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いつだったか暇つぶしに読んだ本に、同性同士の性行為は禁忌なのだと書かれてあった。何でも、同性同士で交わったところで子孫を残すことは出来ない―つまり何も生み出せないから、らしい。
(んじゃオレってば、ま~た禁忌を犯しちゃったわけね)
カーテンの隙間から漏れてくる月明かりが妙に眩しくて目が覚めてしまい、それからすっかり眠気が去ってしまったオレは、傍らで眠る男の端正な寝顔をぼんやりと見つめながらとりとめの無い瞑想に耽っている。
(でもさ、本当に、何も生み出してないのかな…オレと、アンタの間に、何も無いのかな…)
男と女は愛し合い、交わって子を成す。男と女の愛の対価が子どもという考えになるか。けれども、生物学的にはそこに愛が無くとも、子は成せる。つまり、対価が無くともいいということだ。となると、無から有は生み出せないはずの原則など、初めから有って無いようなものではないか。
(決して、世間一般の甘ったるい恋愛関係ってわけじゃねえけど、でも…揺るぎ無い信頼と、言葉に出来ない感謝と、そんでやっぱり、こうして側にいられる安心感ってのも…生まれたうちには入んねえのかな…)
愛の無い男女と、愛かどうかまだ定かではないけれども、たくさんの感情を持って側にいる同性同士、いったいどちらが罪人なのだろう?
(ってかそもそも、愛って一体何なんだよ?男女の場合と男同士でそんなに違うっての?…何かすっげー理不尽)
人が人を想うその重さに、尊さに、温かさに、一体どれだけの差があるというのだろう。その気持ちを伝え合い、交換することにこそ、愛という形のないものの答えが隠れているのではないだろうか。
(あーそうだよ、絶対そう!…っつーか、何だってオレ、こんなに必死にくだんねーこと考えてんだろ。あんな本、所詮ヒトの生み出した一つの理論に過ぎないってのに)
科学者でもある自分が、何をこんな哲学じみたことを考えているのだろう。おかしくて笑えてきそうだ。
(でも…考えずにいらんねーんだよな…)
オレは、この男から本当にたくさんのものを貰っていると思う。人体錬成という禁忌を犯したちっぽけなガキを、それでも嫌がらずに面倒を見てくれている。嫌味な口調と胡散臭い笑みに隠された気遣いと信頼に、自分自身ちゃんと気付いている。恥ずかしくて礼など言えたためしが無いが、本当はいつだって感謝している。歩むべき道に迷った時はさり気なくその道を教えてくれるし、時には悪役になってでも目的を見失わないよう叱ってくれる。―なのに、果たして自分は何を返せているだろう?
(うん、何も返せてねーや…)
錬金術の原則を超えた、何より大切な人と人との原則すら守れていない自分は、本当に罪深い存在だ。
(ごめんな、大佐…)
そっと漆黒の髪に触れ、撫でてみる。少し硬めの、けれども手入れの行き届いた艶やかな髪はオレのお気に入りだ。やわやわの猫っ毛で、金髪のオレとは触り心地も色も全く違うし、いつも「君の髪は日の光に煌いてとても綺麗だね」と言ってくれるけれど、手入れの行き届いた黒い髪だからこそ、風になびく度にきらきら光を反射して、本当に綺麗だな、なんて思わされるのだ。
「眉間にしわ寄せて、何を考えているのだね…?」
「あ、悪ぃ、起こしちまった?」
ふと気がつくと、髪と同じ漆黒の瞳がこちらに向けられていた。冷たい月の光を受けるその瞳は、それでも包み込むように温かで優しい。
「いや、君が目覚める前から、本当は起きていたのだよ。…それで、一体何を考えていたのだね。君のことだから、また突拍子も無いことでも考えていたのだろうが」
「え…」
一回り以上年上の恋人には、オレの悩みなんてお見通しらしい。少し前までは、それがどうにも癪に障って悪態ばかりついていたのだけれども、今は彼が持てる感情全てをフルに使ってオレを理解しようとしてくれているからだと分かるから、その洞察力にただ驚くだけだ。
「そんなに驚かなくとも…こうした関係になったのは最近だが、後見人としての付き合いはそろそろ四年になるだろう?君の思考回路の構造も、ある程度は理解しているさ。大方、私に何も返せていないだとか、私との関係について考えていたのだろう?」
(うわ…本当にお見通し…)
