味。
ちりんちりん、と鳴る鈴の音がロイにはとても心地が良くて、足元にぴったりとくっ付くようにして歩くエドワードが可愛らしくて心が弾む。
こんなに心地よいものなら、もっと早くに一緒に散歩をすれば良かったかな。
あんなにも心配して不安に思っていたのに、気分はお姫様をエスコートする騎士もしくは王子さま。
そんな気分を存分に味わって、もう最高潮にロイは気持ちが良い。
そんな中、ご近所の三毛猫のミー子に会った。
「ロイ様!新年おめでとうございますVV」
「おめでとう、ミー……」
子と、名前を全部言い終わる前にミー子がダイブしてきた。もちろん、ダイブの先はロイ。そして、 女の子を避けるという選択枠はロイにはない。
よって、ミー子はしっかりロイの背にのっかかっていた。ロイ様の体温を毛並みを直で感じられて、ミー子は新年からとってもはっぴー♪
「君は相変わらず元気だね」
「はい!ロイ様大好きvv」
熱烈ラブコールなメス猫に、いつもなら「ははは、それは嬉しいね」なんてロイも返事をするのだけれど、今日は勝手が違った。
だって、
「にょいはおれのなの!!」
舌ッ足らずな癖に、大胆な発言があったから。
「ロイ様、……この仔は?」
ロイにのっかかったまま、ミー子はロイの足元にくっ付いている仔猫を見た。
味覚/糖純/露つゆみたいに美味しそうな、とっても大きな金色の瞳がこれでもかっ!と睨んでいて、おまけに輝く金の毛並みが逆立っている。
もちろん、尻尾はぶはっと限界までに膨らんでいて、ミー子を<威嚇>をしているのだった。
そう<威嚇>なのだが。
「か、かっわいいんvvや~ん、どうしましょうvv」
どんなに頑張って威嚇しても、怖くもなければ迫力も無い。すべて<可愛い>or<愛らしい>に自動変換されてしまう。
究極の愛くるしさを持つ。
それが、金の仔猫エドワード。
今日も新年早々、可愛らしさは絶好調で絶品なのだ。いや、去年よりも更に磨きがかかっている。
大きくなるにつれ、普通は仔猫特有のふわふわとした愛らしさは薄まっていくものだけれど、何故かエドワードの愛らしさは日に日に増すばかり。
腕に抱けば、誰もが手放せなくなる。
そう、それが金の仔猫エドワード。
ロイがエドワードを愛でるのはもちろん、実弟のアルフォンスに至っては、もの凄いブラコンだ。飼い主のイズミも溺愛している。そして、お隣の大型犬ハボックも多種族でありながら夢中という有様。
三毛猫ミー子も例外ではなく、手足をばたつかせ「可愛い」を連呼している。
でもメロメロになりながらもロイの背中からは降りない。
だって、仔猫は可愛いけれど、やはり妙齢なお年頃の三毛猫ミー子はロイ様が一番だから。
そんなメス猫の恋愛感情は分からなくても、<ロイ様が一番好き&ロイ様の一番になりたいv>な感情を敏感に察したのか、エドワードのご機嫌はこれ以上ないぐらい急下降。
まだまだ恋愛には疎くても、独占欲ならしっかり芽生えている。
「おりろよ!にょいにしゃわんなっ!」
「あらん、やーよ」
ムキになって怒る仔猫が面白くて可愛らしくて、あっかんべーなんてしてしまう大人気ない三毛猫ミー子と、
「にょいのいちばんはおれなの!にょいはおれんのなのっ……おれのなの!」
エドワードは、もうほとんど半泣き状態だ。
「ミー子、子供をからかうのは頂けないね」
「ご、ごめんなさい…」
流石にロイもこれ以上は放っておくわけにはいかない。
何時もは優しいはずのテノールの声が、少しばかり戒めを含んでいて。三毛猫ミー子はおずおずとロイから降りた。
「あ、あのロイ様……」
「この仔はエドワードだ。よろしく頼むよ」
「は、はい!」
