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ハボックが見えるように角度を変えてくれた籠を取り囲んで、皆暫し・・・・それを見入った。
まるまっている為一見すると毛皮の襟巻きのようにも見える。
だが確かにカワウソのように茶色の栗毛をした小さな生き物だ。
「こいつっ、そう!こんな奴だった。俺が助けたの」エドワードがそう言ったことにより皆、確信する。
やはりこれがカワウソという動物であると。
「生きてんの?こいつ」とエドワードが誰にでもなく問う。
だが返事より早く、カワウソの「ぐががががかっ」というイビキが聞こえてきて。
一同は絶句して、呆れた視線を向けた。
「寝てるみたいっすね・・・・・・」と苦笑いしながら籠を抱えたハボックが言った。
「起こしましょうか?」
そう言ってガチャリと銃を構えたホークアイの所業を、ロイは人事と感じ取られなかったのか慌てて制止する。
「中尉っ、その・・・・動物だし?もっと静かな起こし方で十分じゃないかね」
「お言葉ですが、大佐。ブラハは寝ぼすけですから、いつもこうして起こしますが?」
と、にっこり笑う彼女に一同は絶句し、同時にブラハに深く同情した。
きっと彼女のことだ、寝ぼすけでなくてもこうして起すに違いない。
しかしカワウソロイ´はこの籠の中身は「大切な君への贈り物」と言っていなかっただろうか?
仲間?の一匹が大切な贈り物???
誰もが眉をしかめて、そして暗黙の了解のように、皆カワウソロイ´のほうに視線を向けた。
この状況を説明出来るのは、彼以外には有り得ないだろう。
一人、否・・・・一匹だけ、その覗き込む輪に入っていなかったカワウソロイ´がゆっくりと近づいて来た。
その時。
「ふわあぁぁぁぁぁっ、うぅぅん、煩いのぅ」
と、いうノー天気な声がした。
皆誰もがその声と口調に聞き覚えがなく、脳裏を過ぎる一つの答え。
まさか。
信じられない面持ちで皆の視線が籠の中に注がれる。
そこには今しがたまで寝ていたカワウソが、大きくのびをしたかと思うと、すっくと四本の足で立ち上がった
のである。
「ハボック少尉、カワウソというのは喋るの?」ホークアイは、言いながら構えた銃の安全装置を外した。
「うわあぁぁぁぁぁぁっ、ちょっ、待ってくださいっ。落ち着いてくださいって」
籠を手に抱えたまま、ハボックは慌てて後ずさる。
「あの・・・・・中尉?もしかして、パニくってね?」
恐る、恐る、エドワードが声をかければ。
「あら、私は冷静よ?」
とあっさりと返ってくる返事。
だが、声は確かに落ち着いていたが、構えられた銃が冗談になってない。
「冷静なら銃は下ろし・・」
言いかけたロイに、さり気なく無言で銃口が向けられた。
黙れと言わんばかりの仕草にロイはその場で固まった。
「もう一度聞いていいかしら?カワウソは、喋るのかしら?」
はっきり言って八つ当たりのような言動だが、もう誰にも止められない。
「や!!普通は・・・・・っていうかっ。なんか段々俺、訳わかんなくなってきました!」
「取り合えず、撃ってみましょうか」と、物騒な発言に、ハボックは更に青くなる。
「まっ、ままままままま待ってくださいって!」
そのやり取りの最中。
「長老~っっ」
カワウソロイ´が籠に近づいたかと思うと、そう叫んだ。
「おお、そんな姿をしておるし一瞬わからなかったが、やはりお前だったか」
長老と呼ばれたカワウソは、そう言ってカワウソロイ´に話かけた。
「長老・・・・何故・・」
「うむ?」
「何故っ、中に入ってた魚、食べたんですかっ」
彼への贈り物だったのにっ、と付け加えて真剣な面持ちでカワウソロイ´はそう言った。
「ああ、うまかった・・・・ってお前、言うことが間違ってないか」
確かにそのカワウソは人語を話している。
その様子を見ていたエドワードは、思わず錬金術師的観点からその事態を観察する。
「キメラかなんかか?こいつ」
小さなカワウソをじっと見つめる。
しかし、何度見ても先日エドワードが助けたそれと大して見分けが付かない。