改めて驚くオレに苦笑しながら、大佐はさわさわと頭を撫でてくれる。大きな温かい手が心地よくて、猫よろしく擦り寄って甘えたくなるほどだ。
「よく聞きたまえよ、エドワード。私は君を好きで、君は生きがいであるアルフォンスの次に私が好き。今はそれで充分だ。私の望みは、君の望みが叶ったその後の時間を共に過ごすことだからな。その時に目一杯返してくれればいい。だから私との関係に、不安など感じることは無いのだよ」
そもそも君との関係くらいで潰れる私だと思うかね?と、大佐は不敵な笑みを浮かべる。切れ長の漆黒の瞳はキラキラと輝いて、オレには青い焔が宿っているように見える。一見クールで飄々としているようにしか見えない彼だが、胸のうちには大いなる理想と野心の焔を宿している。彼はまさに存在そのものが焔なのだと、そんな彼だから、ついていってもいいと思える。
「そうだな…うん、アルの体とオレの手足取り戻したら、オレの全部をアンタにあげるよ。だから…」
―今は目一杯、オレを愛して。
そっと耳元で囁けば、恋人はこの上なく甘いながらも熱の篭った眼差しでオレを見つめて、深い深いキスをしてくれる。
「不安になったらいつでも言っておいで。そんなもの、私の焔で焼き尽くしてあげよう」
「うん…そうしてくれ」
折り重なる体と同じように、心も折り重なるのを感じる。理屈などではない。今のこの時をこうして折り重ねて、これから続く未来へと繋げていく。たくさんの想いを交換し、新たな幸せを生み出していくのだ。
―それこそがオレたちの、愛のかたち。
お久しぶりです!笹嶋樹です。何かシリアスですみません(滝汗)お約束どおり年明け前に書けました…!
いらっしゃいませ、ももこさん。
「カワウソロイ」最終話に沢山のコメントを有難うございました。
はい、中尉の静かな上にわかりにくいパニックぶり、楽しんで頂けましたか?(爆)
あの方はよくも悪くも顔色にあまり出ない方なので、きっとパニックになった時もいつもと同じ顔なのではないかと思うんですよ~(笑)
ハボックは本当に毎回こんな役回りで申し訳ないんですが、彼があのポジションにいて初めて話が生きてくるので、なくなてならない存在ということで(酷っっ)
ええ、町で死んだふりをしたカワウソを見たら彼だと思ってください(や、なんか違っ)
でも決して拾ってはダメですよ、彼・・・・エドワード以外に拾われたりしたら、きっと逆切れしますから(笑)
「貴様ーっ、エドワードではないな」←注意・カワウソ語なのでわかりません。
「何故私に声をかけたっ!?」←注意・だからカワウソ語だから通じないってば。
またランプの精とか出てきたらややこしいですしね(だから、壊したでしょ)
コメント、有難うございました。
そして、これまでこの連載にコメント・拍手をおよせ下さった皆様、またサイトのほうにわざわざ直接感想下さった方も。
長い間この連載にお付き合い下さって有難うございました。
この場をお借りしまして、皆様に心からの感謝を!
つぐみ拝
またまた、おふざけ画像発行です(笑)
まいこ様、勝手にすみません…m(__)m
タイトルどおり”くろにゃん&きんにゃん+・・・(笑)”です。
(アルはあえて、生アルにせず…!髪の毛?描き忘れちゃってた…)
一回投稿しちゃうと、病み付きになっちゃうのかしら…??笑
よだれは、あくまでも!私のイメージです…よ…?
※画像の無断掲載・複写・転写・持ち帰りをお断りします※
トントン・・・・・。
遠くで、何か音がした。
「あれ?」
うっかり居眠りをしてしまったのだろうか。
気が付くとソファに横になっていた。
そうだ自分は酷い吹雪にこの場所に足止めをくっていたのだった。
見れば暖炉の火が小さくなってきている、どうりで寒い筈だ。
ぞくりとした寒気に身体を震わせながら、エドワードはソファから起き上がった。
トントンと再び聞こえたノックの音。
慌ててドアへと近づいた。
「え~と…どなた?」
「私だ」
えっ!?
聞き間違えようのない、甘いテノールの声が外からする。
「うっ嘘だろっ!!な、なんで大佐がここに!?」
「嘘なものか、早くここを開けてくれ」
ガチャリ。
ドアを開けると。
そこにはいつもの青い軍服に黒いコートを羽織ったロイ・マスタングの姿があった。
あ・・・・れ?
