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「鉛筆ロイと消しゴムエドワードの冒険・引き出しの国」 さく:ノリヲ
ふと見れば机の引き出しが開いています。
いつもはぴっちりと閉められているはずの引きだしが……。
となれば今日の冒険は決まりです。
二人は手を繋いで仲よく引き出しの国へとジャンプしました。
トコトコ行くと何やら綺麗な色が目に入ってきます。
まず最初に出会ったのは赤色、青色、黄色に緑色……十二色の色鉛筆のお姉さんたちでした。
「あら?見かけない子達ねえ……?」
「鉛筆さんに消しゴム君ね、こんにちは」
「まあ、可愛らしい消しゴムさんに…鉛筆さんはかっこいいわねえ…」
綺麗な色鉛筆のお姉さんたちに囲まれて、エドワードは真っ赤になって返事をしました。
「ここここここんにちは……」
エドワードは白い消しゴムの肌を真っ赤に変えて、ロイの腕にぎゅっとしがみつきました。
そんなエドワードに向かってロイは「私のパートナーは可愛らしいことだな」と微笑みます。
途端にきゃあああ、と黄色い声があがりました。
背が高く、きちりと尖った芯を持つ鉛筆のロイが微笑んだのですから
お姉さんたちが歓声を上げるのも無理はないのかもしれません。
「鉛筆さん?引き出しの国の方ではないわね。もしかして…上の世界の方かしら?」
ほう、というため息をつきながら赤い色鉛筆のお姉さんが尋ねてきました。
「失礼しましたお嬢様方。私は鉛筆のロイ。こっちは私のパートナーのエドワードです」
にっこりとほほ笑みながら挨拶をするスマートさに、色鉛筆のお姉さん達はさらにぼおっと頬を染めま
した。
「引き出しの国へようこそ、鉛筆のロイさん、消しゴムのエドワード君」
しっかり者の青のお姉さんが十二色を代表して告げてきました。
「今日はどうなさったの?机の上の国の方々はこんなところまで来ないでしょう?」
そう不思議そうな顔をしたのはオレンジのお姉さんでした。
「ええ、珍しいことに引き出しが開いておりましたもので……
これを機に交流などさせていただければ、と」
「あら、いやだ。開けっぱなしなんて恥ずかしいわ……」
頬を染めたのはピンクの色鉛筆さんでした。
「ですが、開いていたからこそ私たちもこうして出会えたというわけですね。
…何と言う幸運なのでしょうか…」
あくまで社交辞令の一環として、ロイはそう告げたつもりでした。
が、色鉛筆のお嬢さんたちはもう頬に手を当てたり、嬉しそうにほほ笑んだり
きゃあきゃあと大変な状態です。
しかも十二色ですからそれはもう大変な騒ぎでした。
エドワードはロイにしがみつきながら次第にむっとした気持ちになりました。
なんだよ、ロイはオレのパートナーじゃねえか!そりゃたしかに色鉛筆のお姉さんは綺麗だけど、
だけど、だけどさ……。
「ああ、突然お邪魔して長居するのもよろしくありませんね。
エドワード、早めにお暇させてもらうことにしよう」
騒ぎを起こすのはロイの本意ではないため、適当な理由をつけて机の上へと帰ろうと
ロイはエドワードに声をかけたのです。
ですが、エドワードむっとしたまま答えません。
しがみついていた腕もぱっと離してしまいます。
どうやらかなり機嫌が悪くなってしまったようです。
「あら、まだいいじゃありませんか。せっかくこうやって出会えたのですから
もっとゆっくりされても…ね?」
紫色のお姉さんがロイの片方の腕をとりました。
「ですが、いつ、引き出しが閉じてしまうかもわかりません。
いつもは閉じているというのなら、あまりゆっくりもできませんから…」
残念ね、と告げながら、手を差し出してきたのは茶色のお嬢さんでした。
「では、また機会がありましたらお越しくださいませね」
そうして握手とばかりに差し出されたお嬢さんの手を、ロイはしっかりと握りしめて挨拶をしました。
「きっと…お伺いいたしますよ。ではエドワード、帰ろうか」
エドワードはむっつりと黙ったまま、さっさと一人で駆け出して行ってしまいました。
「エド?」
たかたかたかたかと、走ります。
それでも走りながら「お邪魔しましたっ!!!」とそれだけは大きな声を出しました。
「失礼、お嬢様方。なにぶん彼はまだ子供でして……」
非礼を詫びてからロイはエドワードを追いかけました。
引き出しから這い出て行って、そうして元の机の上に戻ります。
エドワードはずんずんずんずん先へ走って行ってしまうのです。
が、
「待ちたまえ、エドワードっ!!何にへそを曲げているのかね君はっ!!」
豆消しゴムのエドワードに、ロイはあっさり追いついてしまいます。
見ればエドワードの瞳には涙がうっすらと浮かんでいます。
「え、エドワード……?」
どうしたんだい?尋ねられてもエドワードはうまく声を出すことができません。
「だって……っ」
エドワードの瞳からはぽろぽろと涙がこぼれます。
悲しくて、悔しくて。涙が止まらないのです。
「エド?私が何かしてしまったのかな?そうなら謝らせてほしいのだが……」
エドワードはぴっくぴっくとしゃくり上げます。
だって、という言葉を何度か繰り返します。
それからごしごしと袖で涙をぬぐいました。
「だってロイのパートナーはオレなのに!!手、繋ぐのはオレとだけなのに…っ!!」
そうです。
さっき色鉛筆のお姉さんに、ロイのもう片方の腕はしっかりと絡め取られて
別のお嬢さんにも握手までしまっていたのです。
……オレの、ロイの手。手繋ぐのはパートナーの特権なのにっ!!
お姉さんたちにきゃあきゃあと声をかけられたロイ。
お姉さんたちに笑顔を向けたロイ。
……ヤダ。ぜってー嫌だ。
でもロイは…あっちの方がいいのかもしれない。
だってあんなふうににこにこ笑ってたし。
ああいう綺麗な女の人の方が好きなのかもしれない。
嫌な考えはますます広がります。
思えば思うほど涙は溢れて止まりません。
そんなエドワードをロイは優しく抱きしめました。
「そうだね。すまなかった……私のこの手は、君と、エドワードとだけ繋ぐべきものなのにな…」
ひっくひっくと声を上げて泣くエドワードを
ロイはぎゅっと抱きしめ続けます。
「すまないね。エドワード。私のパートナーは君だけだから…もう他の人と手は繋がないから…」
だから泣きなんでくれないか?とロイはエドワードの頭をなでます。
そのロイの掌が温かくてエドワードはますます泣きたくなってしまいました。
エドワードは瞳に力を込めて、お腹の底から大きな声を出しました。
「ロイのパートナー…オレだけだからな!!」
「ああ、もちろん。私のパートナーは君だけだよエドワード」
ロイはエドワードをひょいと抱きあげました。
手を繋ぐよりももっといいかなと、ちょっとだけ思ったのです。
「私はエドが大好きだからね。ずっと二人で冒険を続けよう」
うん。と、エドワードは頷きます。
オレはずっとロイの手を離さない。
そうしてエドワードは微笑んでみせたのです。
今日の冒険はこれでおしまい。また明日。
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07/12/02拍手UP作品
っていうか内容がどうしてもリアルに感じてしまうのは、やはりご職業柄なんでしょうね。
エドワードの恋、実るのはやはり四月でしょうか!?
桜咲く頃に、恋も咲くといいですね~。