「いや、人間と人体練成したなのら、いくらカワウソベースでもサイズが小さすぎやしないかね」
ロイにそう言われれば、確かにその通りだ。
人語を話すのなら必ず人間との人体練成は必須だろう。
いくらカワウソベースでももっとサイズが大きくなる筈だ。
「わしはこう見えても何百年も生きておる。ぬしら人間の言語を真似るなど容易いこと」
ロイとエドのやり取りを聞いていたのか、カワウソは誇らしげにそう語った。
「だ、そうですよ?」ハボックがそう言ってホークアイを振り返れば。
彼女は大きな吐息を一つついて、構えていた銃をホルダーへと戻した。
その説明でこの複雑怪奇な状況に納得いった訳ではないのだが、取り合えず気持ちは落ち着いたようだ。
「で、どうしてあなたがそこに」
カワウソロイ´は、エドワードーの贈り物を食べられてしまったことにまだ憤りを感じているのか。
ちらりと空になった籠に視線を投げながら、長老へとそう問いかけた。
「だいたいお前のせいで目が冷めてじゃのぉ、腹がへってだな」
「私はあなたを起した記憶はありませんが?」
「何を言っとるか、ランプを持ち出しただろう?お陰で大騒ぎじゃ」
「ランプ・・・」
カワウソロイ´の手にあるのは、先程憲兵から取り返したランプ。
彼への贈り物にしようと、確かに長老のところから拝借したランプだった。
「お前・・・・・願ったろう?その姿にしてくれと」
そう言われてぎくりとなった。
「あれは・・・・・天から・・・声が」
『一つだけ、願いを叶えてあげよう』
そう、深々と雪が降り注ぐ空から確かに声がきこえた。
「だからっ!私は、一つだけの願いを口にした」
『私を人間に!あのロイ・マスタングとかいう男とそっくりの人間にしてくれっ!!』 と。
「それがランプの精の声じゃ・・・・・。本来なら願いを一つ叶えたらそのまま眠りにつく筈なんじゃが」
言いながら長老はカワウソロイ´の手にあるランプを見た。
ランプはよくよく見なければわからない程度に、僅かに発光して赤い光を放っていた。
「火をともしたか、もしくは激しい火の影響を受けたか・・・・・どちらにしろ厄介なことに暴走しておる」
火・・・・恐らくあの時、別荘を跡形もなく燃やした焔に影響を受けてしまったに違いない。
「そのランプは火に作用して力が膨張して、色々と厄介な事態を引き起こす・・・・・何十
年も前にも同じようなことがあってのぉ。あの時は一族巻き込んで大騒動だったわい。
故に持ち出し禁止とされておったものをお前が持ち出すから」
「厄介な・・・こと?」カワウソロイが聞き返せば。
「そうじゃ・・・・・例えば」
ゆったりとした口調でそう言って、長老カワウソはの~んびりと山のほうを見上げた。
「雪崩・・・・・とかな」
遠くで、ゴオォォォォォォッという地鳴りがし始めた。
誰もが聞きなれないその音にはっと顔をあげた。
山の上のほうから、確かにその音は迫ってくる。
思わず誰も皆その事態に息を飲んだ。
「言わんこっちゃない」
そう告げた長老の言葉は内容と口調が一致していない。
口調はのんびりだが、内容はとんでもないものだ。
「どうすればっ、どうすれば止められるんだよ」
長老の入った籠をゆさゆさと揺らしながら、ハボックは聞いた。
「おおっ、これあまり揺らすな」
「ハボック中尉、落ち着いて・・・・」
その事態に焦るハボックにホークアイはやんわりと制止の声をかけて遮った。
まではよかったが、次の瞬間。
しまってあった銃をさっそうと取り出して、長老の小さな頭にあてた。
「ちゅ、中尉こそっ、落ち着いてくださいっ!」
ハボックは蒼白になって止めるが、彼女は更にガチャリと安全装置を外した。
「それで?どうすれば止められるのかしら」
声音だけは冷静なまま、ホークアイは長老にそう言った。
「こっ、こっ、ここここここここここっ、壊せばいいんじゃ!、さすれば元通りじゃ!!!」
命の危険を感じて長老は、ホールドアップ状態の上擦った声でそう答えた。
「元通り・・・・?」
その言葉にカワウソロイ´が反応した。
「そうじゃ・・・・・それを壊せば元通りじゃ。何もかも、なかったことになる。お前が願う前に状態に戻る」
願う前の状態?