そんな大佐の姿に何か、妙な違和感が頭を通り過ぎて、エドワードは暫し動けなかった。
そして何故か自分の視線は大佐の足元に落ちた。
勿論そこにはなにもある筈もなく・・・・ただの雪の地面である。
「あんたさ・・・・手ぶら?」思わず口に出たのは、自分でも思わぬ台詞だった。
「は?」
ロイは間の抜けた声でエドワードの言葉に固まった。
「や、その何か持っ来てたんじゃないかって・・」
「すまないが君を助ける為にやって来たのであって、お土産などないぞ?」
「ああ、いやそんなつもりじゃ・・・」
なんだろう、心に残る妙な違和感。
何か、何か男が持ってきていたような気がしたのだ。
お土産を?いや、何か微妙な部分が違っているような気がする。
「なんか、前にもこんなことあった・・・・ような?」
「そう、かな?」
「っぁ・・!」
突然ロイの背後を指差して、エドワードが声をあげた。
「どうした!?」
「今、なんか・・・・あんたの後ろを小さい茶色いのが横切った!」
そう言えば、ロイは慌てて振り返ったが。
既にそこには何もいない。
「キツネか何かじゃないのかね?」
「カワウソ」
「え?」
「や、なんか。今急にそんなふうに思って。三日前に助けたんだ、多分今見たような奴。あれ、カワウソだったんじゃねーかって・・・遭難しかけてたみたいでさ、あれからずっと心配で・・」
言いかけのままで、いきなりロイに抱きすくめられた。
「そんなものの心配はもういいよ、君だってここで遭難しかけていたろう?」
「っ!」
エドワードは突然の抱擁に戸惑い、動揺のあまり動けなくなってしまった。
「心配したよ、無事で・・・・よかった」
聞いたこともないようなロイの真剣な声音。
この男の声をこんなまじかで聞いたのは初めてで。
心臓は破裂しそうに跳ね上がり、煩いくらいにドクンドクンと波打っている。
身体中の熱という熱が、全部顔に集まったのではないかというぐらい・・・・顔が熱い。
「なっ・・・・なっ・・」
なにしやがる!っと、思わず振り払って殴り飛ばしてやろうと上がった手。
その時。
”自分の気持に正直に”
どこからともなく、声が聞こえた。
確かに、そう聞こえた。
上がりかけていた手から力が抜け、行き場を失って戸惑う。
「エドワード・・・・・」
低いテノールで初めて名を呼ばれれば、心臓が止まりそうになって息を飲んだ。
「大佐・・・・」
宙に浮いたままだったその手は、名を呼ばれることにより行き先を見つけ。
そのまま男の背にゆっくりと回される。
が。
ズキューン!!!!
という銃声がなった。
雪が降りしきる音の少ない世界に、それは静かな山肌を伝って反響してきた。
開け放たれたままのドアから思わず二人は外を見た。
そして暫しの沈黙ののち二人とも・・・・・何も言わずにお互いの顔を見やった。
どうやら同じ結論に至っているのは間違いないらしい。
「今の、中尉の威嚇射撃・・・・だよな?」と、エドワードが冷たい視線を投げれば。
「まずいな、もう追っ手が」と言いながらさり気なくロイは視線を逸らす。
「追っ手!?あんたっ、また仕事さぼってきたのかっ」
「君が心配で仕事が手につかなかったんだっ!」
「だからって中尉に無断で来たのかよっ!ちゃんと仕事してから来いっ」
「無茶言わないでくれ・・・・。いやそれよりエドワード、一緒に逃げよう?」
「はぁ?ふざけんなっ、中尉の標的になんのはごめんだぜ。一人で逃げやがれっ」
そう宣言すると、今度こそ躊躇いもなく男の腕を振り払って、ついでに一発げんこをお見舞いした。
カワウソは・・・・少し未練がましく、小高い丘の上からそんな二人の様子を暫し見つめていたが。
「やはり人間の感情は複雑怪奇だな。私には真似出来ない。偽者だとすぐにバレてしまう訳だ」
そう言って小さく吐息をついた。
「ずーずーしく恩返しなどといいおって」
声に振り返ると、いつの間にか長老の姿があった。
「長老・・・」
「もともとお主がランプを持ち出したから、あんなことになったんじゃろーが。しかも壊してしまいおって。その上それを恩着せがましく、どこが恩返しじゃ。さぁ、帰って冬眠のやりなおしじゃ。春になったらもっといい子を探して子孫を残して人生を謳歌すればいいじゃろ。お前はまだ若い」
そう言い諭すと、長老は山のほうへと踵を返した。
カワウソロイもそれに続きながら・・・・ふっと足を止めた。
春になったら。
そう、春になったらもう一度会いたいな。
今度は君の住む町に出かけて行こう。
そして道の真ん中で死んだふりをしてみようか。
きっと優しい君は助けてくれるだろう?