ロイ様に叱られてしゅんとしてしまっていたけれど、仔猫を紹介されてミー子の気分は復活。ロイもその辺は心得ている。
「ではまた」
「はい!また明日お会いするのを楽しみにしています♪」
ルンルン気分で去っていくミー子を、ロイは紳士らしく見送る。見えなくなって、ようやくロイとエドワードの二匹だけのお散歩の再開だ。
でも、エドワードは半泣きから本泣きになってしまっていて。
大きな金色の瞳からはぽろぽろと涙が零れ、「ふぇ…えっ…っ」としゃくりあげながらロイに着いてきていた。
「エドワード、そんなに泣かないでおくれ。あの子も悪気があったわけではないんだよ」
「に、にょいは……」
「ん?」
「にょいは……おれのにょい…なんだもん」
「もちろんだよ、エドワード」
「にょいのいちばんは……おれなんだもん」
「もちろんだとも」
ああ、なんて可愛いのだ私のエドワードは……。
慰めなくてはいけないのに、『にょいはおれの、にょいのいちばんはおれなの』と泣き止まないエドワードが愛おしすぎて、そのあまりの愛らしさにロイは眩暈を起こす寸前。
そんな眩暈寸前の至福の中、今度はシャムネコのメアリーに会った。
「まあ、ロイ様v明けましておめでとうございます」
「やあ、メアリー。おめでとう」
どう慰めようか、でもなんて可愛いのだと、眩暈まで起こしかけていたのに瞬時に笑みを浮かべ挨拶を交わす。それはもう、オス猫ロイとしての条件反射だ。
そして、ちょっと気位の高そうなお嬢様な彼女は、ロイに猛烈なアピールはしない。
しないけれど、足元に泣きながらくっ付いている仔猫は気になる。
「ロイ様…この仔は?」
「ああ、私のエドワードだよ。メアリー」
さ、ご挨拶をしなさい。ロイは泣きはらしているエドワードの目元を舐めてやる。
<私の>という言葉と今の行動に、メアリーはピンときた。ピンときたけれど、そのまま認めるのは面白くない。
大人のメス猫にロイを射止められたと云うのなら、まだ分かる。
だけど、まさか恋敵が。
『こ、こんなに小さな仔猫っ、しかも可愛いとはいえ男の子?!男の子にロイ様を持っていかれたなんて私の自尊心が許せませんわ!』
シャムネコはプライドが高かった。
高かったのだけれど、仔猫に負けたなんて許せないのだけれど。
だけど。
それ以上に、―――エドワードは可愛らしかったのだ。
「とっても愛らしい仔ですね」
「そうだろ。私の自慢だよ」
「ま、妬けますわ」
臆面もなく<私の自慢>だと言われ、しかも、その時のロイの表情が本当に嬉しそうで。
シャムネコのメアリー、負けを認めるしかない。
しかも、実は内心では涙が零れている金色の瞳を舐めてやりたくてウズウズしてしまって仕方がなかったのだ。
でも言えない。だって<ロイ様の仔猫>だから。
ぐっと我慢。
「では、失礼いたしますわ。ロイ様お幸せに」
「有り難う、メアリー」
ロイ様ったら、なんて幸せそうなお顔をなさるの。
あの微笑みが、ただ一匹の仔猫のものになる。悔しいけれど勝ち目がないのも事実。
今日はもう家に帰ってお昼寝(ふて寝ともいう)をしよう、と思うメアリーだった。
ミー子とは違い、無事にあっさりと引き下がってくれてホッとしたのも束の間。
「にょい……いまのおねえちゃんもすきなの…」
足元を見てみれば、大粒の涙が一段と金色の瞳を濡らしていた。
出会うメス猫がすべて「ロイ様v」とハートマーク付きでロイを呼んでいて。ロイはロイで自分のことなんてお構いなしに、にっこり微笑んで相手の名前を呼んでいる。
何時もは自分に向けられている笑みが、今日は違う猫に向けられていた。