それでは全てがなかったことになる。
この姿になって彼と出会ったことも、そして彼への求愛行動も、恩返しも・・・・・全て?
いや。
恩返し・・・・そうだ、これこそが彼への恩返しだ。
この事態から彼を救うことこそが、自分が今出来る唯一の恩返し。
「・・・・・・わかりました」
カワウソはそう言うと黙って皆に背を向けて、地鳴りのする山を見据えた。
「お・・・・おい?」
エドワードは思わず声をかけた。
「私は人の真似は出来ても、人にはなりきれない。だから君が何故あんなに心の中で大事にしていた思いを否 定したのかは、すまないがよく理解出来ない。でもこれだけは胸を張って言える。自分の気持ちには正直であるべきだ」
「カワウソ・・・・・」
地鳴りが近くなり、雪崩が押し寄せる様が目視出来るところまで近づいてきた。
カワウソロイ´は黙ってそれを見据えている。
「私は、助けてくれた君に恩返しがしたいと思った。だから君が喜ぶことをしたかった。私の世界ではね全てはシンプルなんだよ。食事も、求愛も、全ての行動が自分の素直な欲求から始まる。私は偽者だったかもしれないけど、人間もそういうところは見習うべきだな」
「待てよ!俺、あんたの事偽者だなんて思ってない。あんたがくれた思いは本物だろ?思いには答えられないけど・・・・・・。でもそのあんたの気持ち、俺、嬉しかった」
「そうか・・・・、よかった」
カワウソは振り返ることなく、手にしていたランプを近くの岩の表面に叩き付けた!
ガシャーン!!
派手な音がしてランプが割れた。
その反動で、カワウソロイ´の背からはらりと、ハボックの黒いコートが滑り落ちた。
だが現れたのは何も着ていないカワウソロイ´ではなく。
ただの、一匹の、小さなカワウソ。
エドワードは目を見開いた。
ああ、ホントだ。
お前、あの時助けた奴だ。
お前、本当にカワウソだったんだな。
壊れたランプから光が広がる。
錬成光とはまた違った激しい閃光が辺り一面の銀世界を覆った。
その光に誰もが皆、目を覆った。
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って・・・終ってないっ!?
や、あまりに長くなったので、エピローグを・・・・(汗)
ノリヲさんにそんなに長くなりませんよ、と言ったのはどこのどいつだ~いっっ!?(←私だよっっ)
はい、エピローグもあと少し調整したら、すぐにアップに参ります。
すみませっ。
つぐみ拝
すごい! 今、眼を丸にして読み進めてました。
だって、ここでまとめられている伏線って、全て違う作家さんの出したものですよね!?
「一つだけ願いを叶える。」は、まいこさん。
「作用の原因の火。」は、ノリヲさん。
「カワウソ人化民間伝承。」は、樹さん。
「ランプとつづら。」は、さと。(笑)
それらバラバラの伏線を、最終話前編で軽く思い出すように引っ張り出し、後編で一本につなげるとは!
今までも、それぞれの作家さんの練成される驚きと急展開なお話が、無理なく不自然さもなく、見事にキレイにつながってゆくことに、ただただ驚いていました。
特に今回の編で、1話~最終話前編にちらばったネタがバランスよく拾い上げられて、ここに収束しているのが、もう驚嘆以外の何者でもありません!
そして、少し切なく、温かなラスト…。
カワウソの台詞には、自分の想いを否定するエドへのメッセージが込められているのですね。
そして、前話で私が抱いた「ロイとしては『’』だけど、想いはホンモノ。」という感想と、エドの台詞が似ていてちょっと嬉しかったり~♪
しゃべるカワウソを前に、素で錬金術論戦を交わすエドとロイが個人的にツボですvvv