そしたらまた君に会いに行ける。
君への恩返しを口実に、君に会いに。
さぁ、今度はどんな贈り物を持っていこうか?
そんな思いを馳せながら、カワウソロイもまた長老の後に続いた。
二匹のカワウソは静かに山の奥へと姿を消して行った。
END
**************************
カステラメンバーの皆様の素敵な小説で続いて参りました「カワウソロイの恩返し」ここに完結です。
*カステラメンバーの皆様*
無事完結出来ました。皆様お疲れ様でした~(ぱちぱちぱち)
何分力不足の私の駄文での最終話練成ですので、皆様の素敵な設定・シチュエーション・お話のイメージを壊していない事を祈るばかりです。
なかなか綺麗に纏めることが出来ませんで、大変お時間頂きました・・・申し訳ありません。でも皆様と一緒にリレーさせて頂いて、とても楽しかったです。本当に有難うございました♪
*こちらにおいで下さっている皆様*
そして、最後までこちらを読んで下さった皆様、暖かい拍手・コメントを下さった皆様・・・・・本当に有難うございました。また頂いた拍手・コメントは管理人のまいこさんのご好意で、メンバー皆に見せて頂いてます。素敵なお言葉に、元気とパワーを沢山頂きました☆ 有難うございます!!
違うお題でのリレーが始まりましたら、是非また足をお運び頂けると嬉しいです。
お待ちしております~☆
つぐみ拝
ハボックが見えるように角度を変えてくれた籠を取り囲んで、皆暫し・・・・それを見入った。
まるまっている為一見すると毛皮の襟巻きのようにも見える。
だが確かにカワウソのように茶色の栗毛をした小さな生き物だ。
「こいつっ、そう!こんな奴だった。俺が助けたの」エドワードがそう言ったことにより皆、確信する。
やはりこれがカワウソという動物であると。
「生きてんの?こいつ」とエドワードが誰にでもなく問う。
だが返事より早く、カワウソの「ぐががががかっ」というイビキが聞こえてきて。
一同は絶句して、呆れた視線を向けた。
「寝てるみたいっすね・・・・・・」と苦笑いしながら籠を抱えたハボックが言った。
「起こしましょうか?」
そう言ってガチャリと銃を構えたホークアイの所業を、ロイは人事と感じ取られなかったのか慌てて制止する。
「中尉っ、その・・・・動物だし?もっと静かな起こし方で十分じゃないかね」
「お言葉ですが、大佐。ブラハは寝ぼすけですから、いつもこうして起こしますが?」
と、にっこり笑う彼女に一同は絶句し、同時にブラハに深く同情した。
きっと彼女のことだ、寝ぼすけでなくてもこうして起すに違いない。
しかしカワウソロイ´はこの籠の中身は「大切な君への贈り物」と言っていなかっただろうか?
仲間?の一匹が大切な贈り物???