それがエドワードには何だか寂しくて悲しくて、涙が勝手にぽろぽろと溢れてしまう。
どうしてなのか分からないけれど、とっても嫌だったのだ。
ロイが一番で、ロイにとっても自分が一番で。
でも、そう思う感情が何なのかは、まだ仔猫のエドワードには分からなくて。
分からないけれど。
ロイが今のエドワードにとって世界そのものなのだ。
その②おわり
良くも悪くも、仔猫エドは箱入りさんです。
まいこ 09/01/29←拍手UP日
黒猫ロイと金の仔猫・番外編 ~町へ行こう~その①
「にょいー!」
りんりんと軽快な鈴の音のと、ロイにとって愛おしいくて堪らない声が聞こえる。
「やあ、新年明けましておめでとう、エド」
「おめでとう!ことしはいっしょにはつさんぽだよな!」
相変わらず舌っ足らずで、そしてまだまだスモールなサイズな金色の仔猫にとって、正直なところ、ロイはまだお散歩は早いと思う。
いや、『この愛らしい生き物を誰の目にも触れさせたくない』というのが、本音かも。
足元にじゃれつく仔猫を舐めてやりながら、『そろそろお散歩に連れて行こうか?』『いやいや、まだ早い』等、ロイは一匹で悶々と悩んでいた。
でも、そろそろ限界なのも確か。
置いて行ったりしたら、また一匹で飛び出してしまうに違いない。この間の騒ぎは記憶に新しい。
元旦から迷子探しは遠慮したいし、なにより危ない。猫好きな人間に、飼い猫だと分かっていてもお持ち帰りされる危険は大だ。
それに、メス猫の母性本能をくすぐるだけでなく、オス猫やはたまた他種族である犬にも、エドワードの愛らしさは有効すぎて、やはり危険は大なのだ。
一年の計は元旦に有り。
なら、一緒にばっちりエスコートをしてお散歩するのが良いかもしれない
町中に、この金色の仔猫は黒猫ロイの恋人だと、知らしめる良い機会になるだろう。
そう、恋人。
『恋人vv』何て魅惑的な響き。黒猫ロイ、自分の思考にうっかり酔いしれてしまった。
「エド、君は私の………私の…うおっほん」
「にゃに??」
「え~と、ほら、なんだ…」
心の中では復唱できても、いざ、言葉にするとなると何故だがなかなかに言い出せない。思わず視線が宙を彷徨う。
恋の百戦錬磨、手練手管だったはずのオス猫が、あどけない仔猫に初恋をしてしまった挙句、いつものようにスマートな対応できないでいた。
セクシーな色男が、今は初恋に緊張している青い若者になってしまっている。
こんな無様な姿、メス猫はもちろん、絶対に兄弟達に見られてはいけない。
特にエンヴィーにはダメだ。鬼の首を取ったが如く、笑いネタにされるに違いない。
でも―――。大きなハニーゴールドの瞳で見上げられてしまったら、もう何も言えない。
かっ、可愛い過ぎるっ!!
まっすぐに自分だけを見つめる瞳が期待でキラキラと輝いていて。
もう可愛らしくて愛らしくて、ロイはどうしたら良いのかさえ分からない。受け答えがシドロモドロになるのは許してほしい。
「にょい!いまからおさんぽにいくんでしょ?!えどもいっしょなんだよね!」
「え、あ…まあ、そう、だね…」
小さな三角の耳がピンッと立つ。
「やった!おさんぽvvにょいといっしょ♪」
ぴょんぴょんと、ロイの足元を弾みながら纏わりつくエドワードは、本当にどうしようかと思うほどに可愛らしい。もう、その愛らしさは犯罪級。
擦り寄ってくるエドワードの体温を感じて、しかも尻尾がゆらゆらとロイの体をくすぐって、もうロイの魂は限界を超えて異次元に旅立つしかない。
もはや「ダメだよ、エドワード」なんて優しく諭すことなんて無理。一緒にお散歩へと出かけるしかない。
今日は記念すべき、エドワードと私の初デート!
