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まいこ様に捧ぐ「カステラ部屋777打錬成物」でございます。


「鉛筆ロイと消しゴムエドワードの冒険」     さく:ノリヲ



この国では、鉛筆と消しゴムは二人セットで行動します。

その鉛筆と消しゴムの中でもロイとエドワードは特に仲良しの一対です。今日も二人で手を繋いであっちこっちへと冒険に出かけます。

仲が良い理由はたった一つです。

鉛筆のロイは絶対に書き間違えなどしないからなのです。

「いいか、ロイ!!真っ白で美しいオレ(=消しゴム)が汚れるだろう!汚したらぶん殴り決定っ!」

鉛筆の書き間違えを消すことがケシゴムの使命です。
けれど「ちっさい豆粒みたいな消しゴムエドワード」にとって汚れることよりも、その身が一ミリでも低くなることのほうが嫌なのでした。

削られて小さくなるなんて……。

それはエドワードにとってこれ以上もないほどの恐怖なのでした。

「はいはい。わかっているよ、エドワード」

鉛筆のロイはにっこりと笑います。
ロイはエドワードが大好きなので、彼の顔を曇らせてはならない…と一文字一文字ていねいに、そしてゆっくりと書き間違いなど決して起こさないように書くのです。

二人はにこにこと微笑みながら毎日のように楽しい冒険に出かけます。冒険の時は必ず手を繋いで行くのです。
えっちらおっちらペンケースのお家から這い出て行って、まずは机の上の冒険です。

広大な机の上はまるで海のようです。さて、今日はどんな出会いが二人にはあるのでしょうか……。




ペンケースのお家からはい出して、広大な机の上の荒野を彷徨います。

トコトコずんずん歩いて行くとノートさんに出会いました。

「やあ、こんにちは。ノートさん」
「よっ!ノートさん!」

元気に二人は挨拶します。挨拶はこの国でも大事なことですからしっかりとしなくてはなりません。

「こんにちは。鉛筆さんと…豆消しゴム君」
「豆って言うなーーーーーーーーっ!!」

むうっと消しゴムエドワードは頬を膨らましました。

「まあ、まあエドワード…。そんなふうにふくれても可愛いだけだよ?」
「すまん、すまん。お詫びに……そうだ!何か描いていくかい?」

ノートさんはパラパラとページをめくります。小ささな「あいうえお」の文字や「1+1=2」などがたくさんたくさん書かれています。

「エドワード?何か書かせてもらおうか?」
「……………………へのへのもへじ……」

ぼそっとエドワードは呟きます。

「よしきた。はいどうぞ」

ノートさんは机の上にコロンと寝転がりました。ロイは一言「失礼」と告げてエドワードのリクエスト通りにへのへのもへじを書いてみました。

「どうだい、エドワード。かっこいい『へのへのもへじ』だろう?」
ロイはえへんと胸を張ります。

「……もっとかっこいいの書けよ」
ちょっとだけエドワードの機嫌が直ってきたようです。

ロイはもう一つ、と今度はスリムなへのへのもへじを書いてみました。

「どうだい?」
「ん……。もっと書け」

だいぶ機嫌が直ったようです。

「いいだろう。では……」

そうしてロイはノート1ページ分、へのへのもへじを書きまくりました。「J」の文字だけを大きくした「HENOHENOMOHEJI」などとローマ字書きしたりしてみました。
「へのへのもへじ」に手をつけてみたりもしてみました。

そしてノート一面に書いているうちに、ロイの鉛筆の先は丸く削れていってしまいます。

「ああ、そろそろ鉛筆削りのところに行かねばな……」
「あー、じゃあ寄ってから家に帰ろうぜ♪」

エドワードはすでに上機嫌です。ですからちゃんとノートさんに挨拶してから帰ります。

「ノートさん。今日は楽しかったです。ありがとな♪」

機嫌を直したエドワードにノートさんも安心したようです。

「こちらこそ楽しかったよ。また会えたらぜひ今度はパラパラ漫画でも書いてくれな」

こうして今日の鉛筆ロイと消しゴムエドワードの冒険は終わりました。
二人は来た時と同じように手を繋いで、仲よくペンケースのお家へ帰るのです。



冒険の度に鉛筆ロイは小さくなります。
書いて、書いて、書いて…鉛筆の先が丸まりすぎれば、鉛筆削りのところに行って。
行くたびにロイは小さくなり、それでも鉛筆ですからまた書いて。

いつの間にやらずいぶんとその身も小さくなりました。

そう、いつのまにかちっこい豆粒みたいな消しゴムエドワードよりも小さくなってしまったのです。

「オレ、ロイよりおっきくなったー♪」

エドワードは喜びました。
今までは見上げていただけのロイの目線がだんだん低くなり、そうして遂に自分より低くなったとあれば。もう、これで「豆」とからかわれることもなくなるんだ…、と。
けれど、鉛筆ロイはそんなエドワードを悲しそうな目で見ました。

「エドワード…話があるんだ……」
「ん?なーんだよ♪」

舞い上がっているエドワードはロイの悲しげな顔に気が付きません。それよりも今度からは豆鉛筆ロイ、とでも呼んでやろうかとうっきうきです。

「私は……もうこんなに小さくなったから…鉛筆としてはもう…使えない…でも君はまだ大丈夫だ。まだまだ使えるだろう?……だから…新しいパートナーを探したまえよ……」

ふ……っと一つ微笑んでロイはエドワードの返事を待ちました。
エドワードはロイから言われて初めて理解したのです。

オレは…ロイが書き間違えなんて一回もしなかったから、豆と呼ばれようがなんだろうがこの身は一ミリだって減ってない。だけど…。

エドワードはロイを見ます。書いて、減って、削られ、もうこれ以上は削ることなど出来ないほど小さくなったその身長。鉛筆削り機にももう入れないほどの小ささです。

「ロイ……」

舞い上がっていた気分は一掃されました。
ロイはもう…鉛筆としてこれ以上使えなくなったんだ…。それがわかりました。

もう、冒険は終りなんだ。ロイと一緒にはもう冒険はできないんだ…と。

「元気で、エドワード……」

最期の握手として差し出された手。エドワードはそれを取らずにくるりとロイに背を向けました。
たったった、と2・3歩だけロイから離れるといきなりゴシゴシゴシゴシ……と消しゴムをかけ始めたのです。

「エドワードっ!!君っ、何を……っ!!」

ロイの叫びにも構わず、エドワードはゴシゴシゴシゴシと消しゴムをかけ続け……。

そうして豆よりもちっさくなってしまったのです。

「エド……」

ここまで小さくなってしまえば、消しゴムとしての人生ももう終わりです。けれどエドワードはロイに向かってにっかりと笑いました。

「これでロイもオレも一緒!!同じだけちっこいから!!」
「エドワード……」
「冒険はもうできなくても、一緒にいることはできるだろっ!!」

エドワードはロイに向かって手を差し出しました。いつものように手を繋いでくれと言わんばかりに。

ロイはその手を取りました。そうして……。



ペンケースのお家の中で。

ちび鉛筆のロイとちび消しゴムのエドワードは手を繋いでぐっすりと眠ります。もう冒険に出ることはありません。

書くことも消すこともないのです。

だから二人で。

ペンケースの片隅で。


これ以上小さくなることもなく、ずっと、ずーっと手を繋いでいるままなのです。


おしまい。
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ILLUSTRATION BY nyao