誰もが眉をしかめて、そして暗黙の了解のように、皆カワウソロイ´のほうに視線を向けた。
この状況を説明出来るのは、彼以外には有り得ないだろう。
一人、否・・・・一匹だけ、その覗き込む輪に入っていなかったカワウソロイ´がゆっくりと近づいて来た。
その時。
「ふわあぁぁぁぁぁっ、うぅぅん、煩いのぅ」
と、いうノー天気な声がした。
皆誰もがその声と口調に聞き覚えがなく、脳裏を過ぎる一つの答え。
まさか。
信じられない面持ちで皆の視線が籠の中に注がれる。
そこには今しがたまで寝ていたカワウソが、大きくのびをしたかと思うと、すっくと四本の足で立ち上がった
のである。
「ハボック少尉、カワウソというのは喋るの?」ホークアイは、言いながら構えた銃の安全装置を外した。
「うわあぁぁぁぁぁぁっ、ちょっ、待ってくださいっ。落ち着いてくださいって」
籠を手に抱えたまま、ハボックは慌てて後ずさる。
「あの・・・・・中尉?もしかして、パニくってね?」
恐る、恐る、エドワードが声をかければ。
「あら、私は冷静よ?」
とあっさりと返ってくる返事。
だが、声は確かに落ち着いていたが、構えられた銃が冗談になってない。
「冷静なら銃は下ろし・・」
言いかけたロイに、さり気なく無言で銃口が向けられた。
黙れと言わんばかりの仕草にロイはその場で固まった。
「もう一度聞いていいかしら?カワウソは、喋るのかしら?」
はっきり言って八つ当たりのような言動だが、もう誰にも止められない。
「や!!普通は・・・・・っていうかっ。なんか段々俺、訳わかんなくなってきました!」
「取り合えず、撃ってみましょうか」と、物騒な発言に、ハボックは更に青くなる。
「まっ、ままままままま待ってくださいって!」
そのやり取りの最中。
「長老~っっ」
カワウソロイ´が籠に近づいたかと思うと、そう叫んだ。
「おお、そんな姿をしておるし一瞬わからなかったが、やはりお前だったか」
長老と呼ばれたカワウソは、そう言ってカワウソロイ´に話かけた。
「長老・・・・何故・・」
「うむ?」
「何故っ、中に入ってた魚、食べたんですかっ」
彼への贈り物だったのにっ、と付け加えて真剣な面持ちでカワウソロイ´はそう言った。
「ああ、うまかった・・・・ってお前、言うことが間違ってないか」
確かにそのカワウソは人語を話している。
その様子を見ていたエドワードは、思わず錬金術師的観点からその事態を観察する。
「キメラかなんかか?こいつ」
小さなカワウソをじっと見つめる。
しかし、何度見ても先日エドワードが助けたそれと大して見分けが付かない。
「いや、人間と人体練成したなのら、いくらカワウソベースでもサイズが小さすぎやしないかね」
ロイにそう言われれば、確かにその通りだ。
人語を話すのなら必ず人間との人体練成は必須だろう。
いくらカワウソベースでももっとサイズが大きくなる筈だ。
「わしはこう見えても何百年も生きておる。ぬしら人間の言語を真似るなど容易いこと」
ロイとエドのやり取りを聞いていたのか、カワウソは誇らしげにそう語った。
「だ、そうですよ?」ハボックがそう言ってホークアイを振り返れば。
彼女は大きな吐息を一つついて、構えていた銃をホルダーへと戻した。
その説明でこの複雑怪奇な状況に納得いった訳ではないのだが、取り合えず気持ちは落ち着いたようだ。
「で、どうしてあなたがそこに」
カワウソロイ´は、エドワードーの贈り物を食べられてしまったことにまだ憤りを感じているのか。
ちらりと空になった籠に視線を投げながら、長老へとそう問いかけた。
「だいたいお前のせいで目が冷めてじゃのぉ、腹がへってだな」
「私はあなたを起した記憶はありませんが?」
「何を言っとるか、ランプを持ち出しただろう?お陰で大騒ぎじゃ」
「ランプ・・・」
カワウソロイ´の手にあるのは、先程憲兵から取り返したランプ。
彼への贈り物にしようと、確かに長老のところから拝借したランプだった。
「お前・・・・・願ったろう?その姿にしてくれと」
そう言われてぎくりとなった。
「あれは・・・・・天から・・・声が」
『一つだけ、願いを叶えてあげよう』
そう、深々と雪が降り注ぐ空から確かに声がきこえた。
「だからっ!私は、一つだけの願いを口にした」
『私を人間に!あのロイ・マスタングとかいう男とそっくりの人間にしてくれっ!!』 と。
「それがランプの精の声じゃ・・・・・。本来なら願いを一つ叶えたらそのまま眠りにつく筈なんじゃが」
言いながら長老はカワウソロイ´の手にあるランプを見た。
ランプはよくよく見なければわからない程度に、僅かに発光して赤い光を放っていた。