早くもロイの思考は飛んでいた。
だけど、世間知らずな箱入り仔猫、エドワードに、そして、小さな仔猫にメロメロでどこかに魂を飛ばしてしまっているロイ。
庭でのそんな二匹の様子を、塀越しに一部始終見ていたお隣の大型犬ハボックは、不安で一杯だ。
「あ~あ、あんなへろへろなロイさんで、散歩に出かけて大丈夫っすかね…」
心配で心配でならなかったのだった。
その①おわり
「にょいー!」
りんりんと軽快な鈴の音のと、ロイにとって愛おしいくて堪らない声が聞こえる。
「やあ、新年明けましておめでとう、エド」
「おめでとう!ことしはいっしょにはつさんぽだよな!」
相変わらず舌っ足らずで、そしてまだまだスモールなサイズな金色の仔猫にとって、正直なところ、ロイはまだお散歩は早いと思う。
いや、『この愛らしい生き物を誰の目にも触れさせたくない』というのが、本音かも。
足元にじゃれつく仔猫を舐めてやりながら、『そろそろお散歩に連れて行こうか?』『いやいや、まだ早い』等、ロイは一匹で悶々と悩んでいた。
でも、そろそろ限界なのも確か。
置いて行ったりしたら、また一匹で飛び出してしまうに違いない。この間の騒ぎは記憶に新しい。
元旦から迷子探しは遠慮したいし、なにより危ない。猫好きな人間に、飼い猫だと分かっていてもお持ち帰りされる危険は大だ。
それに、メス猫の母性本能をくすぐるだけでなく、オス猫やはたまた他種族である犬にも、エドワードの愛らしさは有効すぎて、やはり危険は大なのだ。
一年の計は元旦に有り。
なら、一緒にばっちりエスコートをしてお散歩するのが良いかもしれない
町中に、この金色の仔猫は黒猫ロイの恋人だと、知らしめる良い機会になるだろう。
そう、恋人。
『恋人vv』何て魅惑的な響き。黒猫ロイ、自分の思考にうっかり酔いしれてしまった。
「エド、君は私の………私の…うおっほん」
「にゃに??」
「え~と、ほら、なんだ…」
心の中では復唱できても、いざ、言葉にするとなると何故だがなかなかに言い出せない。思わず視線が宙を彷徨う。
恋の百戦錬磨、手練手管だったはずのオス猫が、あどけない仔猫に初恋をしてしまった挙句、いつものようにスマートな対応できないでいた。
セクシーな色男が、今は初恋に緊張している青い若者になってしまっている。
こんな無様な姿、メス猫はもちろん、絶対に兄弟達に見られてはいけない。
特にエンヴィーにはダメだ。鬼の首を取ったが如く、笑いネタにされるに違いない。
でも―――。大きなハニーゴールドの瞳で見上げられてしまったら、もう何も言えない。
かっ、可愛い過ぎるっ!!
まっすぐに自分だけを見つめる瞳が期待でキラキラと輝いていて。
もう可愛らしくて愛らしくて、ロイはどうしたら良いのかさえ分からない。受け答えがシドロモドロになるのは許してほしい。
「にょい!いまからおさんぽにいくんでしょ?!えどもいっしょなんだよね!」
「え、あ…まあ、そう、だね…」
小さな三角の耳がピンッと立つ。
「やった!おさんぽvvにょいといっしょ♪」
ぴょんぴょんと、ロイの足元を弾みながら纏わりつくエドワードは、本当にどうしようかと思うほどに可愛らしい。もう、その愛らしさは犯罪級。
擦り寄ってくるエドワードの体温を感じて、しかも尻尾がゆらゆらとロイの体をくすぐって、もうロイの魂は限界を超えて異次元に旅立つしかない。
もはや「ダメだよ、エドワード」なんて優しく諭すことなんて無理。一緒にお散歩へと出かけるしかない。
今日は記念すべき、エドワードと私の初デート!
早くもロイの思考は飛んでいた。
だけど、世間知らずな箱入り仔猫、エドワードに、そして、小さな仔猫にメロメロでどこかに魂を飛ばしてしまっているロイ。
庭でのそんな二匹の様子を、塀越しに一部始終見ていたお隣の大型犬ハボックは、不安で一杯だ。
「あ~あ、あんなへろへろなロイさんで、散歩に出かけて大丈夫っすかね…」
心配で心配でならなかったのだった。
その①おわり