「火をともしたか、もしくは激しい火の影響を受けたか・・・・・どちらにしろ厄介なことに暴走しておる」
火・・・・恐らくあの時、別荘を跡形もなく燃やした焔に影響を受けてしまったに違いない。
「そのランプは火に作用して力が膨張して、色々と厄介な事態を引き起こす・・・・・何十
年も前にも同じようなことがあってのぉ。あの時は一族巻き込んで大騒動だったわい。
故に持ち出し禁止とされておったものをお前が持ち出すから」
「厄介な・・・こと?」カワウソロイが聞き返せば。
「そうじゃ・・・・・例えば」
ゆったりとした口調でそう言って、長老カワウソはの~んびりと山のほうを見上げた。
「雪崩・・・・・とかな」
遠くで、ゴオォォォォォォッという地鳴りがし始めた。
誰もが聞きなれないその音にはっと顔をあげた。
山の上のほうから、確かにその音は迫ってくる。
思わず誰も皆その事態に息を飲んだ。
「言わんこっちゃない」
そう告げた長老の言葉は内容と口調が一致していない。
口調はのんびりだが、内容はとんでもないものだ。
「どうすればっ、どうすれば止められるんだよ」
長老の入った籠をゆさゆさと揺らしながら、ハボックは聞いた。
「おおっ、これあまり揺らすな」
「ハボック中尉、落ち着いて・・・・」
その事態に焦るハボックにホークアイはやんわりと制止の声をかけて遮った。
まではよかったが、次の瞬間。
しまってあった銃をさっそうと取り出して、長老の小さな頭にあてた。
「ちゅ、中尉こそっ、落ち着いてくださいっ!」
ハボックは蒼白になって止めるが、彼女は更にガチャリと安全装置を外した。
「それで?どうすれば止められるのかしら」
声音だけは冷静なまま、ホークアイは長老にそう言った。
「こっ、こっ、ここここここここここっ、壊せばいいんじゃ!、さすれば元通りじゃ!!!」
命の危険を感じて長老は、ホールドアップ状態の上擦った声でそう答えた。
「元通り・・・・?」
その言葉にカワウソロイ´が反応した。
「そうじゃ・・・・・それを壊せば元通りじゃ。何もかも、なかったことになる。お前が願う前に状態に戻る」
願う前の状態?
それでは全てがなかったことになる。
この姿になって彼と出会ったことも、そして彼への求愛行動も、恩返しも・・・・・全て?
いや。
恩返し・・・・そうだ、これこそが彼への恩返しだ。
この事態から彼を救うことこそが、自分が今出来る唯一の恩返し。
「・・・・・・わかりました」
カワウソはそう言うと黙って皆に背を向けて、地鳴りのする山を見据えた。
「お・・・・おい?」
エドワードは思わず声をかけた。
「私は人の真似は出来ても、人にはなりきれない。だから君が何故あんなに心の中で大事にしていた思いを否 定したのかは、すまないがよく理解出来ない。でもこれだけは胸を張って言える。自分の気持ちには正直であるべきだ」
「カワウソ・・・・・」
地鳴りが近くなり、雪崩が押し寄せる様が目視出来るところまで近づいてきた。
カワウソロイ´は黙ってそれを見据えている。
「私は、助けてくれた君に恩返しがしたいと思った。だから君が喜ぶことをしたかった。私の世界ではね全てはシンプルなんだよ。食事も、求愛も、全ての行動が自分の素直な欲求から始まる。私は偽者だったかもしれないけど、人間もそういうところは見習うべきだな」
「待てよ!俺、あんたの事偽者だなんて思ってない。あんたがくれた思いは本物だろ?思いには答えられないけど・・・・・・。でもそのあんたの気持ち、俺、嬉しかった」
「そうか・・・・、よかった」
カワウソは振り返ることなく、手にしていたランプを近くの岩の表面に叩き付けた!
ガシャーン!!
派手な音がしてランプが割れた。
その反動で、カワウソロイ´の背からはらりと、ハボックの黒いコートが滑り落ちた。
だが現れたのは何も着ていないカワウソロイ´ではなく。
ただの、一匹の、小さなカワウソ。
エドワードは目を見開いた。
ああ、ホントだ。
お前、あの時助けた奴だ。
お前、本当にカワウソだったんだな。
壊れたランプから光が広がる。
錬成光とはまた違った激しい閃光が辺り一面の銀世界を覆った。
その光に誰もが皆、目を覆った。
***************************
って・・・終ってないっ!?
や、あまりに長くなったので、エピローグを・・・・(汗)
ノリヲさんにそんなに長くなりませんよ、と言ったのはどこのどいつだ~いっっ!?(←私だよっっ)
はい、エピローグもあと少し調整したら、すぐにアップに参ります。
すみませっ。
つぐみ拝